法人を設立し事業を運営していくことは、多くの経営者にとって大きな挑戦です。個人事業主とは異なり、法人は法律によって独立した人格を与えられた存在であり、その活動には厳格なルールと責任が伴います。特に、会計処理や税務申告の複雑さは個人事業とは比較にならず、経営者が一人で全てを完璧にこなすことは至難の業と言えるでしょう。
「法人の確定申告はどうすればいいのか」「日々の経理処理が追いつかない」「もっと効果的な節税対策はないだろうか」「税務調査が来たらどうしよう」。会社を経営する中で、このような悩みや不安は尽きません。
こうした法人の経営者が抱える税務・会計の課題を解決し、事業の成長を強力にサポートするのが、税理士という専門家の存在です。税理士は、単に申告書を作成するだけの存在ではありません。あなたの会社の財務状況を客観的に分析し、経営の羅針盤となり、資金調達の際には金融機関との橋渡し役にもなる、かけがえのないパートナーです。
しかし、税理士に依頼すると言っても、「具体的にいくらかかるのか」「顧問契約とスポット契約はどう違うのか」「自社にとって本当に必要なのか」といった、費用や契約に関する疑問は尽きないものです。
この記事では、法人が税理士に依頼することを検討している全ての経営者の皆様に向けて、税理士を活用するメリットから、具体的な費用相場、そして最適な税理士の選び方までを、網羅的かつ徹底的に解説していきます。
この記事を読み終える頃には、あなたは税理士の活用に関するあらゆる疑問が解消され、自社の未来を託すに足るパートナー選びを、自信を持って進めることができるようになっているはずです。
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法人が税理士へ依頼する際の費用相場について徹底解説
法人は確定申告が必要?
まず、最も基本的な疑問からお答えします。法人は確定申告が必要なのでしょうか。
結論:全ての法人が申告義務を負う
答えは明確に「はい、全ての法人が必要」です。個人事業主の場合は、年間の所得が一定額以下(基礎控除額など)であれば、確定申告の義務が免除されることがあります。しかし、法人の場合は、その事業規模や所得金額に関わらず、法律(法人税法など)によって、事業年度ごとにその経営成績と財務状況を計算し、税務署へ申告することが厳格に義務付けられています。
これは、法人が社会的な存在として、株主や債権者、取引先など多くの利害関係者に対して、経営状況を報告する責任(アカウンタビリティ)を負っているためです。税務申告は、その最も基本的で重要な義務の一つなのです。
赤字でも申告は必要か
多くの経営者が誤解しやすいポイントですが、会社が赤字(欠損)であったとしても、確定申告の義務は免除されません。税務署に提出する申告書は、税金を納めるためだけのものではなく、「今期はこれだけの活動をして、結果として赤字でした」という経営成績を報告するための書類でもあるからです。
赤字だからといって申告を怠ると、「無申告」という最も重いペナルティの対象となります。税務署は、申告が行われない法人に対して、売上などから推計して課税(推計課税)を行うこともあり、その結果、本来払う必要のなかった税金まで課されるリスクさえ生じます。
赤字申告の重要なメリット「欠損金の繰越控除」
むしろ、赤字の時こそ、正確に申告を行うべき強い理由があります。それは、「欠損金の繰越控除」という制度です。
これは、青色申告の承認を受けている法人が、その事業年度に生じた赤字(欠損金)を、翌事業年度以降最大10年間にわたって繰り越すことができる制度です。そして、将来黒字が出た場合に、その黒字から過去の赤字を差し引いて、課税所得を計算することが認められます。
例えば、ある期に500万円の赤字を出し、翌期に800万円の黒字が出たとします。もし赤字の申告をしていなければ、800万円の黒字に対して法人税が課されます。しかし、赤字を繰り越しておけば、翌期の課税所得は800万円から500万円を差し引いた300万円となり、納税額を大幅に圧縮できます。
この極めて強力な節税メリットは、赤字の年度にも期限内に正しく確定申告を行っていることが大前提となります。赤字だからこそ、税理士に依頼してでも正確な申告を行うべきなのです。
法人の確定申告の提出期限
法人が負う申告義務には、厳格な期限が定められています。この期限を守ることは、企業の信用を維持する上で非常に重要です。
原則は「事業年度終了の日の翌日から2ヶ月以内」
法人の確定申告の提出期限は、原則として各事業年度の終了の日の翌日から2ヶ月以内と定められています。
例えば、3月31日決算の法人であれば、5月31日が申告と納税の期限となります。12月31日決算の法人であれば、翌年の2月末日が期限です。この期限までに、法人税だけでなく、消費税、地方税(法人住民税・法人事業税)の申告と納税を完了させなければなりません。
申告期限の延長制度
法人の場合、株主総会の開催準備や、監査法人の会計監査などで、決算の確定に時間がかかり、2ヶ月以内に申告書を作成することが物理的に困難なケースがあります。
そのため、一定の要件(定款で株主総会を事業年度終了から3ヶ月以内に開催すると定めているなど)を満たした上で、事前に「申告期限の延長の特例の申請書」を税務署に提出しておくことで、申告期限を原則として1ヶ月間延長することが認められています。
3月31日決算の法人であれば、この特例を適用することで、申告期限を5月31日から6月30日へ延長できます。ただし、この手続きはあくまで申告書の提出期限を延長するものであり、次に述べる納税の期限は原則として延長されない点に注意が必要です。
納税の期限
法人税などの納税期限は、原則通り、事業年度終了の日の翌日から2ヶ月以内です。申告期限の延長を適用した場合でも、納税期限は延長されません。
そのため、申告期限を延長する法人は、本来の納税期限(3月決算なら5月31日)までに、前年度の税額の半分など、一定の金額を「見込納付」として先に納めておく必要があります。この見込納付を怠ると、申告書を提出するまでの期間(この例では6月30日まで)について、「利子税」という延滞利息に似たペナルティが発生してしまいます。
このように、法人の申告期限の管理は非常に複雑です。税理士に依頼することで、こうした期限管理や延長手続き、見込納付の計算などを全て正確に行ってもらえるため、経営者は本業に集中することができます。
法人にとって税理士を活用するメリット
個人事業主とは比べ物にならないほど複雑な法人の税務会計を、専門家である税理士に依頼することには、計り知れないメリットがあります。それは、単に手間が省けるという次元の話ではなく、企業の存続と成長に直結する戦略的な価値を持ちます。
メリット1:本業への集中(経営資源の最適配分)
法人経営者が行うべき最も重要な仕事は、経理作業ではありません。未来のビジョンを描き、戦略を立て、営業活動を行い、従業員を導くことです。しかし、法人の会計処理は複式簿記が必須であり、貸借対照表や損益計算書の作成など、専門的な知識と多くの時間を要します。
経営者自身がこの煩雑なバックオフィス業務に貴重な時間を奪われてしまうのは、企業全体にとって大きな機会損失です。税理士に会計・税務業務を委託することで、経営者や従業員は、自らが最も価値を発揮できる本業のコア業務にリソースを集中させることができます。これは、生産性の向上と事業の成長を加速させる最大のメリットと言えます。
メリット2:正確な税務申告と税務リスクの回避
法人税法や消費税法は極めて複雑で、毎年のように改正が行われます。専門家でない経営者が全てのルールを完璧に把握し、正確な申告書を作成することは不可能です。もし申告内容に誤りがあれば、税務調査で指摘され、本来の税金に加えて過少申告加算税や延滞税といった重いペナルティを課されることになります。
税理士に依頼すれば、税法のプロフェッショナルが、最新の法令に基づき正確な申告を行ってくれます。これにより、申告漏れや計算ミスといった税務リスクを限りなくゼロに近づけることができ、経営者は安心して事業運営に専念できます。
メリット3:戦略的な節税対策(タックスプランニング)
税理士の価値は、単に「計算された税金を報告する」ことだけではありません。「合法的な範囲でいかに税負担を最適化するか」という**戦略的な節税(タックスプランニング)**を提案してくれる点にあります。
節税と脱税は全く異なります。税理士は、法律で認められた様々な優遇措置や特例制度を駆使し、あなたの会社にとって最も有利な選択肢を提案します。
具体的な節税提案の例
- 役員報酬の最適化: 会社の利益計画に基づき、法人税と経営者個人の所得税・社会保険料のバランスが最も良くなる役員報酬額をシミュレーションします。
- 各種税制優遇の活用: 中小企業向けの投資促進税制や研究開発税制、所得拡大促進税制など、適用可能な税額控除や特別償却を漏れなく活用します。
- 退職金制度の設計: 経営者や従業員のための退職金制度を設計し、将来のキャッシュアウトに備えつつ、計画的に損金(経費)を作ります。
- 設備投資のタイミング: 減価償却の仕組みを利用し、どのタイミングで設備投資を行えば税務上最も有利になるかをアドバイスします。
メリット4:経営状態の客観的な把握(経営の羅針盤)
経営者が自社の状況を「なんとなく」で把握している状態は、非常に危険です。税理士と顧問契約を結ぶと、毎月あるいは四半期ごとに「月次試算表」が提供され、経営者は自社の最新の経営成績と財務状況を、客観的な数字で把握できます。
税理士は、その数字を分析し、「売上は伸びているが、原価率が悪化している」「資金繰りが厳しくなる兆候がある」といった、経営上の重要なサインを早期に指摘してくれます。この「経営の見える化」が、感覚だけに頼らない的確な意思決定の基盤となります。
メリット5:資金調達(融資)の円滑化と社会的信用の向上
企業が成長するためには、設備投資や運転資金のための資金調達(融資)が不可欠です。金融機関が融資審査で最も重視するのは、「決算書の信頼性」と「事業計画の妥当性」です。
税理士が作成に関与した決算書は、それだけで金融機関からの信用度が格段に高まります。また、融資を申し込む際に、税理士がサポートして作成した事業計画書や資金繰り計画書は、説得力が違います。税理士は、日頃から金融機関の担当者とコミュニケーションを取っていることも多く、融資の相談や交渉をスムーズに進めるための橋渡し役としても機能します。
税理士の顧問契約とスポット契約の違い
法人が税理士に依頼する際の契約形態は、大きく分けて「顧問契約」と「スポット契約」の二種類があります。それぞれの特徴を理解し、自社の状況に合った形態を選ぶことが重要です。
顧問契約とは
顧問契約は、税理士と継続的な契約を結び、毎月一定の顧問料を支払うことで、日常的な会計・税務のサポートを受ける形態です。
顧問契約に含まれる一般的なサービス
- 記帳指導または記帳代行: 自社で記帳する場合の指導(自計化支援)、あるいは領収書などを渡して記帳自体を任せる(記帳代行)
- 月次決算・巡回監査: 毎月の会計データを確認し、試算表を作成・報告
- 定例ミーティング: 試算表を基にした経営状況の報告と経営相談
- 日常的な税務相談: 電話やメール、チャットなどでいつでも税務に関する質問に対応
- 源泉所得税の納付書作成
- 年末調整・法定調書の作成(顧問料とは別料金の場合も多い)
顧問契約のメリットとデメリット
メリットは、会社の「かかりつけ医」として常に経営状況を把握してもらえるため、問題の早期発見や積極的な節税提案が期待できることです。税務調査の際にも、日頃の状況を理解しているため万全の対応が可能です。 デメリットは、事業が小規模でも毎月固定の費用が発生することです。
スポット契約とは
スポット契約は、顧問契約を結ばず、特定の業務が発生した時だけ、単発で依頼する形態です。
スポット契約の主な例
- 決算申告のみ: 一年分の会計データは自社で作成し、最後の決算書作成と法人税申告書の作成・提出だけを依頼する。
- 税務調査の立会いのみ: 税務調査の連絡が来た際に、その対応だけを依頼する。
- 会社設立手続きのみ: 会社設立に関する手続きと届出だけを依頼する。
- 融資支援のみ: 特定の融資案件に関する事業計画書の作成支援だけを依頼する。
スポット契約のメリットとデメリット
メリットは、継続的なコストがかからず、必要なサービスだけをピンポイントで利用できるため、トータルの費用を抑えられる可能性があることです。 デメリットは、税理士がその業務の範囲でしか関与しないため、会社の全体像や経営課題を深く理解してもらえず、経営に関するアドバイスや積極的な節税提案は期待できないことです。また、「決算申告のみ」の料金は、顧問契約を結んでいる場合の決算料よりも割高に設定されていることが一般的です。
法人における最適な選択
結論から言えば、活動実態のある法人の場合、原則として顧問契約を結ぶことを強く推奨します。法人の税務申告は、年に一度の作業で完結するほど単純なものではありません。日々の取引の積み重ねが申告の基礎となり、そのプロセスで多くの税務判断が求められます。
経営のアドバイスや節税対策、税務調査への備えといった、税理士活用の真のメリットは、継続的な顧問契約によってこそ得られるものです。「決算申告のみ」のスポット契約は、コストを抑えたい小規模な法人にとっては魅力的に見えるかもしれませんが、長期的に見れば、顧問契約による経営改善効果や節税メリットの方が、はるかに大きくなるケースがほとんどです。
法人が税理士を活用する際の費用相場
税理士に依頼する上で最も気になるのが費用です。法人の税理士費用は、会社の規模や依頼する業務内容によって大きく変動します。ここでは、一般的な費用相場を、構成要素ごとに詳しく解説します。
費用の構成要素
法人が税理士に支払う費用は、主に以下の4つの組み合わせで構成されます。
- 月額顧問料: 毎月の帳簿チェックや経営相談、税務相談の対価として支払う固定費用です。
- 記帳代行料: 領収書や請求書の整理、会計ソフトへの入力を税理士に丸ごと任せる場合の費用です。自社で記帳(自計化)する場合は発生しません。
- 決算申告料: 年に一度の決算書作成と、法人税・消費税などの申告書作成・提出に対する費用です。一般的に、月額顧問料の4ヶ月分から6ヶ月分が相場です。
- その他オプション料金: 年末調整や給与計算、償却資産税申告、税務調査の立会いなどを依頼する場合に、別途発生する費用です。
費用相場の変動要因
顧問料や決算料が変動する主な要因は、以下の通りです。
- 会社の年間売上高: 最も大きな変動要因です。売上が大きいほど取引量が増え、会計処理が複雑になり、税理士の責任も重くなるため、費用は高くなります。
- 記帳代行の有無: 記帳代行を依頼するかどうかで、月額費用は大きく変わります。自社でクラウド会計などを導入し、記帳(自計化)する方が、費用は安くなります。
- 訪問頻度: 税理士による訪問が毎月なのか、四半期に一度なのか、あるいは訪問なしのオンライン面談のみなのかによって、顧問料が変わります。
- 業種の特殊性: 建設業や医療、不動産業、国際取引など、専門的な知識が必要な業種は、顧問料が高めに設定されることがあります。
- 従業員数: 給与計算や年末調整を依頼する場合、従業員数に応じて費用が加算されます。
具体的な費用相場(年間売上高別)
ここでは、「記帳代行なし(自計化)」の場合と、「記帳代行あり」の場合に分けて、年商別の年間費用(月額顧問料+決算申告料)の目安を示します。
年商1,000万円未満
- 記帳代行なし: 月額顧問料 1.5万円~3万円 + 決算料 10万円~15万円
- 年間合計:約30万円~50万円
- 記帳代行あり: 月額顧問料 2.5万円~4万円 + 決算料 12万円~18万円
- 年間合計:約45万円~70万円
年商1,000万円~3,000万円
- 記帳代行なし: 月額顧問料 2.5万円~4万円 + 決算料 15万円~20万円
- 年間合計:約45万円~70万円
- 記帳代行あり: 月額顧問料 3.5万円~5万円 + 決算料 18万円~25万円
- 年間合計:約60万円~85万円
年商3,000万円~5,000万円
- 記帳代行なし: 月額顧問料 3万円~5万円 + 決算料 18万円~25万円
- 年間合計:約55万円~85万円
- 記帳代行あり: 月額顧問料 4万円~6万円 + 決算料 20万円~30万円
- 年間合計:約70万円~100万円
年商5,000万円~1億円
- 記帳代行なし: 月額顧問料 4万円~6万円 + 決算料 20万円~30万円
- 年間合計:約70万円~100万円
- 記帳代行あり: 月額顧問料 5万円~8万円 + 決算料 25万円~40万円
- 年間合計:約85万円~130万円
年商1億円~3億円
- 記帳代行なし: 月額顧問料 5万円~8万円 + 決算料 25万円~40万円
- 年間合計:約85万円~130万円
- 記帳代行あり: この規模になると、記帳代行の費用は取引量に応じて個別見積もりとなることが多いですが、月額6万円以上になることが一般的です。年間合計で120万円~200万円程度が目安です。
オプション費用の相場
- 年末調整: 基本料金 1.5万円~3万円 + 従業員1人あたり 1,000円~3,000円
- 給与計算: 従業員1人あたり 月額1,000円~3,000円
- 償却資産税申告: 2万円~5万円
- 税務調査立会い: 日当 5万円~10万円
どのような法人が税理士を活用すべきか?
法人の経営において、税理士のサポートは非常に重要ですが、特に以下のような特徴を持つ法人は、税理士を積極的に活用すべきであり、そのメリットを最大限に享受できると言えます。
創業期の法人(設立1~3年目)
設立したばかりの法人は、まさに税理士のサポートが最も必要な時期です。
- 経理体制の構築: ゼロから正しい会計処理のルールを作り、クラウド会計ソフトの導入などを支援してもらう必要があります。
- 資金調達: 創業融資や追加融資を受けるため、金融機関の信頼を得られる事業計画書や試算表の作成が不可欠です。
- 各種届出: 青色申告の承認申請など、期限のある重要な届出を漏れなく行う必要があります。
- 経営の基礎固め: 経営者自身が経営数字を読み解く力を養うためにも、専門家の伴走が必要です。
バックオフィスに人材を割けない法人
多くの中小企業では、社長自身が経理を兼任していたり、営業担当者が片手間で経理作業を行っていたりするケースが少なくありません。しかし、これは本業のパフォーマンスを低下させる大きな要因です。
専任の経理担当者を一人雇用すれば、社会保険料なども含めると、年間で数百万円のコストがかかります。それに対して、税理士に記帳代行を含めて依頼すれば、雇用するよりもはるかに安いコストで、経理・税務のプロフェッショナルを確保できます。経営資源が限られる中小企業こそ、アウトソーシングを賢く活用すべきです。
経営改善や事業拡大を目指す法人
「売上は伸びているのに利益が残らない」「資金繰りがいつも苦しい」「次の成長戦略を描きたい」。このように、現状の経営に課題を感じている法人こそ、税理士の経営アドバイスが活きてきます。
客観的な財務分析を通じて問題点を明らかにし、節税策やコスト削減策を提案してもらうことで、経営体質は大きく改善します。税理士は、守りの専門家であると同時に、会社の成長を共に目指す攻めのパートナーでもあるのです。
資金調達を定期的に必要とする法人
設備投資や事業拡大のために、金融機関からの融資を定期的に必要とする法人は、税理士との顧問契約が必須です。金融機関は、融資審査の際に過去数期分の決算書と直近の試算表の提出を求めます。税理士が関与した信頼性の高い書類を、迅速に提出できる体制は、資金調達のスピードと成功率を大きく左右します。
事業承継や相続を控えている法人
経営者の年齢が上がり、将来の事業承継が現実的な課題となっている法人は、一刻も早く専門の税理士に相談すべきです。事業承継には、自社株の評価や後継者への株式移転、相続税対策など、極めて専門的で複雑な問題が絡み合います。準備には、数年から10年単位の時間がかかるため、手遅れになる前に対策を始める必要があります。
法人はどのような方法で税理士を探すことができるのか?
自社にとって最適なパートナーとなる税理士を見つけ出すためには、いくつかの方法を組み合わせ、多角的に候補者を探すことが有効です。ここでは、法人が税理士を探すための主な方法を紹介します。
金融機関(銀行・信用金庫)からの紹介
法人が税理士を探す上で、最も信頼性が高く、効果的な方法の一つが、取引のある金融機関からの紹介です。 銀行や信用金庫の担当者は、日頃から多くの企業の決算書を見ており、どの税理士が信頼できるか、クライアントの経営に貢献しているかを熟知しています。特に、融資に強い税理士を探している場合、金融機関が推薦する税理士は、融資審査のポイントを理解しており、その後の連携もスムーズです。
経営者仲間や知人からの紹介
同じく法人を経営している知人や、取引先の社長からの紹介も、有力な手段です。実際にサービスを利用している経営者からの、「レスポンスが早い」「節税提案が的確」といったリアルな評判は、何よりも信頼できる情報源となります。 ただし、紹介された手前、もし相性が合わなくても断りにくいという心理的な負担が生じる可能性もあります。また、その会社にとっては良くても、自社の業種やステージに合っているとは限らないため、必ず複数の候補と比較することが重要です。
インターネット検索
現在、最も手軽で豊富な情報が得られる方法です。「税理士 〇〇(地域名) 〇〇(業種名)」「法人設立 融資 税理士」といったように、自社の状況やニーズに合わせたキーワードで検索することで、専門性の高い税理士事務所を見つけやすくなります。 ウェブサイトでは、事務所の理念や得意分野、料金体系、具体的な支援事例などを確認できます。特に、自社と同じ業種の支援実績が豊富に掲載されている事務所は、有力な候補となります。
税理士紹介サービス(プラットフォーム)
「自分で探す時間がない」「客観的な視点で選びたい」という経営者には、税理士紹介サービスが有効です。専門のコーディネーターに、「年商〇〇円のIT業で、クラウド会計に強く、資金調達も相談できる税理士を、予算〇〇円で探している」といった具体的な要望を伝えることで、条件に合った税理士を複数紹介してもらえます。
法人が税理士を選ぶ際のポイント
候補となる税理士事務所がいくつか見つかったら、次は、面談などを通じて、自社にとって最高のパートナーを一人選び出すステップです。料金の安さだけで決めるのは、絶対に避けましょう。以下のポイントを総合的に吟味し、長期的な視点で判断することが重要です。
専門性:自社の業界・業種に精通しているか
これが、最も重要なポイントの一つです。法人の税務は、業種によって論点が大きく異なります。例えば、建設業であれば工事進行基準や建設業許可の問題、IT業であればソフトウェアの会計処理や研究開発税制の問題、飲食業であれば原価管理や軽減税率の問題などです。 面談の際には、自社と同じ業種の顧問先がどのくらいあるか、具体的な支援事例はあるかを必ず質問しましょう。業界の商習慣や特有の課題を理解している税理士でなければ、的確なアドバイスは期待できません。
提案力:節税や経営改善の提案があるか
税理士には、二つのタイプがいます。依頼された申告業務を正確にこなす「作業屋」タイプと、会社の未来を見据えて積極的に経営改善策や節税策を提案する「パートナー」タイプです。 法人が活用すべきは、後者です。面談の際に、自社の決算書(あれば)を見せ、「どのような改善点が考えられますか」「どのような節税策が有効ですか」と質問してみましょう。その回答の具体性や熱意から、税理士のスタンスを見極めることができます。
コミュニケーション:相性とレスポンス
税理士とは、会社の最も重要な情報を共有し、長期的に付き合っていくパートナーです。専門知識と同じくらい、コミュニケーションの取りやすさや、人間的な相性が重要になります。
- 説明の分かりやすさ: 経営者が理解できる平易な言葉で説明してくれるか。
- 相談のしやすさ: どんな些細なことでも気軽に質問できる雰囲気か。
- レスポンスの速さ: メールやチャットへの返信が迅速か。
- 人柄: 経営者のビジョンに共感し、共に成長しようという熱意が感じられるか。
ITへの対応力(クラウド会計など)
現代の経営において、ITの活用は不可欠です。「freee」や「マネーフォワード クラウド」といったクラウド会計ソフトに精通しているか、Zoomなどでのオンライン面談に柔軟に対応してくれるか、チャットツールでのスピーディーなやり取りが可能か。こうしたITへの対応力は、業務の効率性と経営状況のリアルタイムな把握に直結します。
料金体系の明確さと妥当性
契約後のトラブルを避けるためにも、料金体系が明確であることは必須です。見積書には、月額顧問料や決算料にどの業務が含まれ、何がオプション(別料金)になるのかが、具体的に記載されているかを確認しましょう。料金の絶対額だけでなく、提供されるサービスの価値と見合っているかという、費用対効果の視点で判断することが大切です。
法人が税理士を活用する際によくある質問の例と回答
ここでは、法人の経営者が税理士に依頼する際に、よく抱く疑問とその回答をまとめました。
Q1. 決算申告だけ(スポット)で依頼したいのですが、可能ですか?
A1. はい、可能です。決算申告のみをスポットで受け付けている税理士事務所は多数あります。ただし、法人の場合、顧問契約を結ぶことが一般的であるため、スポット契約の料金は、顧問契約の場合の決算料よりも割高に設定されているケースがほとんどです。また、節税対策や経営アドバイスといった継続的なサポートは受けられず、税務調査の際のリスクも高くなるため、基本的には顧問契約をお勧めします。
Q2. 経理担当者がいますが、税理士は必要ですか?
A2. はい、必要であるケースがほとんどです。経理担当者は、日々の記帳や請求書発行といった「経理実務」を行うのが主な役割です。一方、税理士は、それらの実務が正しく行われているかをチェックし、専門的な税務判断を下し、申告書を作成する「税務」のプロです。また、経理担当者には難しい、節税対策の立案や金融機関との交渉、経営分析といったコンサルティングも、税理士の重要な役割です。経理担当者と税理士は役割が異なり、両者が連携することで、最強の管理部門が構築できます。
Q3. 税理士を変更(切り替え)したいのですが、手続きは大変ですか?
A3. いいえ、経営者が思っているほど大変ではありません。新しい税理士を見つけて契約すれば、その税理士が、現在の税理士との引き継ぎ業務(過去の資料の返却依頼など)もサポートしてくれることがほとんどです。決算申告が終わったタイミングなどで、スムーズに移行することが可能です。サービスに不満がある場合は、会社の成長のために切り替えを検討することも、重要な経営判断です。
Q4. 税理士費用は経費になりますか?
A4. はい、税理士に支払う顧問料や決算料、記帳代行料などは、全額、会社の経費(「支払手数料」や「支払報酬料」などの勘定科目)として処理することができます。
まとめ
法人の経営において、税理士は単なる「申告書の作成代行者」ではありません。それは、個人事業主時代の認識とは大きく異なります。法人の税務申告は、その複雑さと法的責任の重さにおいて個人とは比較にならず、その適正な運用は、企業の存続そのものに関わります。
この記事では、法人が税理士に依頼することの重要性から、具体的なメリット、費用相場、そして最適なパートナーの見つけ方までを、徹底的に解説してきました。
税理士をパートナーに迎えることは、煩雑な経理業務から解放され、経営者が本業に集中するための時間を生み出します。それだけでなく、正確な税務申告によるリスク回避、戦略的な節税によるキャッシュフローの最大化、客観的な経営分析による意思決定の精度の向上、そして金融機関からの信用力強化による円滑な資金調達といった、計り知れない価値をもたらします。
法人の経営者にとって、税理士に支払う費用は、単なるコストではなく、会社の未来を守り、成長を加速させるための、最も重要で効果的な「投資」の一つです。
その重要な投資を成功させるためには、料金の安さだけで選ぶのではなく、あなたの会社の業種やステージを深く理解し、ビジョンに共感し、共に成長を目指してくれる、真のパートナーを見極めることが不可欠です。インターネットや金融機関からの紹介など、あらゆるチャネルを活用し、複数の専門家と直接対話し、「この人になら会社の未来を託せる」と心から信頼できる相手を、選び抜いてください。
この記事が、あなたの税理士選びという重要な航海の確かな羅針盤となり、あなたの会社が輝かしい未来へと力強く発展していく一助となれば幸いです。
税理士をお探しの方は、宮嶋公認会計士・税理士事務所へお問合せください(初回無料相談)
この記事の作成者 宮嶋 直 公認会計士/税理士 京都大学理学部卒業後、大手会計事務所であるあずさ監査法人(KPMGジャパン)に入所。その後、外資系経営コンサルティング会社であるアクセンチュア、大手デジタルマーケティング会社であるオプトの経営企画管掌執行役員兼CFOを経験し、現在に至る。
