日本の経済と社会インフラを文字通り支える基幹産業、建設業。住宅やビル、道路や橋といった形あるものを創り上げるこの仕事は、社会への貢献度も高く、多くの人々が誇りを持って働いています。しかし、その経営の裏側は、他の業種にはない多くの困難と複雑さに満ちています。
工事ごとの原価は一体いくらなのか、利益は出ているはずなのに手元の資金はなぜいつも厳しいのか、数ヶ月先に及ぶ工事の売上はいつ計上すれば良いのか。こうした「建設業会計」特有の課題に加え、建設業許可の維持や経営事項審査、深刻化する人材不足、そして働き方改革への対応など、経営者が向き合うべき問題は山積しています。
日々の現場管理や顧客対応、職人の手配に追われる中で、これらの複雑な経営課題、特に専門性の高い経理・税務の問題にまで完璧に対応することは、至難の業と言えるでしょう。
そんな時、あなたの会社の羅針盤となり、経営の土台を固め、事業の成長を力強く後押ししてくれるのが、「建設業に強い税理士」というパートナーの存在です。
しかし、「税理士なら誰でも同じ」と考えてしまうのは、大きな過ちです。建設業の特殊性を理解していない税理士に依頼してしまうと、適切な原価管理ができず、節税の機会を逃し、最悪の場合、建設業許可の維持すら危うくなる可能性があります。
この記事では、建設業を営む経営者の皆様が、自社の未来を安心して託すことのできる、最高の税理士パートナーを見つけ出すための全てを、網羅的かつ詳細に解説していきます。建設業の定義やビジネスの特性から始まり、税理士が提供すべき専門サービス、具体的な探し方や選び方のポイント、費用相場、契約後の付き合い方に至るまで、あなたのあらゆる疑問と不安を解消します。
この記事を読み終える頃、あなたは建設業経営における税理士の真の価値を理解し、自社の成長を共に牽引してくれるパートナーを見つけ出すための、確かな知識と自信を手にしているはずです。
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建設業に強い税理士を探す最適な方法
建設業ビジネスの特徴
建設業は、製品を製造して販売する製造業や、商品を仕入れて販売する小売業とは全く異なる、極めてユニークなビジネス特性を持っています。これらの特徴が、建設業の会計や経営管理を複雑にし、専門家である税理士のサポートを不可欠なものにしています。
受注生産であること
建設業の最も基本的な特徴は、顧客からの注文を受けてから、個別の仕様に基づいて生産を開始する「受注生産」である点です。工場で同じ製品を大量生産するのとは異なり、一つひとつの工事がオーダーメイドの一品料理のようなものです。このため、完成品としての在庫を持つことはなく、受注がなければ売上が立たないという、経営の不安定さを常に内包しています。いかにして安定的に工事を受注し続けるかが、経営の最重要課題となります。
工事期間の長期化
住宅の建築やインフラ工事など、多くの建設工事は、着工から完成までに数ヶ月から数年という長い期間を要します。この工事期間の長さが、会計処理を複雑にする最大の要因です。例えば、3月31日を決算日とする会社が、1月に着工し、翌年の6月に完成する工事を請け負った場合、その売上と利益をいつ、どのように計上すべきかという問題が生じます。この会計処理の方法(工事完成基準・工事進行基準)の選択が、会社の業績や納税額に大きな影響を与えます。
現場が移動すること
建設業の仕事場は、自社のオフィスではなく、工事が行われる「現場」です。そして、一つの工事が終われば、また別の場所へと現場は移動していきます。このため、現場ごとに発生する材料費や外注費、人件費といった原価を、いかにして正確に把握し、管理するかが極めて重要になります。複数の現場が同時に動いている場合、どの現場でどれくらいの利益が出ているのかを管理する「現場別原価計算」ができなければ、どんぶり勘定の経営に陥ってしまいます。
重層的な下請構造
建設業界は、発注者から直接工事を請け負う「元請」を頂点に、その下に一次下請、二次下請、三次下請と、複数の下請業者が連なる「重層的な下請構造」で成り立っています。この構造は、専門的な技術を持つ多くの企業が協力して、一つの大きなプロジェクトを完成させるための合理的な仕組みですが、一方で、下位の下請業者ほど、立場が弱くなりやすく、代金の支払いが遅れたり、不当な値引きを要求されたりといった問題も発生しがちです。
許認可事業であること
一定規模以上の建設工事を請け負うためには、「建設業許可」を知事または国土交通大臣から受けなければなりません。この許可を取得し、維持するためには、「経営業務の管理責任者」や「専任技術者」といった人的要件や、一定額以上の自己資本を持つという「財産的基礎」の要件などをクリアし続ける必要があります。特に、財産的基礎の要件は、毎年の決算書の内容が直接関わってくるため、適切な会計処理が許可の維持に不可欠となります。
建設業ビジネスの環境
建設業を取り巻く経営環境は、社会構造の変化や国の政策、技術革新の波を受けて、今、大きな変革期を迎えています。これらの外部環境の変化を的確に捉え、自社の経営戦略に反映させていくことが、今後の持続的な成長のためには不可欠です。建設業に強い税理士は、こうしたマクロな環境変化が、個々の企業の経営にどのような影響を与えるかを分析し、具体的な対策を提案できる能力を持っています。
深刻化する人材不足と高齢化
建設業界全体が直面している最も深刻な課題が、職人の不足と、それに伴う就業者の高齢化です。若者の建設業離れが進み、熟練した技術を持つ職人が次々と引退していく中で、いかにして次代を担う人材を確保し、育成していくかは、全ての建設会社の死活問題です。この人材不足は、人件費の高騰を招き、企業の収益性を圧迫する要因にもなっています。
2024年問題と働き方改革への対応
2024年4月から、建設業にも時間外労働の上限規制が適用され、働き方改革への対応が待ったなしの状況となっています。これまで常態化していた長時間労働を見直し、週休二日制を導入するなど、労働環境の改善が急務です。これは、労働者の健康を守り、若者が魅力を感じる産業へと転換するために不可欠な取り組みですが、一方で、工期の長期化や、労務コストの増加といった、経営上の新たな課題も生み出しています。
資材価格の高騰とインフレの影響
近年、ウッドショックやアイアンショックに代表されるように、木材や鋼材といった建設資材の価格が世界的に高騰しています。また、原油価格の上昇は、輸送コストや、アスファルトなどの石油製品の価格に影響を与えます。こうしたコストの上昇分を、受注価格に適切に転嫁できなければ、企業の利益は大きく損なわれます。精緻な原価管理と、顧客との価格交渉力が、これまで以上に重要になっています。
インボイス制度の導入と一人親方への影響
2023年10月から始まったインボイス制度は、建設業界の重層的な下請構造に大きな影響を与えています。特に、免税事業者であることが多い一人親方や、小規模な下請業者との取引において、仕入税額控除の扱いが大きな課題となります。元請企業として、下請業者にインボイス登録を促すべきか、あるいは、自社が消費税負担をどう吸収していくかなど、専門的な判断と対応が求められます。
建設DXの進展
人手不足の解消や、生産性の向上を目指して、建設業界でもICT(情報通信技術)を活用した「建設DX(デジタルトランスフォーメーション)」の動きが加速しています。ドローンによる測量や、BIM/CIMといった3次元モデルの活用、施工管理アプリの導入など、様々な技術が現場に導入されつつあります。こうした新しい技術への投資と活用が、今後の企業の競争力を大きく左右すると言えるでしょう。
建設業に携わるの方の税理士に対するニーズ
厳しい経営環境の中で、建設業の経営者が税理士に求めるものは、単なる年に一度の申告書作成だけではありません。経営の根幹に関わる課題を共に解決し、会社の未来を切り拓くための、専門的で実践的なサポートを強く期待しています。
工事ごとの利益を「見える化」したい
多くの経営者が抱える最大の悩みが、「どの工事が儲かっていて、どの工事が赤字なのか、正確に分からない」というものです。税理士には、会計ソフトの導入支援や、工事台帳の作成指導などを通じて、現場ごとの原価を正確に把握し、工事別の利益を「見える化」する仕組み作りをサポートしてほしいと願っています。これにより、不採算工事の原因を分析したり、次の見積もり精度を高めたりすることが可能になります。
厳しい資金繰りを改善したい
建設業は、工事の着工から入金までの期間が長く、一方で、材料費や外注費の支払いが先行するため、常に資金繰りの悩みがつきまといます。「黒字倒産」のリスクも高い業種です。税理士には、資金繰り表の作成を通じて将来の資金収支を予測し、資金ショートを未然に防ぐためのアドバイスが求められます。また、運転資金や設備投資資金が必要になった際には、金融機関に提出する事業計画書の作成を支援し、融資の成功を後押ししてくれる強力なパートナーとしての役割が期待されています。
建設業許可を安心して維持・更新したい
建設業許可は、事業を継続するための生命線です。許可を維持するためには、5年ごとの更新手続きはもちろんのこと、毎年の決算変更届の提出や、財産要件(500万円以上の自己資本など)をクリアし続ける必要があります。税理士には、これらの許可要件を常に意識した決算書の作成や、手続きの期限管理を徹底してもらい、許可が失われるといった最悪の事態を絶対に避けたいという強いニーズがあります。
税務調査に備えたい
建設業は、現金取引が多かったり、外注費と給与の区分が曖昧になりがちだったりすることから、税務調査の対象になりやすい業種と言われています。税理士には、日頃から税務調査を意識した証憑書類の管理方法や、会計処理について指導してもらい、調査で指摘されやすいポイントを事前に潰しておくことで、安心して事業に集中したいというニーズがあります。そして、万が一調査が入った際には、代理人として立ち会い、専門家として堂々と主張してくれる盾となってほしいのです。
建設業における経理や税務の特徴
建設業の会計・税務が「特殊である」と言われる所以は、そのビジネスモデルに起因する、他の業種にはない独自の会計基準や勘定科目が存在するからです。これらの専門用語やルールを正確に理解し、使いこなせるかどうかが、建設業に強い税理士であることの証明となります。
売上計上のタイミング(工事完成基準と工事進行基準)
工事期間が長期にわたる建設業では、いつ売上を計上するかが大きな問題となります。会計基準では、主に二つの方法が認められています。
工事完成基準
一つは、「工事完成基準」です。これは、工事が完成し、顧客に引き渡した時点で、工事の収益(請負金額)と原価を、まとめて計上する方法です。会計処理はシンプルですが、工事期間が複数年にまたがる場合、工事が完成するまでは一切売上が計上されず、完成した年に一気に大きな利益が計上されるため、年度ごとの業績が大きく変動するというデメリットがあります。
工事進行基準
もう一つは、「工事進行基準」です。これは、決算日時点で、工事の進捗度合いを見積もり、その進捗度に応じて、収益と原価を計上する方法です。例えば、進捗度が30%であれば、請負金額の30%をその期の売上として計上します。これにより、年度ごとの業績のブレを平準化することができますが、進捗度を客観的に算定する必要があり、会計処理が複雑になります。 どちらの基準を適用するかは、会社の業績や税額に大きな影響を与えるため、専門的な判断が必要です。
建設業特有の勘定科目
建設業の決算書には、他の業種では見られない、特有の勘定科目が登場します。
未成工事支出金(みせいこうじししゅつきん)
これは、まだ完成していない工事(未成工事)のために、すでに支払った材料費や外注費、人件費などを、一時的に資産として計上するための勘定科目です。一般会計でいうところの「仕掛品」に相当します。工事が完成した時点で、この未成工事支出金が、「完成工事原価」という費用に振り替えられます。この勘定科目を正しく管理することが、正確な原価計算の基礎となります。
未成工事受入金(みせいこうじうけいれきん)
これは、まだ完成していない工事に関して、顧客から前受け金や中間金を受け取った場合に、一時的に負債として計上するための勘定科目です。一般会計の「前受金」に相当します。工事が完成し、売上を計上するタイミングで、「完成工事高」に振り替えられます。
外注費と給与の税務上の区分
建設業では、自社の従業員だけでなく、一人親方や、他の下請業者に仕事の一部を依頼する「外注」が頻繁に行われます。この際、支払った対価が「外注費」なのか、それとも実質的には雇用関係にあると見なされる「給与」なのか、という区分が、税務上、極めて重要な問題となります。
もし、給与と認定されると、会社は源泉所得税の徴収義務や、社会保険料の負担義務が発生します。また、消費税の計算上も、給与は仕入税額控除の対象外ですが、外注費は対象となるため、納税額に大きな差が出ます。このため、税務調査では、この区分が最も厳しくチェックされるポイントの一つです。契約書の有無や、指揮命令関係、仕事道具の負担関係などを総合的に判断する必要があり、専門的な知識が不可欠です。
建設業における税理士の提供するサービス
建設業に強い税理士は、一般的な税務会計業務に留まらず、建設業経営の特殊性を踏まえた、高度で専門的なサービスを提供します。これらのサービスを最大限に活用することが、企業の持続的な成長を実現する鍵となります。
基本的な税務・会計サービス
まずは、全てのサービスの土台となるコア業務です。これらの正確性と迅速性が、税理士の信頼性を測る基本となります。
記帳代行と月次巡回監査
領収書や請求書、工事関連の資料を基に、会計データの入力を代行します。そして毎月、会社を訪問(またはオンラインで面談)し、帳簿が正しく作成されているかを確認し、前月までの経営成績を経営者に分かりやすく報告します。
決算申告業務
年に一度の決算を締め、法人税や所得税、消費税などの申告書を作成し、税務署へ提出します。建設業特有の会計処理を正確に行い、適正な納税を実現します。
建設業に特化した専門サービス
ここからが、建設業に強い税理士の真骨頂です。業界特有の課題に対応した専門サービスが、経営を強力にサポートします。
建設業会計に準拠した体制構築
工事完成基準や工事進行基準の適切な選択と運用、未成工事支出金や未成工事受入金といった特有の勘定科目を管理するための、経理体制の構築を支援します。工事台帳(工事原価管理表)の導入や、運用方法の指導も行います。
建設業許可の維持・更新サポート
5年ごとの建設業許可の更新や、毎年の決算変更届の提出を、行政書士と連携してサポートします。許可要件である財産的基礎(自己資本500万円以上など)をクリアできるよう、決算対策を提案し、許可の維持を盤石にします。
経営の成長を加速させる支援サービス
税理士は、税務の専門家であると同時に、経営のパートナーです。数字に基づいたコンサルティングで、企業の成長を後押しします。
資金繰り管理と融資支援
建設業の生命線である資金繰りを安定させるため、資金繰り表の作成と管理を支援します。また、運転資金や設備投資資金が必要になった際には、地域の金融機関や日本政策金融公庫への融資申請を、事業計画書の作成から面談の同席まで、一貫してサポートします。
補助金・助成金の活用支援
「ものづくり補助金」や「事業再構築補助金」、「IT導入補助金」など、建設業が活用できる様々な補助金・助成金の情報を提供し、採択率を高めるための申請書作成を支援します。
事業承継・M&Aアドバイザリー
後継者問題を抱える経営者に対し、親族内承継、従業員承継、第三者へのM&Aといった、様々な選択肢の中から最適な事業承継プランを設計します。自社株評価や相続税対策、承継後の経営体制の構築まで、長期的な視点でコンサルティングを行います。
建設業における税理士を活用するメリット
専門知識が豊富で、建設業界に精通した税理士をパートナーに迎えることは、経営者にとって計り知れないメリットをもたらします。それは、単に経理が楽になるというレベルの話ではなく、会社の経営基盤そのものを強化し、厳しい競争環境を勝ち抜くための、戦略的な一手です。
どんぶり勘定からの脱却と利益体質の実現
建設業に強い税理士を活用する最大のメリットは、工事ごとの正確な原価管理が可能になり、「どんぶり勘定」から脱却できることです。工事台帳などを活用し、どの現場で、どれくらいの利益が出ているのか(あるいは出ていないのか)を「見える化」することで、不採算工事の原因を究明し、次の見積もり精度を向上させることができます。このPDCAサイクルを回し続けることが、企業の利益体質を根本から改善します。
資金繰りの安定化と黒字倒産リスクの回避
税理士による資金繰り表の作成・管理支援は、建設業の生命線であるキャッシュフローを安定させます。「利益は出ているのに、なぜかお金がない」という状況を未然に防ぎ、黒字倒産という最悪の事態を回避することができます。将来の資金需要を予測し、計画的に金融機関との交渉を進めることで、経営者は資金繰りの不安から解放され、安心して事業拡大に取り組むことができます。
税務調査に対する絶対的な安心感と節税効果
建設業特有の税務論点を熟知した税理士が関与することで、税務調査で指摘されやすいポイントを、日頃からケアすることができます。外注費と給与の区分や、未成工事支出金の計上などを、根拠を持って説明できる体制を整えることで、調査が入ったとしても、堂々と対応することができます。また、最新の税制優遇措置などを漏れなく活用することで、合法的な範囲で税負担を最適化し、手元に残る資金を最大化します。
経営者が本業である現場管理・営業活動に専念できる
経営者の最も価値のある時間は、現場を指揮し、品質を高め、新たな顧客を開拓することです。慣れない経理作業や、複雑な許認可の手続きに貴重な時間を費やすのは、会社全体にとって大きな損失です。税理士に専門外の業務を任せることで、経営者はストレスなく、自らが最も価値を発揮できる本業に集中でき、それが会社の成長を直接的に加速させます。
建設業における税理士を活用するデメリット
多くのメリットがある一方で、税理士との契約にはいくつかのデメリットや、注意すべき点も存在します。これらを事前に理解し、対策を講じることで、契約後のミスマッチを防ぎ、より良いパートナーシップを築くことができます。
顧問料という固定費の発生
当然のことながら、税理士に業務を依頼すれば、顧問料という費用が発生します。特に、毎月支払いが必要な顧問契約は、会社の固定費となるため、事業を始めたばかりでキャッシュフローが安定していない時期には、負担に感じられるかもしれません。
しかし、この費用を単なるコストと見なすか、会社の成長のための戦略的な投資と見なすかで、その価値は大きく変わります。税理士の活用によって得られる節税効果や、経営改善による利益増、融資の成功などが、支払う費用を上回るのであれば、それは合理的な投資です。契約前に、提供されるサービス内容と料金体系を十分に吟味し、費用対効果を見極めることが重要です。
税理士とのコミュニケーションの相性問題
税理士は、会社の財務状況という最もデリケートな情報を共有するパートナーです。そのため、専門知識やスキルはもちろんのこと、経営者との人間的な相性も非常に重要になります。
「専門用語ばかりで説明がわかりにくい」「現場のことを理解しようとしない」「レスポンスが遅い」といったコミュニケーション上のストレスは、円滑な関係構築の大きな妨げとなります。経営者が気軽に何でも相談でき、親身になって話を聞いてくれる相手でなければ、長期的に良好な関係を築くことは難しいでしょう。契約前の面談で、人柄やコミュニケーションのスタイルを、しっかりと見極めることが大切です。
丸投げによる経営者意識の希薄化
税理士に経理や税務を「丸投げ」することで、経営者自身が自社の数字に対する関心や、理解を失ってしまうリスクがあります。税理士は、あくまで経営をサポートする航海士であり、船の進路を最終的に決定する船長は、経営者自身です。
税理士から提供される試算表や分析レポートに目を通さず、内容を理解しようとしなければ、経営感覚が鈍り、環境の変化への対応が遅れてしまう可能性があります。税理士を有効に活用しつつも、常に当事者意識を持ち、自社の財務状況を自分の言葉で説明できる状態を維持する努力が求められます。
どのような人・企業が税理士へ依頼すべきか?
建設業においては、その規模やステージにかかわらず、ほぼ全ての事業者が税理士を活用するメリットを享受できます。しかし、特に以下のような状況にある方は、専門家の力を借りることが、事業の成否を分けると言っても過言ではありません。
これから建設業で独立・開業を考えている一人親方・職人
長年の経験を活かして、独立を考えている職人さんにとって、最初の大きな壁が、事業計画の策定と資金調達、そして建設業許可の取得です。このスタート段階で、建設業の開業支援実績が豊富な税理士をパートナーに迎えることで、融資の成功確率を高め、最初から最適な経理・税務の体制を構築することができます。本業の腕には自信があっても、経営は素人だという方にこそ、専門家のサポートが必要です。
どんぶり勘定から脱却し、利益を出せる会社にしたい経営者
「毎月忙しく働いているのに、なぜかお金が残らない」「どの現場が儲かっているのか分からない」。こうした悩みを抱えている経営者は、すぐにでも税理士に相談すべきです。工事ごとの原価管理を導入し、どんぶり勘定から脱却しなければ、いつまで経っても利益体質の会社にはなれません。客観的な数字に基づいた経営への転換を、税理士がサポートします。
建設業許可を取得・維持し、事業を拡大したい企業
現在、許可を持たずに軽微な工事のみを請け負っているが、今後は500万円以上の大きな工事も受注して、事業を拡大したい。あるいは、すでに許可を持っているが、5年ごとの更新や、毎年の決算変更届の手続きが負担になっている。このような企業にとって、建設業許可に精通した税理士は、不可欠な存在です。許可要件をクリアするための決算対策や、手続きの代行を通じて、事業の成長を法的な側面から支えます。
後継者問題に悩み、事業承継を考えている経営者
自身の高齢化に伴い、引退を考え始めたものの、後継者が見つからない、あるいは、後継者はいるが、どのように会社を引き継がせるべきか悩んでいる。このような経営者にとって、事業承継に強い税理士は、会社の未来と、家族の未来を守るための、最も頼りになる相談相手です。自社株の評価や、相続税対策など、手遅れになる前に、早期に相談を始めることが重要です。
建設業に強い税理士を探すポイント
数多くいる税理士の中から、本当に建設業に精通し、自社の成長に貢献してくれるパートナーを見つけ出すためには、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。以下のチェックリストを参考に、候補となる税理士を吟味してください。
建設業の顧問実績、特に同業種のクライアント数
これが、最も重要かつ分かりやすい指標です。税理士事務所のウェブサイトなどで、建設業のクライアントが何件あるか、そして可能であれば、自社と同じ業種(例:内装仕上工事業、電気工事業など)の顧問実績があるかを確認しましょう。実績件数が多ければ多いほど、それだけ多くの事例に対応してきた経験とノウハウが蓄積されている証拠です。
建設業会計と許認可への深い理解
面談の際には、専門的な質問を投げかけて、その理解度を測りましょう。「工事進行基準の適用について、どう考えますか」「未成工事支出金の管理で、注意すべき点は何ですか」「建設業許可の財産要件をクリアするための、具体的な決算対策を教えてください」。これらの質問に対して、分かりやすく、かつ的確に答えられるかどうかで、その税理士の専門性を見極めることができます。
金融機関との交渉力と融資実績
建設業は、資金調達が経営の鍵を握ります。これまで、どのような金融機関から、どのくらいの規模の融資を成功させてきたか、具体的な実績を聞いてみましょう。地域の金融機関の担当者と、良好な関係を築いているかどうかも、重要なポイントです。
ITツールへの対応力と業務効率化への意識
建設業界でも、DXの波は避けて通れません。クラウド会計ソフトはもちろんのこと、建設業向けの施工管理アプリや、原価管理システムなどのITツールに理解があり、その導入や活用を積極的に支援してくれる税理士を選びましょう。業務効率化への意識が高い税理士は、あなたの会社の生産性向上にも貢献してくれます。
建設業に強い税理士を探す方法
自社に合った税理士を見つけ出すためには、いくつかの方法を組み合わせ、多角的に候補者を探すことが有効です。ここでは、具体的な探し方とそのメリット・デメリットを紹介します。
同業者や元請会社からの紹介
同じ建設業界で働く仲間や、日頃から取引のある元請会社の担当者からの紹介は、非常に信頼性が高い方法です。実際にサービスを利用している人からの、「あの先生は、資金繰りの相談に親身に乗ってくれる」「経審に詳しくて、評点が上がった」といった生の声は、何よりも貴重な情報です。ただし、紹介された手前、断りにくいという側面もあるため、複数の情報源を持つことが望ましいでしょう。
建設業関連の組合や団体からの紹介
所属している地域の建設業協会や、各種専門工事業の組合、一人親方組合などに相談し、推薦の税理士を紹介してもらうのも有効な手段です。これらの団体は、業界の事情に精通しており、組合員のサポートに慣れている税理士との繋がりを持っています。
金融機関や建材・建機メーカーからの紹介
融資を受けている金融機関の担当者や、日頃から付き合いのある建材・建機メーカーの営業担当者に相談するのも良い方法です。彼らは、多くの建設会社と取引があり、どの会社がどの税理士と付き合って、うまく経営しているかといった情報を豊富に持っています。
インターネット検索
現在では、インターネット検索も非常に有効な探し方です。「建設業 強い 税理士 東京」「建設業許可 税理士」「経審 コンサル」といったように、「建設業関連のキーワード」と「地域名」や「課題」を組み合わせて検索することで、専門性の高い税理士事務所を見つけやすくなります。ウェブサイトの解決事例や、ブログの内容をじっくり読み込み、その事務所の建設業界への注力度合いを見極めましょう。
建設業で税理士を探すタイミング
税理士のサポートは、早ければ早いほど、その効果を最大限に発揮します。問題が起きてから慌てて探すのではなく、事業の重要な節目で先手を打って専門家と繋がっておくことが、建設業経営を成功させる秘訣です。
独立・開業する「前」
これが、最も理想的かつ重要なタイミングです。長年の職人経験を活かして独立する際、事業計画の策定、資金調達(創業融資)、そして建設業許可の取得は、最初の大きなハードルです。このスタート段階で、建設業の開業支援実績が豊富な税理士をパートナーに迎えることで、これらの課題をスムーズにクリアし、安心して本業のスタートを切ることができます。
建設業許可を初めて取得する時
現在、許可が不要な軽微な工事のみを請け負っているが、事業を拡大するために、初めて建設業許可を取得しようと決めた時も、税理士を探す絶好のタイミングです。許可の要件である財産的基礎をクリアするための決算書の作成など、専門的なサポートが不可欠となります。
売上が1000万円を超えた時
個人事業主でも法人でも、年間の課税売上高が1000万円を超えると、その2年後から消費税の納税義務が発生します。建設業は、取引金額が大きいため、消費税の負担も大きくなりがちです。インボイス制度への対応も含め、専門家のアドバイスが必要になる重要な節目です。
資金繰りに不安を感じ始めた時
「受注は順調なのに、なぜか手元の資金がいつも足りない」。そう感じ始めたら、すぐに税理士に相談すべきサインです。資金繰りが悪化してからでは、打てる手が限られてしまいます。早期に相談し、資金繰り表の作成や、金融機関との交渉を始めることが重要です。
事業承継を意識し始めた時
経営者が50代半ばにさしかかり、自身の引退後の会社の将来について考え始めたら、事業承継専門の税理士への相談を開始すべきです。事業承継対策には、少なくとも5年から10年の時間が必要です。後継者の選定や育成、自社株の移転、相続税対策など、計画的に準備を進めることで、円満な承継が実現します。
建設業に強い税理士の費用相場
税理士に支払う費用は、提供されるサービスの対価であり、その価値を正しく理解することが重要です。建設業の税務は、専門性が高く、管理も煩雑になるため、一般的な事業の顧問料よりも、やや高めに設定される傾向があります。
個人の一人親方・個人事業主の場合
確定申告のみ(スポット契約)
年に一度、確定申告書の作成・提出だけを依頼する場合の費用です。売上規模や取引の量によりますが、5万円から20万円程度が相場です。
顧問契約
継続的に記帳代行や経営相談を依頼する場合の費用です。
- 月額顧問料: 2万円から5万円程度。記帳を自社で行うか、税理士に依頼するかで料金は変動します。
- 決算申告料: 10万円から30万円程度が一般的です。
法人(中小の建設会社)の場合
顧問契約
法人が顧問契約を結ぶ場合の費用は、事業規模(年商)によって変動します。
- 年商5000万円未満: 月額顧問料 3万円~6万円程度
- 年商5000万円~1億円: 月額顧問料 4万円~8万円程度
- 年商1億円以上: 月額顧問料 6万円以上(個別見積もり)
上記に加えて、決算申告料として、月額顧問料の4~6ヶ月分が別途必要です。
オプション料金
上記の基本料金に加えて、特定の専門サービスを依頼する場合には、別途料金が発生します。
- 建設業許可の新規・更新申請: 10万円~20万円程度(行政書士への報酬を含む場合が多い)
- 融資支援: 着手金+成功報酬(調達額の1~5%)が一般的
- 補助金申請支援: 着手金+成功報酬(採択額の10~20%)が一般的
建設業に強い税理士と契約するまでのプロセス
理想の税理士候補を見つけてから、実際に契約を結ぶまでには、いくつかのステップを踏むのが定石です。焦らず、慎重に進めることで、後悔のない選択ができます。
ステップ1:候補者のリストアップと比較
まずは、これまで紹介した探し方を参考に、2~3の税理士事務所を候補としてリストアップします。それぞれのウェブサイトを熟読し、建設業への専門分野や実績、料金体系などを比較検討します。
ステップ2:初回無料相談の申し込み
候補が絞れたら、電話や問い合わせフォームで連絡を取り、初回無料相談の予約を入れます。その際に、自社の状況(建設業であること、許可の有無、おおよその年商など)を簡潔に伝えておくと、スムーズです。
ステップ3:面談でのヒアリングと見極め
面談は、あなたが税理士を見極める最も重要な機会です。直近の決算書や、工事経歴書などを持参し、現状の課題や将来の目標を具体的に話しましょう。そして、「探すポイント」で挙げた項目を中心に積極的に質問し、相手の専門性や人柄、相性を確かめます。「この人になら、会社の未来を任せられる」と心から思えるかどうかが、決め手です。
ステップ4:見積書の取得と検討
面談後、正式な見積書を提出してもらいます。料金だけでなく、その内訳としてどのようなサービスが含まれているのかを詳細に確認します。不明な点があれば、遠慮なく質問し、すべての疑問を解消した上で、契約するかどうかを判断します。
ステップ5:契約の締結
契約する税理士が決まったら、業務委託契約書を取り交わします。業務範囲、報酬、契約期間、解約条件、守秘義務といった重要事項を最終確認し、納得した上で署名・捺印します。これで、あなたの会社を支えるパートナーシップが、正式にスタートします。
建設業において税理士の切替を検討する場合
現在、顧問税理士がいるものの、サービスに不満を感じることもあるかもしれません。税理士の切り替えは、事業の成長のために必要な、前向きな経営判断です。トラブルなく、円滑に進めるためのポイントを解説します。
切り替えを検討すべきサイン
以下のような状況が続いている場合は、税理士の切り替えを検討するタイミングかもしれません。
- 建設業会計の特殊性を理解しておらず、質問しても的確な答えが返ってこない。
- 建設業許可や、経審に関する相談に全く乗ってくれない。
- 資金繰りに関する具体的なアドバイスや、融資支援の提案がない。
- IT化に疎く、クラウド会計の導入などに非協力的である。
円滑な切り替えのプロセス
新しい税理士を先に決める
現在の税理士に解約を申し出る前に、必ず次の契約先となる新しい税理士を見つけ、内定させておくことが重要です。税理士がいない空白期間が生まれるのを防ぎます。
円満な解約と引き継ぎ
現在の税理士には、これまでの感謝を伝えつつ、契約書に従って解約を申し出ます。そして、過去の申告書控えや、総勘定元帳といった会計データを返却してもらい、新しい税理士への引き継ぎを依頼します。通常は、税理士間で直接データのやり取りをしてもらうのが、最もスムーズです。
最適なタイミング
税理士の切り替えは、決算申告が終わった直後が最も適しています。一年間の業務が完了し、新しい期からクリーンな状態でスタートを切ることができます。
建設業で税理士に対してよくある質問と回答
ここでは、建設業の経営者の方から、税理士によく寄せられる質問とその回答例を紹介します。
Q1. 一人親方で、売上もまだ少ないのですが、相談に乗ってもらえますか?
A1. はい、もちろんです。むしろ、独立したての段階でご相談いただくことで、正しい経理の基礎を築き、将来の法人化なども見据えたサポートが可能です。一人親方の場合、外注費と給与の区分が税務調査で問題になりやすいため、最初から専門家と契約しておくメリットは大きいです。小規模な事業者向けのリーズナブルな料金プランもご用意していますので、ご安心ください。
Q2. 税務調査では、どのような点が重点的に見られますか?
A2. 建設業の税務調査で、特に重点的に見られるポイントは、主に3つあります。一つ目は「売上の計上漏れ」です。特に、期末に近い時期に完成した工事の売上が、翌期にずれていないかなどをチェックされます。二つ目は「外注費と給与の区分」です。一人親方への支払いが、実質的に給与ではないかと厳しく見られます。三つ目は「在庫(未成工事支出金)の計上」です。期末時点で、まだ完成していない工事にかかった費用が、正しく資産計上されているかを確認されます。
Q3. 会社の資金繰りが厳しいです。何か良い方法はありますか?
A3. 建設業の資金繰りを改善する方法は、いくつかあります。まずは、資金繰り表を作成して、お金の流れを正確に把握することから始めます。その上で、入金を早めるための対策(例:請求書の発行を早める、中間金を請求する契約にする)や、支払いを遅らせるための対策(例:仕入先との交渉)を検討します。また、ファクタリング(売掛債権の売却)という手法もあります。さらに、地域の金融機関や、日本政策金融公庫からの融資も有効です。あなたの会社の状況に合わせて、最適な方法を一緒に考えていきましょう。
建設業に強い税理士を探す方法 まとめ
建設業。それは、社会の基盤を創り、人々の暮らしを支える、誇り高い仕事です。しかし、その経営は、受注生産、長期の工期、重層的な下請構造、そして複雑な許認可制度といった、多くの特殊な課題と隣り合わせです。
この記事では、建設業という厳しい、しかしやりがいに満ちたフィールドで奮闘する経営者の皆様が、その事業を盤石なものにし、未来へと繋いでいくための、最強のパートナー「建設業に強い税理士」を見つけ出すための方法を、網羅的に解説してきました。
最適な税理士とは、単なる申告代行者ではありません。建設業会計を深く理解し、工事ごとの原価を「見える化」し、あなたの会社の利益体質を根本から改善してくれる改革者です。建設業許可や経審のルールを熟知し、事業の生命線を守り、成長機会を切り拓いてくれる戦略家です。そして、資金繰りの苦しさや、後継者問題といった、経営者の孤独な悩みに寄り添い、共に汗を流してくれる、最も信頼できる相談相手です。
その最高のパートナーを見つけ出す鍵は、「建設業への実績」「許認可への知識」「資金調達力」、そして何よりも「経営者との人間的な相性」を、総合的に見極めることにあります。同業者や金融機関からの紹介といった、リアルなネットワークを駆- して候補者を探し出し、直接対話する中で、「この人になら、会社の未来を託せる」と心から信頼できる相手を、選び抜いてください。
税理士に支払う費用は、コストではありません。あなたの貴重な時間を本業に取り戻し、会社の信用力を高め、事業の継続と発展を確実なものにするための、極めて価値の高い「投資」です。
この記事が、あなたの税理士探しという重要な航海の確かな羅針盤となり、あなたの会社が、日本の、そして地域の未来を創るという、その崇高な使命を果たし続けていく一助となれば幸いです。まずは、勇気を出して、無料相談の扉を叩くことから始めてみてはいかがでしょうか。
税理士をお探しの方は、宮嶋公認会計士・税理士事務所へお問合せください(初回無料相談)
この記事の作成者 宮嶋 直 公認会計士/税理士 京都大学理学部卒業後、大手会計事務所であるあずさ監査法人(KPMGジャパン)に入所。その後、外資系経営コンサルティング会社であるアクセンチュア、大手デジタルマーケティング会社であるオプトの経営企画管掌執行役員兼CFOを経験し、現在に至る。
