本記事では、フリーランスエンジニアが法人化する場合のメリットについて解説していきます。法人化すると節税ができるようなイメージをお持ちの方が多いですが、具体的に法人化はいつすべきなのか、どのように節税が可能なのか等について解説をしていきます。なおフリーランスエンジニアの方で税理士活用を検討の方については、フリーランスエンジニアに強い税理士を探す方法、も併せてご覧ください。
税理士をお探しの方は、宮嶋公認会計士・税理士事務所へお問合せください(初回無料相談)
フリーランスエンジニアが法人化するメリット
フリーランスエンジニアの法人化とは何か?
フリーランスエンジニアの法人化とは具体的にどのようなことでしょうか?フリーランスエンジニアの方は一般的に個人事業主として事業をおこなっている方が多いと思います。個人事業主の場合は税務上所得税の申告対象となりますので、所得税法に従って所得を計算し確定申告を行った上で税金を納付することになります。
一方で法人化するということは、今ご自身でやられている事業を個人事業主から法人に移して法人としてフリーランスエンジニア業を行っていくということになります。ビジネスとしては大きく変わりませんが、税金の種類が所得税から法人税へ変わることになります。法人税は所得税と計算方法が異なってくるため、同じビジネスを行っていても課税される税額が異なることになります。
フリーランスエンジニアが法人化する上で検討する法人の種類
会社法上、法人は4つ存在します。合名会社、合資会社、合同会社、株式会社の4つになります。このうち、一般的に使われているのが合同会社と株式会社になります。合同会社と株式会社の1番の違いは、株式会社はオーナーである株主が変更になることを前提に制度が設計されているため、自己の持分を譲渡しやすい形式となっています。一方で合同会社の場合は株式ではなく持分という形態になっており、自由に譲渡することがあまり想定されていない設計となっております。ただし、上場会社でもない限りあまり譲渡する機会はないと思いますので、費用を抑えるのであれば合同会社を選択する方が一般的には多い傾向にあります。
フリーランスエンジニアが知っておくべき法人の基礎知識
個人事業主をしていると法人という概念にイメージが湧かない人もいると思います。法人で事業をやるということはご自身が法人の代表取締役として事業を行うことを意味します。代表取締役は法人を代表して、意思決定した内容が法人の効果として現れます。例えば契約を行う場合法人は人ではないので自力で契約することはできないため、代表取締役が代わりに契約を締結してその法人の法的な効果が及ぶようにするわけです。
フリーランスエンジニアが法人化した場合に得られるメリットとは?
フリーランスエンジニアが個人事業主から法人化した場合、どのようなメリットが得られるのでしょうか?
個人よりも経費の範囲が広い
個人の場合は事業所得というのが一般的で事業に関連して発生した経費が対象となってきます。一方、法人の場合は原則法人で発生した費用は損金という形で法人の経費になりますので、多くの場合は個人事業主よりも法人の方が経費に入れられる範囲は広くなることが多いです(ただし、法人だからと言ってプライベートな経費を法人で計上できるわけではないので気をつけましょう)。
有限責任のためリスクが限定的
合同会社や株式会社は有限責任という形式の会社形態です。これは、自己が出資した金額以上に債務責任を負うことがないということを意味しています。個人で債務を負う場合には個人の直接負担となるため、自己破産等しない限り債務から逃れることができません。ただ連帯保証を法人と個人オーナーで結んでいる場合には、当然個人にも債務負担の影響があります。
決算期が個人と異なり決めることができる
個人の場合は全員、3月15日までに前年分の所得を申告して納付する義務があります。一方で法人の場合は、設立時に決算期を自分で決めることになります。これは自由に定めることができるため、12月末でなくても良いのです(例えば2月でも6月でも大丈夫です)。
社会的信用を得られる場合がある
法人との取引以外をNGとしている企業もあるため、個人名で事業を行うよりも法人名で事業を行う方が一般的には社会的な信用力があるとみられます。また法人の中でも合同会社よりは株式会社の方が一般的には信用力があるとみられることが多いです。
役員報酬と給与所得控除の活用
法人の場合は、役員報酬という形で給与を支払うことにありますが、これは役員であるご自身の所得税法上の給与所得になります。この場合、給与所得控除という形で経費を一定額計上することができるので、この部分が節税効果となります。当然役員報酬は法人税法上のルールに従って費用計上する前提においては損金参入することが可能となっております。
消費税について2年間免除の可能性
消費税については売上高が一定規模未満の場合、免税事業者といい消費税の納付を行わなくて良くなります。法人の場合は最大2年間この免除制度を適用することが可能です。一方で、免税事業者の場合は消費税の還付を受けることもできません。還付を受ける場合は課税事業者としての登録と消費税申告書の提出が必要となります。
フリーランスエンジニアが法人化する場合の流れ
法人の登記に関して住所の確保
法人登記を行うにあたっては、法人の設立場所となる住所が必要となります。個人事業主からの法人化は自宅住所を使うケースもあると思いますが、最近ではバーチャルオフィスのように法人設立用の住所が用意されているサービスもありますので、活用を検討してみるのも良いでしょう。
定款作成や資本金の設定
法人登記については、定款の作成や法人設立に必要な資本金を設定する必要があります。資本金の金額によっては、消費税の申告が必要になったり、支払う税額が異なってくるなど税務面で大きな影響があるので、必要に応じて税理士へ相談するようにしましょう。
定款の認証
定款は作成しただけでは法人登記することはできません。公証人役場で公証人の認証を受けた定款でなくてはならないのです。
司法書士へ依頼するかどうかの検討
法人登記をご自身で行うか、それとも司法書士に依頼するかを検討する必要があります。商業登記については司法書士が代理することができますが、当然料金がかかってきます。そのためコストを安くしたいという方については、少し大変ですがご自身で設立登記を進めていくという選択肢もあるでしょう。
法人用の銀行口座や印鑑登録
法人を設立したら、法人用の銀行口座を開設したり、契約書に使用するための印鑑登録を行う必要があります。法人ができる前には法人が存在しないため、法人用の銀行口座等を開設することができません。法人設立後速やかに対応するようにしましょう。
必要に応じて顧問税理士と契約
必ずではありませんが、必要に応じて顧問税理士を付けるかどうかを検討しましょう。特に法人税の申告は個人の確定申告と異なり非常に難易度が高く、ある程度経理や税務の知見がないと申告書を作成することができません。一般的に法人の申告は税理士に依頼することが多いため、検討をしてみてください。
社会保険などの手続き
個人事業主と異なり法人は協会けんぽなどの健康保険や、国民年金ではなく厚生年金に加入する必要があるため、そのための手続きなどが必要になってきます。
税務署等への必要書類の提出
個人事業主の場合もそうですが、法人を設立した際にも税務署等への届出が必要となります。具体的には、①法人設立届出書、②青色申告の承認申請書、③給与支払事務所等の開設届出書(該当ある場合)、④源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書(該当ある場合)、となります。
フリーランスエンジニアが法人化を検討する時期
ではフリーランスエンジニアはどのタイミングで法人化を検討するのが良いのでしょうか?
売上が1,000万円を超える場合
売上が1,000万円を超えてくると消費税申告の対象になってくるケースがあります。消費税申告も所得税の申告と異なり内容が複雑なのと一定の税務知識がないと対応が難しい分野です。そのため、このタイミングで法人化して顧問税理士をつけて本格的に事業を拡大させていく場合が多いです。
一定の課税所得があるケース
一定金額を超える課税所得がある場合にも法人化を検討すべきだと思います。法制度によって金額は変わっていくのですが、一般的には800万円というラインが一つ検討を進める上での目安になってきます。個人事業主と法人の税金の仕組みとして所得税は累進課税なので所得が高ければ税率も高くなりますが、法人の場合は所得に関係なく一定ですので、課税所得がある点を超えると法人税で計算した方が税額を抑えられることになるのです。
共同事業を行う場合
他のエンジニア等と共同で事業を行う場合にも法人形式にした方がスムーズな場合が多いです。個人事業主同士で行う場合には、契約で定めた上で、費用や収益についても一定のルールを決めて按分してそれに基づいて個々人が確定申告を行うことになりますが、非常に複雑です。会社形態を活用して収支を管理し申告した方が非常に効率的です。
フリーランスエンジニアが法人化した場合に得られるデメリットとは?
ここまではフリーランスエンジニアが法人化した場合に得られるメリットを中心に解説してきましたが、逆にデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか?
法人住民税は赤字でも固定
法人の場合は、法人税に加えて法人住民税、法人事業税を支払うことになります。法人住民税には均等割という計算があり、この計算上は法人の決算が黒字か赤字かにかかわらず一定の金額を支払うことになります。そのため例え赤字だっとしても法人税は支払う必要がありませんが、法人住民税は毎年必ず支払わなければなりません。
社会保険の負担が増加
個人事業主の場合には、国民健康保険と国民年金でしたが、法人化した場合には協会けんぽの健康保険と厚生年金を支払う必要があります。一般的には個人事業主よりも法人化した場合の方が社会保険の負担が重たくなるため、当然支出額も増えます。
法人税申告などの費用負担
法人の場合は個人と異なり複雑な法人税の申告を行う必要があります。前述の通り自力で法人税申告を行うことは難易度が高いため、一般的にはプロフェッショナルである税理士へ依頼することが多いです。ただし税理士へ支払う報酬が発生するため、個人事業主よりも法人化した方が費用負担は増加する可能性があります。
法人にかかる専門知識の必要性
前述で記した法人税もそうですが、法人化した場合には法人住民税の税負担の問題や、株主総会の開催など個人事業主とは異なるイベントが多く発生することになります。これらの知識を深く知る必要はありませんが、対応できるもしくは誰かに聞ける程度の知識は有しておく必要があるでしょう。
役員報酬の変更が難しい
先ほど、役員報酬と給与所得控除で節税という話がありましたが、法人税法上役員報酬は弾力的に変更することができません。多くの企業が採用しているのが定期同額という毎月の報酬が同じ場合に損金計上ができるという仕組みですが、これは報酬金額をルール範囲外で変更した場合には損金性が否認されてしまうため、法人の収支が悪いからと言って簡単に変更できるものではないのです。
フリーランスエンジニアの法人化をサポートするプロフェッショナル
税理士
税金の面であらゆるサポートを顧客に対して行なっています。法人化の時点では、資本金を税務の面からいくらにすべきか、決算期をいつにすべきか、そして法人化した際の届出書の代行などを行なってくれます。
司法書士
司法書士は登記のスペシャリストで、法人化においては会社設立登記の面でサポートをしてくれます。会社設立にあたってはさまざまな書類の作成が必要になるので、事業に集中したく手続きに時間をかけたくないという人は、司法書士の検討をするのも良いと思います。
社会保険労務士
社会保険労務士は社会保険関係の届出でサポートしてくれます。税理士はあくまで税務が守備範囲で社会保険関係はライセンスの範囲外となります。例えば健康保険や厚生年金関係の届出等が該当してきます。
行政書士
行政書士は会社設立時の官公庁向けの許認可においてサポートをしてくれます。
フリーランスエンジニアが法人化するメリットのまとめ
以上、フリーランスエンジニアが法人化するメリットを含めて解説をしてまいりました。本記事を参考に、ぜひ法人化について検討をされてみてください。
税理士をお探しの方は、宮嶋公認会計士・税理士事務所へお問合せください(初回無料相談)
この記事の作成者 宮嶋 直 公認会計士/税理士 京都大学理学部卒業後、大手会計事務所であるあずさ監査法人(KPMGジャパン)に入所。その後、外資系経営コンサルティング会社であるアクセンチュア、大手デジタルマーケティング会社であるオプトの経営企画管掌執行役員兼CFOを経験し、現在に至る。