本記事では、クリニックで発生する経理業務について、どのような業務があるのか、効率化するためのポイントは、経理についてアドバイスを聞くときは誰が良いのか、などについて解説をしていきます。本記事をお読みいただくことで、クリニックにおける経理の基礎を理解することができます。
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- クリニックにおける経理にはどのような業務があるのか?
- クリニックの経理において最低限必要な知識とは?
- クリニックの経理・税務における基礎知識
- クリニックの経理業務を効率化する考え方
- クリニックにおける経理業務のIT化とは?
- クリニックにおける経理業務効率化の支援
- クリニックにおける経理のポイント
- クリニックにおける経理アウトソーシング
- クリニックに発生する税金の種類
- クリニックにおける税金の計算方法
- 税金計算におけるクリニックにおける入金フロー
- 税金計算におけるクリニックおける保険請求収入の処理について
- クリニックの経理処理:小口経費等の支払い
- 事業と家計の収支を分離する重要性
- クリニックの経理における家事関連費
- クリニックにおける経費の計算方法と特例について
- クリニックの社会保険診療報酬の所得計算の特例(概算経費率)
- クリニックの経費に必要な書類等
- クリニックの経理の注意点
- クリニックの経理についてポイントのまとめ
クリニックにおける経理にはどのような業務があるのか?
クリニックにおける経理業務にはどのようなものがあるのでしょうか?まず考えられるのが、記帳業務になります。記帳業務は日々の取引を帳簿に記録する業務になりまして、取引の発生の都度入手する証憑に基づいて行います。例えば、売上であれば健康保険からの収入は、レセプトが証憑となって計上しますし、患者さんからの収入はPOSからの売上に基づいて計上します。経費関連については、給与は実際に給与として計算した額を計上し、その他経費については発生の都度経費として計上していきます。クリニックにおける記帳業務の特徴として、取引量が他業種と比較しても多くなることが一般的ということです。日々のクリニックの業務の中で患者さんとのやりとりや、器具などを取引先とやりとりしたりするため、証憑も多くなりがちなのです。
2つ目に考えられる業務としては、従業員に対する給与支払業務になります。クリニックの場合は看護師や受付スタッフ等に対する給与支払いになります。給与支払いは支払うべき給与を単純に計算するのみならず、所得税上必要な源泉徴収金額を計算して、従業員から徴収した上で税務署へ納付する必要があったり、その他住民税や社会保険についても計算をして従業員から徴収した上で、それぞれ納付が必要となります。源泉徴収は原則毎月徴収と納付が必要ですが、従業員の数が一定規模以下の場合には事前に税務署へ届出を提出することで、半年に一回の納付に事務負担を軽減させることが可能です(この場合、半年分をまとめて税務署へ納付することになり、源泉徴収の金額が減額されるわけではないので、ご留意ください)。
上記の給与計算に関連して、年末には年末調整業務が発生します。この年末調整は、毎月の源泉徴収金額に過不足が発生するため、年末で過不足を計算し、追加で従業員から徴収して税務署へ納付する、もしくは徴収し過ぎた場合には従業員へ返金する必要があります。年末調整業務にあたっては従業員の扶養状況や、従業員が保有している保険について確認をする必要があります。
3つ目に考えられるのは、取引先に対する支払業務になります。クリニックの場合支払い先も多くなってくるため、漏れなく、遅延のないように支払いを行なっていく必要があります。また金融機関からの借入がある場合には、その返済についてもしっかりと行う必要があります。支払い遅延を起こすと取引先からの信用を失うだけでなく、金融機関の場合は最悪融資を引き上げられる可能性(契約の内容によります)もありますので、支払い業務は慎重な対応が必要となります。
クリニックの経理において最低限必要な知識とは?
クリニックの経理において、最低限必要な知識はなんでしょうか?ご自身で経理を行う場合は簿記の知識が必要になります。また税務申告もご自身で行う場合は、個人事業主の方のケースでいくと、所得税・消費税の申告書の書き方は学習する必要があるでしょう。
ご自身で経理を行わない場合であっても、経理担当の業務を管理するために簿記の知識や支払業務などの基礎知識は必要となってくるでしょう。
クリニックの経理・税務における基礎知識
個人の所得にはどのような種類があるか?
以下のようなものがあります。
・給与所得
・退職所得
・配当所得
・利子所得
・一時所得
・雑所得
・不動産所得
・事業所得
・譲渡所得
・山林所得
所得とは?
所得とは、収入から経費を差し引いた差額になります。収入と経費については後述します。
収入とは?
収入とは、クリニックでいうと、事業から得られた収入全てを指します。具体的には保険料収入、自由診療に基づく収入などがあります。
経費
経費とは、収入を得るために使用した支出です。事業に関するもの以外、例えばプライベートで使用したものは経費になりません。
家事関連費
個人事業主の場合、自宅を事業所として使っている場合は、自宅として使用している部分と事業として使用している部分があります。事業として使用している部分を合理的に算定し、経費計上します。これを家事関連費と言います。
クリニックの経理業務を効率化する考え方
クリニックの経理業務は上記の通り非常のボリュームも多く煩雑ですが、これらの業務を効率化する考え方はあるのでしょうか?経理業務効率化の考え方は、①ITツールを導入して業務を自動化する、②人の手がどうしても介在する部分については外部のプロへ依頼することを検討する、の2段階となります。①については近年のトレンド用語ですとDX化と言ったりしますが、全ての業務を従業員が手作業で行なっていると、そもそも管理も大変ですし属人的なオペレーションになるため退職した際に業務が引き継げないなどの障害が発生してしまいます。考え方として、なるべくITツールを導入して業務は標準化(マニュアルがあれば誰でもできるようにしておく)しておき、自動化する(人による手作業を介在させない)というのが業務効率化への1歩です。
クリニックにおける経理業務のIT化とは?
クリニックにおいて経理業務をIT化する手法としては、まず経理業務の中心となる記帳業務や支払い業務、給与計算業務についてソフトウェアを導入していくということです。レセプトについては非常に特殊ですので専用のソフトウェアが必要になってきますが、それ以外のバックオフィス業務については他の業種とほぼ変わらないため一般的な汎用ソフトを活用することができます。特に近年ではクラウドソフトのように月額低料金で気軽に使えるツールが増えてきているため、ソフトウェア導入のハードルは非常に低くなっています。
IT化を進めるにあたって非常に重要なポイントは、経理業務の流れは必ずソフトウェアの標準的な業務の流れに合わせるということです。属人的な作業やエクセルでの記録などが増えてくると、業務がどんどん属人化していきます。それを許してしまうといつまで経っても業務が効率化されないため、なるべくソフトウェアに従って業務を組み立てていくということが重要です。またもう一つのポイントとしては、ソフトウェア間の自動連携機能を最大限活用することです。クラウドソフトの魅力の一つとして手軽にソフトウェア間のデータ連携ができるというものがあります。データ連携が自動でない場合には、各ソフトウェアからデータを連携して、他のソフトウェアの仕様に合わせてデータを作り替えてアップロードする、という非常に手間のかかる作業が発生するため、データ自動連携は経理業務を効率化する上で非常に重要なポイントになります。
クリニックにおける経理業務効率化の支援
上記のようにクリニックにおける経理業務の内容や、経理業務効率化のポイントについて解説をしてきました。一方で、これらをご自身で全て導入するのは非常に難易度が高いと感じたと思います。そこで、どのような人にクリニック経理業務の効率化を相談すれば良いのでしょうか?個人的なお薦めとしてはDXやITに強い税理士になります。経理業務の効率化においては、ITに関する知識が必要であると同時に、経理や税務に関して知見のある人が一番ベストな相談相手になります。税理士の中には、DXや会計ソフト導入支援を強みとしている人もいるので、このような税理士が良い相談相手になるでしょう。また経理業務は最終的にクリニックの決算書作成や確定申告書作成に繋がってきます。会計ソフトを導入する段階で意識して進めていかないと、経理業務は効率化したが決算書や確定申告書の業務は効率化できなかった、という中途半端な効率化になってしまいます。決算書や確定申告書には非常に深い会計・税務知見が必要になるため、その視点からも税理士が最適ということです。
クリニックにおける税理士の活用については、クリニックに強い税理士を探す方法、という記事を過去に作成しておりますので、こちらも併せてご参考ください。
クリニックにおける経理のポイント
帳簿作成・決算書作成
経理のポイントとして、帳簿作成・決算書の作成は大変重要です。なぜなこの帳簿と決算書を基礎として税務申告書が作成されるため、ここでミスが発生してしまうと税務申告書にも誤りが発生し、結果として加算税のようなペナルティを受けることがあるからです。後述するアウトソーシングを活用するのも一つの手になります。
帳簿における正確な記録
ミスを行わないためにも、帳簿に対する正確な記録をしていくことが大変重要です。決算書は日々の帳簿に基づいて作成されます。この日々の取引を正確に記録できていないと、決算書が誤ってしまうことになります。
税金の支払い時期
税金については後述しますが、個人の方の場合は毎年3月15日までに前年分の所得を確定申告して、税金を納付する必要があります。法人については設定した決算期の2ヶ月以内に確定申告を行い、税金を納付する必要があります。税金の支払時期が遅れる場合には延滞税や無申告加算税などのペナルティを受けることになります。
クリニックにおける経理アウトソーシング
アウトソーシングとは、クリニックにおける業務の一部を外部のプロフェッショナルに任せることを言います。ここでは主にクリニックにおける経理のアウトソーシングについて解説をします。
クリニックにおける経理アウトソーシングの範囲
クリニックにおける経理アウトソーシングの範囲はどれぐらいでしょうか?主には、支払業務の代行、記帳業務の代行、給与計算業務の代行、そして税務申告の代行になります。税務申告については税理士もしくは税理士法人しか対応することができません。
クリニックにおける経理アウトソーシングのメリットとは?
クリニックにおける経理アウトソーシングのメリットとはどのようなものでしょうか?大きくはコストを適切化できるという点、本業に集中できる、そしてプロによるサポートのもとミスをなくせるという3点と考えられます。
クリニックに発生する税金の種類
クリニックに発生する税金の種類について解説をしていきます。細かい制度は通常の企業と異なってくるのですがかかる税金の種類は同じでして、個人の運営するクリニックであれば、所得税、個人住民税、事業税、消費税が対象となってきます。また機器等については固定資産税が課されることになります。医療法人の場合は、法人税、法人住民税、法人事業税、消費税が該当してきます。
クリニックにおける税金の計算方法
クリニックにおける税金の計算方法ですが、ここでは個人で運営するクリニックを想定して解説をしていきます。原則は、収入から必要経費を差し引いた所得に対して税率をかけることで税額を計算します。所得は所得税において10種類存在しており、それぞれどのように税率をかけるか、もしくは何%をかけるかが異なってきます。
収入
主に、患者さんから入ってくる自由診療の料金や社会保険の料金(患者さん負担部分)、及び保険部分の収入(患者さん非負担部分)から構成されます。
収入計上のタイミング
収入はどのタイミングで税法上計上するのでしょうか?原則としては、実際に入金がなくてもその請求権が確定している段階で収入計上することになります。例えば保険料部分の収入が未収だったとしても請求が確定しており、入金のタイミングが1ヶ月後などの場合は、未収金として収入計上することになります。
必要経費
クリニックを運営する上で生じる費用です。例えば、看護師や受付などの人件費、導入した機械や医療機器などの減価償却費、借入金がある場合にはそれにかかる支払利息など、が該当します。
所得
上記の収入から必要経費を控除すると所得金額が算定されます。クリニックの場合は通常事業所得に該当することになります。
事業所得以外の所得の種類
事業所得以外にはどのような所得があるのでしょうか?以下のようなものが存在しております。
・利子所得
・配当所得
・不動産所得
・一時所得
・雑所得
・給与所得
・退職所得
・譲渡所得
・山林所得
税金計算におけるクリニックにおける入金フロー
前述の通り収入は、保険診療の場合患者さんに負担してもらう部分の入金(通常は診療後に患者さんから支払いを直接受ける)と、保険料として収受する部分があります。保険料部分についてはレセプト請求によって社会保険支払基金・国民健康保険連合会より後日入金があるため、請求時から入金時まで若干のタイムラグがありますが、あくまで収入は請求確定時に行うことになります。
税金計算におけるクリニックおける保険請求収入の処理について
健康保険
クリニックにおける保険請求収入についてはどのように処理を進めていくのでしょうか?レセプト請求した後については、社会保険支払基金と国民健康保険連合会から入金を受けることになります(ただし、レセプト請求した内容を精査して必要に応じて再提出や減点されることもあります)。
自賠責保険・労災保険
社会保険でなく、自賠責保険や労災保険に対応したクリニックもあるかと思います。社会保険支払基金と国民健康保険連合会の場合は請求から入金までが2ヶ月となりますが、労災保険や自賠責保険についてはそのようなルールがなく、さらに長くなることもあるので注意が必要です。
クリニックの経理処理:小口経費等の支払い
小口経費
小口経費とは、レジの釣り銭以外で使用する少額の経費支払いで、現金で支払うものです。普通預金から引き出しして、1週間単位で使用し、不足分は預金から引き出す形になります。
大口経費の場合
医薬品等、取引先への支払いが該当します。一般的には銀行送金となりますので、支払い管理表を作成するとともに、個人事業主の方は口座を分けるなどしてプライベートと混ざらない工夫が必要です。
口座引落
水道光熱費のように毎月自動で引き落とされるものです。クレジットカード登録して口座から引き落とされるものもここに該当します。
従業員に対する給与・賞与支払い
従業員に対して給与や賞与を支払う場合も毎月同日に銀行送金することになります。これは大口経費と同じように管理するのが良いでしょう。
事業と家計の収支を分離する重要性
クリニックの場合、一般的には個人事業主として展開している場合が多いと思いますが(逆に法人の場合は医療法人を設立して運営するケースになります)、個人事業主の場合はプライベートで使う費用(家計部分)と事業で使う費用(クリニックにかかる費用)が混在しがちなので、経理を行うにあたってはしっかりと分ける必要があります。
クリニックの経理における家事関連費
前述の通り、クリニックの経理処理を行うにあたって、家計と事業を分けることは税務申告の観点からも非常に重要です。明確に家計部分と事業部分を分けられる場合は良いですが、携帯料金や住居と診療する建物が一緒になっているなどのケースもあると思います。この場合は一定の合理的な基準に基づいて、家計で使用した部分と事業で使用した部分を分けることになります。これを家事按分と呼びます。家事按分が適切に行われない場合、税務申告の税務調査において経費の一部を否認される可能性があり、否認される場合は加算税などのペナルティを受ける場合があります。
クリニックにおける経費の計算方法と特例について
上記のように経費については事業にかかる部分についてのみ税法上は計上することが可能です。原則としては、経費にかかる取引を1つづつ正しく帳簿付して、それに基づいて経費計上する方法ですが、特例計算が存在しています。こちらは個人事業主であるクリニック、医療法人の双方に認められた仕組みで、一定の規模以下の個人もしくは法人については、個々の取引を経費計上する方式ではなく、収入の一定割合を経費として計上する方法を選択することが可能です。
クリニックの社会保険診療報酬の所得計算の特例(概算経費率)
前述した概算経費率について解説をしていきます。適用できるクリニックは、①社会保険診療につき支払いを受けるべき金額が5,000万円以下、かつ②総収入金額の合計額が7,000万円以下、になります。社会保険診療以外は自由診療を指しています。
当該制度は事前届出は特に必要ではなく、確定申告の際に原則的に経費計上する方法を選ぶか、概算経費率による方法を採用するかを選択することが可能です。そのため、確定申告の際にどちらが課税上有利かを選んだ上で、確定申告書を作成・提出することができます。
クリニックの経費に必要な書類等
クリニックに必要な書類等の確認
クリニックにおいて必要な経費書類とはどのようなものがあるのでしょうか?例を挙げると、領収書、請求書などの所謂証票と呼ばれるものや、決算書や総勘定元帳などの帳簿書類などが挙げられます。
クリニックにおける書類等の保存期間
保存期間は原則7年となりますが、書類や状況によって異なるため、税務署等のホームページを利用しながら確認するようにしましょう。顧問税理士がいる場合は的確なアドバイスをもらうことが可能です。
クリニックの経理の注意点
クリニックの経理における注意点は以下のようなポイントが挙げられます。
正確な記帳・記録ができていること
まずは、税務申告をするにあたり、正確な記帳・記録ができていることが大切です。この段階で間違えてしまうと、決算書や税務申告書の段階でも誤ってしまうため、日々の記帳や記録をしっかりと対応しておくことが重要です。
正しい決算書の作成
決算書は帳簿に基づいて作成され、税務申告書を作成する基礎となります。そのため、決算書に誤りがあると、税務申告書も誤ってしまうため、正しい決算書の作成が重要です。
期限内の税金の納付
税務申告書を作成して提出するだけではダメです。納税が必要な場合は、税務署に納税をして完了となりますので、忘れずに納付するようにしましょう。
クリニックの経理についてポイントのまとめ
以上のように、クリニックの経理のポイント等について解説を行ってきました。本記事をご参考にいただいて、ぜひクリニックの経理業務の効率化に役立ててください。
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この記事の作成者
宮嶋 直 公認会計士/税理士
京都大学理学部卒業後、大手会計事務所であるあずさ監査法人(KPMGジャパン)に入所。その後、外資系経営コンサルティング会社であるアクセンチュア、大手デジタルマーケティング会社であるオプトの経営企画管掌執行役員兼CFOを経験し、現在に至る。