本記事では、企業が外部に会計監査を依頼する場合に、誰に監査を依頼すれば良いのか、費用感はどの程度で、どのようなことに留意する必要があるかを理解する目的で書いております。本記事を読むことで、会計監査を依頼する際のポイントが理解できるようになります。
公認会計士をお探しの方は、宮嶋公認会計士・税理士事務所へお問合せください。料金表は税務顧問になっていますが、もちろん公認会計士なので、会計監査も対応可能です(初回無料相談)。
会計監査を依頼する場合どうすれば良い?現役会計士が徹底解説
会計監査とは何か?
まず会計監査とは何かについて記載します。会計監査は主に法定監査と任意監査に分けることができます。法定監査とは会社法や金融商品取引法など、法律によって会計監査が義務とされている場合に行われる監査のことになります。法律要件に従って、会計監査を独占業務として認められた専門家である公認会計士が監査を行うことになります。法定監査の目的は、企業が作成した財務諸表が一定の定められた会計ルールに従って適切に作成・開示されているかを公認会計士がチェックして、適切性に関する意見を表明するものになります。企業が作成したのみでは、株主や金融機関からすると適切に作成されているかどうかが判断できず、それに基づいて投資や融資を行なった場合、万が一その数字が意図的もしくは意図しなくても誤っていた場合に大損害を被る可能性があるため、外部に会計監査を依頼することが義務化されているのです。また外部に会計監査を依頼と言っても誰でも良いというわけではなく、会計監査がよくわかっていない素人に会計監査をしてもらってもそのお墨付きは株主や金融機関からしてみてもあまり意味もあるものではありません。そこで日本だけでなく海外も同じ仕組みですが、公認会計士という制度を創設して、会計監査のプロである公認会計士に企業が作成した財務諸表を監査してもらうことを義務として、意見を表明してもらうことで、安心して株主や金融機関に企業への投資・融資をしてもらうことを成り立たせているのです。
ここまでは法定監査について記載をしてきました。なお法定監査については会社法や金融商品取引法以外にも、特殊な法律で設立した企業や学校などの団体についても法定で定められている場合は公認会計士による法定監査が必要になります。一方で任意監査とは何でしょうか?こちらは目的としては企業が作成した財務諸表が適切かどうかを意見するという点においては同じなのですが、会社法などの法律上で要請されているものではない監査という位置付けになります。例えば、法律上定められてはないものの、毎期の売上や利益が正しく計上しているかを経営者としてしっかりと把握したいという観点から任意に公認会計士監査を依頼したり、もしくは例えば共同事業を行う契約書の中で、共同事業の主体となる会社(ジョイントベンチャーと呼ばれることもありますが)の決算が正しいかどうかをお互いの株主がしっかりと把握するために、公認会計士監査を入れるというようなパターンもあります。いづれにせよ、監査という目的や実施する内容は同じですが、法律で定められているか否かが法定監査と任意監査の違いとなってきます。
なお会計監査に近いものとして、合意された手続き、というものもあります。こちらは参考程度ですが、会計監査は企業が作成した財務諸表に対して意見を表明するものなので、書き方はおいておくとして公認会計士としてはその適切性に対して意見を述べる必要があります(意見を述べない監査意見はないのです)。一方で合意された手続きは、予め顧客とどのようなチェックをするのかをしっかりと契約書上で詰めておき、その正確性等について契約書に従って検証をしていくというような手続きになっております。そのため合意された手続きにおいては、監査意見のように対象物に対して何かしら意見を述べるようなことはありません。意見を述べるものが監査で、意見を述べず事実だけをコメントしていくのが合意された手続き、となります。
この違いは会計監査は、財務諸表そのものの適切性全体に意見を付与するので、財務諸表全体を見る必要があります。小さい企業であれば全てをチェックすることも可能ですが、上場しているような大手企業になってくると監査する公認会計士の人数が限られている中では、網羅的に細かい部分もチェックするのはリソース的にも時間的にも不可能ですし、たとえできたとしても顧客である大手企業の監査コスト負担が莫大なものとなってしまい現実的ではありません。そのため公認会計士はその監査手続き上、重要な監査項目に優先順位をつけて絞り、監査を行なっていくのです。そのため、監査の計画が非常に重要になりリスクも一定高いことから、監査意見をつけるということはコストが高くなってしまいます。一方で監査意見をつける必要はないが作成された数字の適切性にコメントは欲しいというケースで合意された手続きが使われるケースが多いです。この場合、もちろん合意した内容についてはしっかりと正確性を確認するという義務は負うものの、対象が限定されており包括的な意見を公認会計士側が求められることがないため、監査と比較するとリスクが減り、結果として報酬も会計監査よりも若干安くなる傾向になります。
なぜ会計監査を依頼するのか?
上記で述べたとおり、法的に要請されている法定監査については、そもそも法律として公認会計士や監査法人の監査を受けることで財務諸表の適切性を担保することが決まっているものであり、このルールを逸脱することはできません。一方で任意監査(つまり法律では要請されていないものの、会社やその他団体が任意で監査を受けるもの)についてはどのような目的があるのでしょうか?一番大きな目的は財務諸表の信頼性を外部のプロフェッショナルに担保してもらうことで、会社としての信頼性向上や資金調達などをスムーズに行う効果があります。
監査の種類
監査には公認会計士が行う会計監査以外にも、監査役が行う監査役監査、内部監査部署が行う内部監査があります。監査役とは、監査役が会社法上で設置が義務付けられている会社もしくは任意に監査役を設置している会社において、取締役の業務の適切性を監督する目的で株主に選任されて配置される会社法上の役員となります。監査役が会社において全体の監査をリードすることになるわけですが、会計監査は非常に特殊な知識と経験が必要になってくるため、会計監査部分を公認会計士もしくは監査法人に依頼することが一般的となっています。その点では、公認会計士・監査法人と監査役は非常に密接な関係にあるのです。また内部監査部署は、一般的に社長の直轄化にあることが多く他の部署から独立して各部署が会社のルール通りに適切に業務を行っているかどうかを調査する部署となります。監査役の監査は取締役を監督するものであるのに対して、内部監査は各部署の細部まで含んだ業務が対象になるため監査役の監査よりもさらに細かい単位で監査を実施することになります。内部監査の実施結果は監査役の監査や公認会計士・監査法人の会計監査に活用されたりすることもあります。
会計監査は誰に依頼すべきか?
会計監査について概要が掴めた上で、会計監査を実際に依頼する場合に誰に依頼をすれば良いのでしょうか?会計監査は法律上、公認会計士の独占業務となります。これは法定監査でも任意監査でも公認会計士の資格がなければ、監査を行うことはできません。そのため、会計監査を依頼する場合には、必ず公認会計士へ依頼するようにしましょう。類似した資格として税理士の資格がありますが、税理士の独占業務は税務申告や税務相談など税に関する事項となります。そのため確定申告の代行を依頼したり、税務に関する相談をしたい場合には税理士へ相談をするようにしましょう。なお公認会計士は税理士登録をすることで税務業務を行うことが可能で、多くの独立した公認会計士は税理士とダブルライセンスで事業を展開していることが多いです。なので、公認会計士と税理士の両方を持っている公認会計士であれば会計監査と税務の両方を相談することが可能です(当事務所も公認会計士と税理士の両方を登録しております)。
なお、公認会計士及び税理士以外に、会計監査に関する事項や税務に関する事項を依頼した場合、その依頼を受けた側は完全に法令違反になります。これは会計監査や税務をアドバイスできる人材は高度に専門性を持った人材であり、誰でもできるような業務ではなく、かつ非常に社会性を求められるため、資格制度として難易度の高い資格の位置付けで限定されたライセンス保有者のみがサービス提供できる仕組みにしているのです。
会計監査はどのような会社が法律上必要なのか?
上場会社(金融商品取引法)
こちらは先述と一部重複しますが、法定監査を受ける必要がある企業についてもう少し詳細を記載していきます。まず最もメジャーなのは上場企業です。上場企業は証券取引所に上場しており、日々株式が売買されていることから、財務諸表の信頼性というのが極めて重要になってきます。上場企業の場合は金融商品取引法という法律に従って公認会計士の監査が必要となります(上場している企業の場合は、後述する会社法に基づく監査も併せて必要になります)。金融商品取引法に基づく監査が会計監査の中では最も重たく、会計ルールも最も細かく難易度が高いものになります。特に日本基準ではなく国際会計基準であるIFRSを適用している上場会社では、IFRSに対応できる会計事務所がまず限られてくる(IFRSに対応できる公認会計士が限定されてくるため、大手の国際会計事務所が中心となります)ことになります。上場企業の場合、対象となる財務諸表は有価証券報告書(四半期の場合は四半期報告書)となります。なお上場会社の場合は、原則会計監査以外にも内部統制に関して公認会計士の監査を併せて受ける必要があります。
スタートアップの場合は、上場を基本的には目指すためIPOでの公認会計士の役割といえば一番大きいのは上場時の金融商品取引法に基づく会計監査(準金融商品取引法監査と言ったりもしますが)となります。そのためスタートアップからしてみると、莫大な開示書類を作成して公認会計士の監査を受けることになるので、かなりの労力がかかることになります。
会社法上の大会社
続いて、資本金5億円以上、負債の金額200億円以上の会社(いわゆる大会社)が公認会計士の監査対象となります。このような大会社については会社法のルールに従って会社法計算書類という決算書を作成し、公認会計士の会計監査を受けることとなります。なお会社法計算書類は上場会社の有価証券報告書もしくは四半期報告書と異なり、株主に対する報告目的で作成されるものなので、主に株主総会の招集通知に添付されて送付されることになります(有価証券報告書や四半期報告書はEDINETという上場企業の開示書類を掲載している公共のサイトに掲載されます)。
会社法上の監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社
また大会社に類似したものとして、会社法の会社機関の一類型である、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社、についても公認会計士・監査法人の会計監査が必要になります。
その他の会社
上記以外には、例えば海外で上場しているため外国の法律に基づいて海外の公認会計士の監査が必要となるケースや(公認会計士監査が必要なケースは国によって制度が全く異なるため、その前提でご理解ください)、会社法以外の法律に従って設立される企業や団体のうち、その根拠法の中で会計監査の義務が課せられているものになります。
会計監査はどのように進んでいくのか?
では実際に会計監査を公認会計士へ依頼した場合、どのように手続きが流れていくのでしょうか?まずは公認会計士と契約を締結すると公認会計士の方から会社理解のために、ビジネスモデルや組織構造、会計に関連するオペレーションの洗い出しやその承認フローの状況など、概括の情報から依頼がくることが多いです。書類の提出もそうですが、オペレーションなどは経理担当者や責任者が公認会計士に対して説明をすることもしばしばあります。このような概括的な理解が公認会計士の方で進んでくると、続いて帳簿種類の確認及び取引ごとの証憑類のチェックを公認会計士側から依頼されます。この証憑チェックが公認会計士の監査手続のメインの一つとなってきます。証憑チェックと併せて、減損会計や税効果会計など会計特有の論点に対する議論も行われます。基本的には減損会計基準や税公開会計基準等に従って企業側でどのようにロジックを整理し当てはめているか、その当てはめた結果どのような結論になり数字になったのか、この流れを公認会計士からヒアリングされ、具体的な資料や質問が続くことになります。最近では、減損や税効果など会計の世界では評価項目と言ったりもしますが、財務諸表に与える影響額が極めて大きいため、公認会計士も企業側が作ったロジックと会計基準のルールとの整合性チェックにかなりの時間を使うようになっています。
上記のような各種手続を踏まえた上で、公認会計士側で監査意見を表明する準備を行います。監査意見は監査報告書という形で企業側に提出されます。監査意見は、財務諸表が適正であることを示す適正意見、財務諸表が誤っていることを示す不適正意見、そして監査意見を形成するに情報が十分に足らなかった場合に出す意見不表明、の3つとなります。
監査手続のイメージとして以下のようなものが挙げられます。
貸借対照表や損益計算書と帳簿との整合性
まず会計監査においては、監査の対象となる貸借対照表・損益計算書(場合によってはキャッシュフロー計算書)と、その元となる帳簿との数字の整合性をチェックする事が多いです。
現預金や固定資産、在庫などの実在性確認
会計監査は監査の対象となる特定の日付を決めることになりますが(期末日)、期末日の資産残高を実査・立会という手続きに基づいて公認会計士自ら現場に行って、その実在性を確認することがあります。
売掛金や買掛金、銀行預金残高などの確認状
売掛金や買掛金など取引先との間に残高が期末日において存在しているものは、現金の入出金を確認するだけでなく、取引先へ確認状という形で残高の確認を書面にて行う事があります。また金融機関に対してはブランクの銀行確認状を送付し、実際に帳簿に記載されている銀行残高があるかどうかを確認することが一般的です。
減損や引当金などの特殊論点
会計基準によって、会社は固定資産における評価(減損に該当する資産がないかどうか)や、各種引当金(貸倒引当金や退職給付引当金など)の計上要否を検討する必要があります。公認会計士は会社が行った検討の前提の妥当性や計算の正確性などを監査することになります。
会計監査に関する費用について
会計監査について公認会計士に支払う報酬はどの程度になるのでしょうか?企業の規模や業種、取引量、または根拠となる法律等によって監査報酬は全く異なってきますが、公認会計士の報酬形態として想定される時間×公認会計士の時間単価、で計算することが多いです。つまり、その企業の財務諸表の監査に際して多くの時間がかかると見込まれれば、それだけ請求される費用は高くなることが多いです。初年度は見積りが難しいので概算見積もりで進むことが多いですが、2年目以降は1年目の実績があるため、それに基づいて増額されたりする場合もあります。その他国内の別の拠点への出張がある場合は、それにかかる旅費交通費も請求されることになりますし、監査に必要な提出資料の作成や外部への依頼に関しても顧客側の費用負担となります。
概ねの目安金額ですが、どんなに小さい会社だっとしても100万円以上の年間報酬になることが多いと思います。中小規模の企業でも少なくとも年間数百万円の監査費用で、上場企業クラスになると少なくとも数千万円レベルの監査報酬になります。そのため、公認会計士の監査を受ける企業は一定の売上・利益と継続して利益を生み出せる状況になっていないと、なかなか受ける余力ができません。
なお、公認会計士の団体として監査法人というのものがありますが、こちらについて解説をいたします。監査法人は公認会計士が集まって設立された法人であり、公認会計士単独だとあくまでも個人の会計事務所という扱いになります。なぜ監査法人が存在しているかというと、その理由の大きな1つとして監査法人でないと監査ができない規模が法定で定められているからです。わかりやすい事例でいくと、上場企業に対する会計監査は公認会計士単独ではなく監査法人による会計監査が求められています。
なお監査法人になると、監査法人を運営維持していくために内部ルールを整備したりなど細かいルールが増えていくため、報酬としても公認会計士個人よりも監査法人の方が高くなる傾向になります。
会計監査まとめ
以上にように会計監査について、その概要や公認会計士・監査法人の役割について記載をしてきました。こちらの記事を参考にいただき、会計監査を外部に依頼する際にお役立てください。
公認会計士をお探しの方は、宮嶋公認会計士・税理士事務所へお問合せください。料金表は税務顧問になっていますが、もちろん公認会計士なので、会計監査も対応可能です(初回無料相談)。
この記事の作成者 宮嶋 直 公認会計士/税理士 京都大学理学部卒業後、大手会計事務所であるあずさ監査法人(KPMGジャパン)に入所。その後、外資系経営コンサルティング会社であるアクセンチュア、大手デジタルマーケティング会社であるオプトの経営企画管掌執行役員兼CFOを経験し、現在に至る。