クリニックのコスト削減方法について徹底解説

経営

クリニックの経営。それは地域医療に貢献するという崇高な使命を果たすと同時に日々の収益と支出を管理し組織を維持・発展させていくという「経営」そのものです。多くの院長先生が臨床のプロフェッショナルである一方で経営の専門家ではありません。

日々の診療に追われる中で人件費の管理医薬品や診療材料の仕入れ価格広告宣伝費のバランスなどコストに関する悩みは尽きないものです。「診療は順調なはずなのに思ったように利益が残らない」「最新の医療機器を導入したいが資金的な余裕が生まれない」「スタッフの給与を上げたいが原資がない」。こうした悩みは経営者として当然のものです。

コスト削減は単に支出を切り詰める「節約」とは異なります。それはクリニックの経営体質を強化し無駄をなくしそれによって生み出された貴重な経営資源(資金や時間)を医療の質の向上やスタッフの待遇改善患者満足度の向上といった「未来への投資」に振り向けるための極めて重要な経営戦略です。

しかしその進め方を誤れば医療の質や患者満足度スタッフのモチベーションを低下させかえって経営を悪化させる危険な「劇薬」にもなり得ます。

この記事ではクリニック経営者が直面するコスト削減の課題に対しその目的の明確化から具体的なステップ削減方法そして外部の専門家特に税理士をいかに活用すべきかまでを網羅的かつ徹底的に解説していきます。

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クリニックのコスト削減方法について徹底解説

  1. クリニックのコスト削減の目的及び目標を明確化するところからスタート
    1. コスト削減の「目的」を定める
      1. 経営の安定化(赤字脱却)
      2. 利益の創出(未来への投資)
      3. 業務効率化(リソースの再配分)
    2. 目的を具体的な「目標」に落とし込む
      1. SMARTな目標設定
  2. クリニックのコスト削減のためのステップ整理
    1. ステップ1:現状把握と「見える化」
      1. コストの分類
    2. ステップ2:削減対象の優先順位付け
      1. 削減すべきでない「聖域」
      2. 優先的に削減すべき対象
    3. ステップ3:具体的な実行プランの策定
    4. ステップ4:実行とモニタリング
  3. クリニックにおいて具体的に削減できる経費等
    1. 医薬品費・診療材料費(変動費)
    2. 人件費(固定費)
    3. 地代家賃(固定費)
    4. 広告宣伝費
    5. 水道光熱費・通信費・消耗品費
  4. クリニックにおいてコストを削減する具体的な方法
    1. 医薬品・診療材料費の削減
      1. 在庫管理の徹底(適正在庫の維持)
      2. 仕入れ価格の見直し
      3. ジェネリック医薬品(後発医薬品)の活用
    2. 人件費の最適化(生産性向上)
      1. シフトの最適化と多能工化
      2. IT・システムの活用による業務効率化
    3. その他の経費の削減
      1. 地代家賃の交渉
      2. リース契約の見直し
      3. 電力・ガス会社の切り替え
      4. 印刷費・通信費の削減
  5. クリニックにおいてコストをお金をかけずに実現する方法
    1. 業務プロセスの徹底的な見直し
    2. 5S活動の徹底
    3. スタッフの意識改革と提案制度
  6. クリニックにおいてコストを削減するにあたって注意すべきこと
    1. 医療の質と安全性を犠牲にしない
    2. 患者満足度の低下を招かない
    3. スタッフのモチベーション低下(不公平な人件費削減)
  7. クリニックのコスト削減は自力でできるのか?
    1. 自力でできる範囲
    2. 専門家が必要となる限界
      1. 客観的な財務分析とベンチマーキング
      2. 専門的な税務・会計知識
      3. 金融機関との交渉
      4. 内部のしがらみによる改革の頓挫
  8. クリニックにおいてコストを削減を実現するために外部コンサルタントを利用するメリット
    1. 客観的な視点(「聖域」なき分析)
    2. 豊富な専門知識と他院事例
    3. 改革の「推進力」
  9. コンサルタントは税理士がおすすめな利用
    1. 医院経営の「数字」を最も深く理解している存在
    2. 節税とコスト削減の連動
    3. 金融機関の視点を熟知
    4. 医療法人特有の会計・税務への対応
  10. クリニックのコスト削減方法についてよくある質問の例と回答
    1. Q. コスト削減でスタッフの給与を下げるのは最後の手段ですか?
    2. Q2. 広告費を削りたいのですがどのぐらいが適正ですか?
  11. まとめ

クリニックのコスト削減の目的及び目標を明確化するところからスタート

コスト削減に取り組み始める前に最も重要なことは「なぜコストを削減するのか」という目的と「いつまでに何をどれだけ削減するのか」という具体的な目標を明確に設定することです。この最初の羅針盤がなければコスト削減活動はすぐに迷走してしまいます。

コスト削減の「目的」を定める

なぜコストを削減したいのでしょうか。その動機はクリニックの状況によって様々です。

経営の安定化(赤字脱却)

まずは経営の存続が第一です。支出が収入を上回り赤字が続いている状態であればコスト削減はクリニックを守るための緊急的な「治療」となります。この場合の目的は明確に「赤字経営から脱却し単月黒字化を達成すること」です。

利益の創出(未来への投資)

経営は安定しているものの現状維持で手一杯という場合コスト削減は「未来への投資原資」を生み出すための活動となります。「最新の医療機器を導入するために年間〇〇円の利益を創出する」「スタッフの待遇を改善しモチベーションを高めるために〇〇円の原資を確保する」。こうした前向きな目的がスタッフの協力を得る上でも重要です。

業務効率化(リソースの再配分)

お金の削減だけでなく「時間」というコストの削減も重要です。「看護師が物品管理に時間を取られすぎている」「受付の事務作業が煩雑すぎる」。こうした業務の無駄(時間コスト)を削減し本来集中すべき患者対応や診療補助といったコア業務にリソースを再配分することも立派な目的です。

目的を具体的な「目標」に落とし込む

目的という「方向性」が決まったら次に必要なのは「目標」という具体的なマイルストーンです。目標は測定可能でなければなりません。

SMARTな目標設定

優れた目標設定のフレームワークとして「SMART」が知られています。

  • Specific(具体的に): 誰が何をするのか。「経費を削減する」ではなく「〇〇(担当者)が診療材料Aの仕入れ先を見直す」。
  • Measurable(測定可能に): 「〇〇のコストを10%削減する」「発注にかかる時間を月5時間短縮する」。
  • Achievable(達成可能に): 現実離れした目標(例:人件費を半分にする)は現場の士気を下げるだけです。現実的に達成可能なラインを見極めます。
  • Relevant(目的に関連して): 設定した目標が「経営の安定化」や「未来への投資」といった上位の目的にしっかり関連しているか。
  • Time-bound(期限を設けて): 「いつまでに」達成するのか。「6ヶ月以内に」など明確な期限を設定します。

例えば「医療の質を維持しつつ半年以内に医薬品の仕入れコストを5%削減する」といった目標が立てられます。この目標の明確化こそがコスト削減の第一歩です。


クリニックのコスト削減のためのステップ整理

目的と目標が定まったら次はいよいよ実行です。しかしやみくもに手をつけてはいけません。コスト削減は外科手術と同じで正しい手順(ステップ)を踏まなければなりません。

ステップ1:現状把握と「見える化」

まず自院の「健康状態」を正確に知ることから始めます。手術の前に精密検査を行うのと同じです。 過去1年分の決算書(損益計算書)や毎月の試算表を準備し「何に」「いくら」使っているのかを全ての項目で洗い出します。

コストの分類

この時コストを「変動費」と「固定費」に分類すると分かりやすくなります。

  • 変動費: 患者数の増減に比例して変動する費用です。医薬品費診療材料費検査外注費などが該当します。
  • 固定費: 患者数に関わらず毎月一定にかかる費用です。人件費地代家賃リース料水道光熱費などが該当します。

特にクリニック経営における三大コストは「人件費」「医薬品・材料費」そして「地代家賃」と言われます。これらの大きな項目が売上に対してどれくらいの割合(コスト比率)を占めているのかを把握することが「見える化」の第一歩です。

ステップ2:削減対象の優先順位付け

全てのコストが「見える化」できたら次に「どこから手をつけるか」の優先順位を決めます。ここで重要なのは「聖域」を作らないことと同時に「手を付けてはいけない領域」を明確にすることです。

削減すべきでない「聖域」

コスト削減の目的はあくまでも医院の持続的な成長です。以下の領域を安易に削るとかえって経営を悪化させます。

  • 医療の質と安全に直結するコスト: 滅菌消毒費用安全管理のための研修費用など。
  • 患者満足度に直結するコスト: 患者さんの快適性を著しく損なうような備品の削減など。
  • スタッフのモチベーションに関わるコスト: 不公平な給与カットや必要な福利厚生の廃止。

優先的に削減すべき対象

優先的にターゲットとすべきは「ムダ」です。

  • 過剰な在庫: 使用期限切れで廃棄している医薬品や過剰にストックされている診療材料。
  • 非効率な業務プロセス: 二度手間になっている事務作業や無駄な残業。
  • 費用対効果の低い支出: 効果の測定できない広告宣伝費や割高なまま放置されているリース契約。

ステップ3:具体的な実行プランの策定

削減対象の優先順位が決まったら誰がいつまでに何を実行するかを具体的なアクションプランに落とし込みます。 例えば「医薬品・材料費の削減」がターゲットなら「担当者を決め3ヶ月以内に全品目の仕入れ価格と在庫状況をリスト化する」「その後2ヶ月かけて主要取引先2社と価格交渉を行う」といった形です。

ステップ4:実行とモニタリング

計画は実行しなければ意味がありません。プランに基づきコスト削減策を実行します。 そして最も重要なのが「モニタリング(効果測定)」です。毎月の試算表で削減対象とした経費が計画通りに減少しているかをチェックします。もし計画通りに進んでいなければその原因(現場の抵抗か計画自体の無理か)を分析し再度プランを見直します。このPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)を回し続けることがコスト削減を一時的なイベントで終わらせないコツです。


クリニックにおいて具体的に削減できる経費等

クリニックの損益計算書には様々な経費項目が並んでいますがその中でも特に削減の余地が大きくインパクトも大きい主要な経費項目について解説します。

医薬品費・診療材料費(変動費)

医業収入(売上)に比例して発生する変動費でありクリニック経営における最大のコストセンターの一つです。この比率(原価率)をいかにコントロールするかが利益確保の鍵となります。 特に診療科によっては(例えば皮膚科の薬剤や歯科の材料など)この原価率が経営を大きく左右します。使用期限切れによる廃棄ロスや過剰在庫は純粋なムダであり真っ先に削減対象となります。

人件費(固定費)

経営における最大の固定費であり最も扱いの難しいコストです。看護師医療事務理学療法士歯科衛生士など多くの専門スタッフによって医療は成り立っています。 ここで言うコスト削減は安易な「給与カット」や「リストラ」を意味しません。それを実行すればスタッフのモチベーションは地に落ち優秀な人材は流出し医療の質が低下し結果として患者離れを招きます。 ここでの焦点は「労働生産性の向上」です。無駄な残業が発生していないかシフトの組み方に非効率はないかスタッフのスキルアップにより少ない人数で高いパフォーマンスを発揮できないかといった「質の高い」コスト管理が求められます。

地代家賃(固定費)

開業時に決定されるため削減が最も困難な固定費ですがそのインパクトは絶大です。特に都心の一等地で開業している場合売上の大きな割合を家賃が占めているケースも少なくありません。 契約更新のタイミングでの賃料交渉や場合によってはクリニックの分院展開や移転の際に現行の立地が本当に最適かを見直すといった長期的な視点も必要です。

広告宣伝費

新規患者の獲得(集患)のために必要な投資ですが同時に「聖域」なく費用対効果(ROI)を検証すべき費用でもあります。 なんとなく続けている駅看板や効果測定のできない雑誌広告に多額の費用をかけていないでしょうか。Web広告(リスティング広告やSNS広告)のクリック単価やコンバージョン率(予約への転換率)を測定し効果の低い広告から見直す必要があります。

水道光熱費・通信費・消耗品費

一つひとつの金額は小さくても積み重なると大きな差になるのがこれらの経費です。 日々の節電節水はもちろんのこと電力会社やガス会社の契約プランの見直し(自由化による)はすぐにでも着手できる削減策です。またスタッフが使う文房具やコピー用紙といった事務消耗品も管理ルールを決め無駄をなくす努力が求められます。


クリニックにおいてコストを削減する具体的な方法

削減できる経費項目が分かったところで次にそれらを「どうやって」削減していくのか具体的なアクションプランを紹介します。

医薬品・診療材料費の削減

在庫管理の徹底(適正在庫の維持)

最も重要かつ基本的な方法です。

  • 在庫リストの作成: まず現在クリニックにある全ての医薬品と材料をリスト化しそれぞれの単価と数量を把握します。
  • 使用期限の管理: 使用期限が近いものから先に使う「先入先出」を徹底し期限切れによる廃棄ロスをゼロにします。
  • 適正在庫の設定: 過去の使用実績に基づき「最低でも〇個最大でも〇個」といった品目ごとの適正在庫基準を決めます。これにより過剰発注を防ぎます。
  • 定期的な棚卸: 月に一度あるいは四半期に一度必ず実地棚卸(現物を数える)を行い帳簿上の在庫数とのズレを確認し原因を究明します。

仕入れ価格の見直し

  • 相見積もり: 現在取引している卸業者だけでなく他の業者からも定期的に見積もりを取り価格を比較します。
  • 価格交渉: 他社の見積もりや過去の購入実績を基に既存の取引先に対して価格交渉を行います。「いつもお世話になっているから」という情熱だけで取引先を決めるのは経営者として不十分です。
  • 共同購入: もし近隣に懇意にしているクリニックがあれば消耗品などを共同で購入しボリュームディスカウントを引き出すという方法も考えられます。

ジェネリック医薬品(後発医薬品)の活用

国も推奨しているジェネリック医薬品(後発医薬品)を積極的に採用することで薬剤費を大幅に削減できる可能性があります。もちろん患者さんの同意と理解が大前提ですが院内で処方する薬剤の採用基準を見直すことは有効な手段です。

人件費の最適化(生産性向上)

シフトの最適化と多能工化

人件費削減は給与カットではありません。「労働生産性の向上」が本質です。

  • シフト管理: 患者さんの予約状況や来院数の曜日・時間帯別データを分析し混雑する時間帯に人員を厚くし閑散期の人員は減らすなどメリハリのあるシフトを組みます。
  • 多能工化: 受付スタッフが簡単な診療補助(器具の準備など)もできるようにするあるいは看護師がレセプト業務の一部を理解するなど一人のスタッフが複数の業務をこなせるよう(多能工化)教育します。これにより最小限の人数で効率的にクリニックを運営できます。

IT・システムの活用による業務効率化

人の手で行っている定型業務をテクノロジーで代替することも人件費の最適化に繋がります。

  • Web予約・自動受付: 電話予約や窓口での受付業務をWeb予約システムや自動受付機(キオスク端末)に置き換えることで受付スタッフの負担を大幅に軽減できます。
  • 電子カルテ・レセコン: 紙カルテからの脱却は情報共有のスピードを上げレセプト(診療報酬請求)業務のミスを減らし事務作業時間を劇的に短縮します。
  • Web問診: 来院前に患者さんにスマートフォンで問診票を入力してもらうことで紙の問診票を電子カルテに転記する手間を削減できます。

その他の経費の削減

地代家賃の交渉

最も難しいコスト削減ですが不可能ではありません。契約更新のタイミングは交渉のチャンスです。近隣の賃料相場が下がっている場合そのデータを基に家賃の減額交渉を行う余地はあります。ただしこれは大家さんとの関係性を損なうリスクもあるため専門家(コンサルタントや弁護士)に相談しながら慎重に進めるべきです。

リース契約の見直し

医療機器のリース契約は一度結ぶと長期間縛られます。現在支払っているリース料率が適正か契約満了時に再リースや買い替えをする場合より有利な条件のリース会社はないかを見直します。

電力・ガス会社の切り替え

2016年以降の電力・ガス自由化により契約先を自由に選べるようになりました。現在の契約プランを見直しより安価な新電力やガス会社に切り替えるだけで水道光熱費を数パーセントから十数パーセント削減できる可能性があります。

印刷費・通信費の削減

紙カルテや紙のレセプトを使用している場合それは膨大な紙代と印刷コストを生んでいます。電子カルテへの移行は最大のペーパーレス化です。 また患者さんへのリコール(定期検診のお知らせ)をハガキからSMS(ショートメッセージ)やEメールLINEなどに切り替えることで通信費と印刷費人件費を同時に削減できます。


クリニックにおいてコストをお金をかけずに実現する方法

コスト削減には新しい機器の導入など逆にお金がかかるものもあります。しかしお金を一切かけずに「知恵」と「実行力」だけで実現できるコスト削減も数多く存在します。

業務プロセスの徹底的な見直し

最大の「ムダ」は日々の業務プロセスの中に隠されています。 「なぜこの書類には院長の印鑑が必要なのか」「なぜこの情報はExcelと紙台帳の両方に転記しているのか」「患者さんの待ち時間が長い根本原因はどこにあるのか」。 スタッフ全員で日々の業務フローを書き出し「これは本当に必要な作業か」「もっと簡単な方法はないか」を問い直すことで多くのムダを発見し時間という最大のコストを削減できます。

5S活動の徹底

製造業などでよく知られる「5S」はクリニックのコスト削減にも絶大な効果を発揮します。

  • 整理(Seiri): 必要なものと不要なものを分け不要なものを捨てる(使用期限切れの薬剤の廃棄など)。
  • 整頓(Seiton): 必要なものを誰でもすぐに取り出せるように置き場所を決め表示する(診療材料の定位置管理)。
  • 清掃(Seiso): 常にきれいな状態を保つ(医療安全の基本)。
  • 清潔(Seiketsu): 整理・整頓・清掃を維持する仕組みを作る。
  • 躾(Shitsuke): 決められたルールを守る習慣をつける。 5Sが徹底されれば診療材料を探す無駄な時間がなくなり過剰在庫を抱えることもなくなり医療ミスも減ります。これはお金をかけずにできる最強の改善活動です。

スタッフの意識改革と提案制度

コスト削減は院長一人が号令をかけても成功しません。現場で日々業務を行っているスタッフの協力が不可Kです。 「今月の光熱費の目標は〇〇円です」「この材料は1個〇〇円します」。まずはスタッフにコスト意識を持ってもらうための情報共有が重要です。 その上で「コスト削減提案制度」などを設けスタッフから業務改善のアイデアを募集し良い提案には報奨金を出すといった仕組みも有効です。現場の人間が最もムダを知っています。


クリニックにおいてコストを削減するにあたって注意すべきこと

コスト削減は劇薬です。使い方を誤れば医院経営に致命的なダメージを与えかねません。絶対に守るべき一線について解説します。

医療の質と安全性を犠牲にしない

これが大前提です。コスト削減を追求するあまり医療の質や安全性を脅かすことは絶対にあってはなりません。 例えば滅菌・消毒の手順を簡略化したり安全基準を満たさない安価すぎる診療材料を使用したりすることは医療過誤に直結する危険な行為です。患者さんの健康と安全に関わる領域は「聖域」としてコスト削減の対象から外すべきです。

患者満足度の低下を招かない

コスト削減が患者さんに「ケチなクリニックだ」と感じさせてしまったら終わりです。 例えば待合室のエアコンを過度に節約して不快な温度にしたり受付スタッフを減らしすぎて電話が繋がらない・会計で長時間待たせたりすることは患者満足度を著しく低下させ患者離れの原因となります。 患者さんの目に触れる部分のコスト削減は特に慎重に行う必要があります。

スタッフのモチベーション低下(不公平な人件費削減)

最も危険なのがスタッフのモチベーションを削ぐようなコスト削減です。 前述の通り生産性向上を伴わない一方的な給与カットや賞与の削減は優秀な看護師や医療事務スタッフの離職に直結します。 一人辞めれば採用コスト(数十万円)と新人教育コスト(数百時間)という莫大なコストが発生し残ったスタッフの負担も増大します。人件費の削減はコスト削減の「最後の手段」であり安易に手をつけるべきではありません。


クリニックのコスト削減は自力でできるのか?

「これらのコスト削減策は院長である自分だけでもできるのではないか」。そう考える先生もいらっしゃるでしょう。

自力でできる範囲

確かに自力でできることも多くあります。 例えば院内の照明をLEDに変える日々の節電を呼びかけるスタッフとミーティングして業務のムダを話し合う。こうした意識改革や小さな改善は院長のリーダーシップがあれば十分に可能です。

専門家が必要となる限界

しかし以下のような領域になると院長一人の努力だけでは限界があります。

客観的な財務分析とベンチマーキング

自院の財務諸表(決算書)を客観的に分析するのは難しいものです。また「自院の薬剤費率20%」という数字が業界平均と比べて高いのか低いのかを判断する「モノサシ(ベンチマーク)」がなければ改善の方向性も見えません。

専門的な税務・会計知識

最新の医療機器を導入する際の優遇税制(税額控除や即時償却)の適用判断や医療法人化した場合の複雑な税金シミュレーションなどは高度な専門知識がなければ不可能です。

金融機関との交渉

金融機関に対してより有利な金利での借り換え(リファイナンス)を交渉したり融資を受けるために説得力のある事業計画書を作成したりするには財務と金融の専門的なノウハウが必要です。

内部のしがらみによる改革の頓挫

院長が「この業務フローは非効率だ」と気づいていても古参スタッフの抵抗を恐れて改革に踏み出せない。こうした「社内のしがらみ」は自力での解決が困難な問題です。

クリニックにおいてコストを削減を実現するために外部コンサルタントを利用するメリット

自力での改善に限界を感じた時外部の経営コンサルタントを活用することは非常に有効な手段です。

客観的な視点(「聖域」なき分析)

コンサルタントは完全に外部の第三者です。そのため院内の人間関係や過去の経緯といった「しがらみ」に一切忖度しません。 「院長のその判断がコスト増の原因です」「ベテランスタッフのその業務方法は非効率です」といった院長自身や内部の人間では言いにくい「聖域」に対しても客観的な事実とデータに基づきメスを入れることができます。

豊富な専門知識と他院事例

コスト削減や経営改善を専門とするコンサルタントは数多くのクリニックの事例を知っています。 「Aクリニックではこのシステムを導入して受付業務を30%効率化しました」「Bクリニックでは薬剤の在庫管理をこう変えて廃棄ロスをゼロにしました」。こうした豊富な他院事例(成功例・失敗例)に基づいた実践的なノウハウを提供してくれるため自院だけで試行錯誤するよりも遥かに早く成果にたどり着けます。

改革の「推進力」

院長が「改革するぞ」と号令をかけるだけでは現場はなかなか動きません。 外部の専門家が「これは業界標準です」「このままでは他院に負けますよ」と客観的なデータと共に説明することでスタッフの抵抗感を和らげ改革への納得感を生み出すことができます。コンサルタントは改革を実行するための「推進力(エンジン)」としての役割を果たすのです。

コンサルタントは税理士がおすすめな利用

「コンサルタント」と聞くと高額な料金を請求するコンサルティングファームを想像するかもしれません。しかし中小企業であるクリニックにとって最も身近で現実的なコンサルタントパートナーがいます。それが「税理士」です。

医院経営の「数字」を最も深く理解している存在

税理士はあなたのクリニックの決算書や毎月の試算表を作成・チェックしている存在です。つまりクリニックの収益費用資産負債といった「経営の全ての数字」を誰よりも深く正確に把握しています。 コスト削減の第一歩である「現状把握(見える化)」は税理士にとって最も得意とする分野です。

節税とコスト削減の連動

コスト削減は単に経費を減らすことだけが目的ではありません。最終的な目的は「手元に残るキャッシュ(税引後利益)」を最大化することです。 税理士であれば「この経費を削減するよりもこの設備投資をして税制優遇(即時償却)を使った方が結果的にキャッシュが残ります」といった節税とコスト削減を連動させた最適なアドバイスが可能です。これは税務の知識がないコンサルタントにはできない芸当です。

金融機関の視点を熟知

税理士は日頃から金融機関と密接に連携しています。金融機関が融資審査で「どの数字」を「どのように見ているか」を熟知しています。 コスト削減によって財務体質(自己資本比率や利益率など)が改善すればそれが金融機関からの評価を上げ将来の資金調達を有利にします。税理士は金融機関の視点に立ったコスト削減のアドバイスを提供できます。

医療法人特有の会計・税務への対応

もしあなたのクリニックが医療法人であればその会計処理や税務申告都道府県への届出は非常に特殊です。医療分野に精通した税理士であればこれらの複雑な要件を熟知しており医療法人としてのガバナンス強化の観点からもコスト管理を指導してくれます。

クリニックのコスト削減方法についてよくある質問の例と回答

ここではクリニックのコスト削減に関して院長先生からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q. コスト削減でスタッフの給与を下げるのは最後の手段ですか?

A1. はいその通りです。給与カットは最後の手段であり最も避けるべき選択肢です。安易な給与削減はスタッフのモチベーションを決定的に低下させ優秀な人材の流出を招きます。 スタッフが辞めれば採用コストや新人教育コストが発生し医療サービスの質も低下します。これは削減したコストを遥かに上回る損失です。 人件費に手をつけるのであれば給与カットではなく「生産性の向上」(業務の効率化やシフトの見直しによる無駄な残業の削減)から始めるべきです。

Q2. 広告費を削りたいのですがどのぐらいが適正ですか?

A2. 広告宣伝費の適正な比率は一般的に医業収入(売上)の3%~7%程度と言われていますが診療科や立地(激戦区かどうか)によって大きく異なります。 重要なのは金額の大小ではなく「費用対効果(ROI)」です。まず「どの広告(Web看板チラシ)から何人の新患が来たか」を測定できる仕組み(問診票でのアンケートなど)を作ることです。 そして効果の低い広告(コンバージョン単価が高い広告)から優先的に削減し効果の高い広告に予算を集中させるべきです。闇雲に広告費全体を削減すると新患数が激減し売上そのものを失う危険があります。

まとめ

クリニックのコスト削減。それは単なる「節約」ではなくクリニックの経営体質を強化し生み出されたリソースを医療の質や患者満足度の向上という「未来への投資」に振り向けるための重要な「経営戦略」です。

しかしその実行は専門的な知見を要し方法を誤れば医療の質やスタッフの士気を低下させる「劇薬」にもなり得ます。

この記事ではコスト削減の目的明確化から具体的なステップそして「聖域」として守るべきことまでを詳細に解説しました。そしてこの複雑なプロジェクトを成功に導くための最強のパートナーが「税理士」特に「クリニック経営に強い」税理士である理由を説明しました。

税理士はあなたのクリニックの財務状況を最も深く理解する「かかりつけ医」です。彼らは客観的な数字(ベンチマーク)に基づき経営のムダを発見し節税とコスト削減を両立させ金融機関からの信頼を高めるための最適な処方箋を提案してくれます。

経営者が一人で全ての課題を抱え込む必要はありません。専門家の力を賢く借りることで院長先生は本来の使命である「医療」に集中することができます。

この記事があなたのクリニックの経営を見直しより強固で持続可能な体制を築くための一助となれば幸いです。まずは自院の決算書を片手に信頼できる専門家に「経営の健康診断」を依頼することから始めてみてはいかがでしょうか。

経営コンサルタントをお探しの方は、宮嶋公認会計士・税理士事務所へお問合せください(初回無料相談)
この記事の作成者

宮嶋 直  公認会計士/税理士
京都大学理学部卒業後、大手会計事務所であるあずさ監査法人(KPMGジャパン)に入所。その後、外資系経営コンサルティング会社であるアクセンチュア、大手デジタルマーケティング会社であるオプトの経営企画管掌執行役員兼CFOを経験し、現在に至る。