本記事では、医療法人が受ける会計監査について、会計監査が義務付けられている医療法人とは何か、医療法人が負っている義務や、任意監査を受けたい場合のメリット、などについて解説をしております。本記事を確認いただくことで、医療法人で監査を受ける基礎知識を身につけることができます。
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医療法人の監査とは?
医療法人の監査とは具体的にどのようなものでしょうか?まず、医療法人は毎会計年度終了後二月以内に、事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、関係事業者(理事長の配偶者がその代表者であることその他の当該医療法人又はその役員と厚生労働省令で定める特殊の関係がある者をいう。)との取引の状況に関する報告書その他厚生労働省令で定める書類(以下「事業報告書等」という。)を作成しなければならない、という定めが医療法上でなされています。また、医療法人の監事が上記の事業報告書等を監査しなければらないという法律規定となっています。
そもそも会計監査を公認会計士・監査法人から受けるか受けないかに関わらず医療法人としては、毎年事業報告書等を作成して、監事の監査を受ける義務を負っています。また、事業報告書等は社員や債権者からの閲覧請求があった場合には閲覧させる必要があり、こちらを記載すべき事項を記載していなかったり、正当な理由なく拒んだ場合には罰則があります。
では、上記の中で公認会計士もしくは監査法人の会計監査を受ける必要があるのはどのような医療法人となるのでしょうか?
医療法人において公認会計士・監査法人の監査を受ける対象とは?
医療法人において、公認会計士・監査法人の監査を受ける対象とはどのようなものになるのでしょうか?具体的には下記の通りとなります。
・最終会計年度にかかる負債額の合計が50億円以上、又は収益額の合計が70億円以上である医療法人
・最終会計年度にかかる負債額の合計が20億円以上、又は収益額の合計が10億円以上である社会医療法人
・社会医療法人債を発行している社会医療法人
・地域医療連携推進法人
の4つとなります。このように法律に要請された監査のことを法定監査と言います(逆は任意監査と言います)。これらの医療法人については、法律上公認会計士もしくは監査法人の会計監査が必須となります。
医療法人の監査について法定監査の基準とは?
医療法人の監査が法定監査かどうかを判定するための基準として、何の会計基準に基づいた数字を基準に判断すれば良いのかがポイントになってきます。こちらは厚生労働省が作成している医療法人会計基準について(Q&A)に記述があり、「都道府県知事に届け出る従来から適用している会計処理基準に従って作成した貸借対照表、損益計算書により判定すればよい。」との回答があります。つまり医療法人会計基準に従って作成された貸借対照表・損益計算書に基づいて判定する必要はないということになります。この点、医療会計基準に従って必ずしも法定監査の判定を行わない点については留意ください。
医療法人の監査について公認会計士・監査法人の会計監査とは?
医療法人の監査について、具体的に公認会計士・監査法人の会計監査とはどのようなことをするのでしょうか?会計監査とは、公認会計士もしくは監査法人が医療法人の作成した決算書(ここでは、財産目録・貸借対照表・損益計算書が会計監査の対象となります)に対して、医療法の定めに従って正しく作成されているかどうかをチェックし、監査意見の中で適切性を保証するものになります。社会性の高い医療法人が正しく経営され、事業継続に問題ないかどうかを会計監査を通じて関係者がチェックすることができます。
なぜ公認会計士・監査法人の監査が必要かというと、決算書が正しいかどうかの判断を行うためには、専門の会計知識と監査経験が必要となるからです。特に規模が大きくなってくると、限られた時間の中で全ての項目を監査するのいは不可能ですし、全て見ようとすると膨大なコストがかかってしまいます。そのため会計監査おいてはミスが発生しそうな項目を中心に監査契約を立てて、サンプルベースで監査を行っていくことになります。このような進め方は公認会計士・監査法人の知見と経験によるもので、全くの素人の方ができるものではないため、公認会計士・監査法人に限定されているわけです。
医療法人の監査について税務調査と何が違うのか?
医療法人の監査について、税務署が行う税務調査と何が違うのでしょうか?医療法人について、税務調査の対象となる確定申告書は、決算書に基づいて作成されています。確定申告書は税務のルールに従って決算書に調整を加えて作成するもので、そもそも会計監査と税務調査は基本となるルールも異なりますし、目的も異なってきます。税務調査の視点は税法通り正しく確定申告書が作成され納税されているかを確認するものになります。医療の税務等に関する記事は過去にアップしておりますので、そちらを参照ください。
監査対象の医療法人における理事長の責任
監査対象の医療法人において理事は正しい決算書を作成する責任を負うことになります。このため、当然正しい帳簿作成及び決算書を作成するために必要な内部統制を整備・運用したり、法定監査が必要な医療法人については公認会計士もしくは監査法人の会計監査を受け、監査を受けた事業報告書及び監査報告書等を都道府県知事へ毎会計年度終了後3月以内に届け出る必要があります。この責任に対しては医療法上の罰則も設けられています。
医療法人の任意監査について
法定監査対象となっている以外の医療法人が監査を受けたい場合はどうなるのでしょうか?任意監査という形で公認会計士・税理士の監査を受けることができます。任意監査とは、法定監査と同じ内容で公認会計士・監査法人の会計監査が受けられる制度です。法定監査と同じように決算書を監査し、適切に作成されているかどうかの意見を監査意見書にて表明するものです。任意監査のメリットとしては、法定監査と同じように不正やミスなく決算書が作成され、医療法人としての事業運営が正しくなされているか、事業継続に問題ないかを判断するための材料となります。任意監査についても過去に記事(任意監査とは?任意監査のメリットを徹底解説)を作成しておりますので併せてご確認ください。
医療法人の監査はどのような流れで進んでいくのか?
医療法人の監査はどのような流れで進んでいくのでしょうか?まずは公認会計士・監査法人との契約の話からスタートします。医療法人の規模や取引の複雑性をヒアリングした上で見積もりが提示されます。見積もりが予算内であれば、公認会計士・監査法人と契約締結を行い、会計監査がスタートします。まずは公認会計士・監査法人から医療法人全体の理解のための資料依頼や全体のヒアリングからスタートします。加えて経理に関するオペレーションや内部統制を把握するため経理責任者や経理担当者へのヒアリングも併せて行われます。それらを踏まえた上で、勘定科目ごとに証憑のチェックを具体的に行っていく流れになります。証憑チェックにおいては、監査対象となる帳簿書類との整合性に関する質問や取引が発生した背景に関する質問がきます。これらの監査手続を踏まえた上で、ようやく監査意見書が発行されます。
医療法人における監査意見の種類
上記で触れた監査意見書について補足していきます。監査意見書には、監査を行って問題が発見されなかった旨を示す無限定適正意見、必要な監査が一部できなかったもしくは一部に重大な誤りがあったことによる限定付適切意見、監査を行った結果重大な問題を発見したため発行する不適正意見、十分な監査ができなかったため表明する意見不表明があります。
医療法人における監査の費用はどの程度か?
ここで、会計監査を受けるための料金について、解説をしていきます。まず公認会計士の報酬体系の基本的な考え方は、その顧客の会計監査にどの程度の時間がかかるかがベースにあります。公認会計士の料金の基本的な考え方は公認会計士の時間単価×会計監査に費やされると想定される時間になります。公認会計士の時間単価については関与する公認会計士の経験年数によって変わってきます(基本的には数万円〜10万円程度)。まあかかる工数については、顧客の企業の業態やビジネスモデルの複雑性、もしくは取引量によっても変わってきますし、監査が初年度か2年目以降かによっても変わってきます。監査の料金はこのように一概に言えない部分はありますが、最低料金でも数百万円の前半代からになることが想定されます。
このように監査料金は正直安いものではありませんし、任意監査だっとしてもある程度報酬が支払える財務体質を持った医療法人でないと依頼するのは難しいかと思います。なぜ公認会計士の料金が高いかというと、監査報告書には財務諸表の適切性を保証した義務があり、保証した公認会計士には社会的責任が発生するからです。このような背景があり、公認会計士の会計監査は公認会計士にとっても一定のリスクがあることから、料金が一定程度請求できないとリスク対効果が見合わないためです。そのため、監査リスクが非常に高いと判断された企業の会計監査の依頼は受けない場合もありますし、あまりにも報酬減額要請が多い顧客については受注拒否される可能性もあります。
会計監査の料金については過去の記事、会計監査の料金と費用相場はいくらぐらい?現役公認会計士が徹底解説、でも解説しておりますので、併せてご確認ください。
医療法人における財務調査の利用
これまでは医療法人における監査(法定監査及び任意監査)について解説をしてきましたが、特に任意監査を受けるにあたっては、監査を受ける体制づくりができていない医療法人もあるかと思います。その際には、監査ではなくて財務調査を選択することも1つの手です。これは監査のように財務諸表のお墨付きをもらえるものではありませんが、監査を受けるための準備として、どのような部分が足りてないのか、適切な財務諸表を作成するにはどのような内部統制を構築し運用すれば良いのか、などの指摘を受ける事ができます。
社会医療法人における留意点
期中で医療法人が社会医療法人になった場合、法定監査の判定はどのように行うのでしょうか?条文上は、最終会計年度の基準について触れています。最終会計年度とは財務諸表について監事等の承認を受けた直近の会計年度を言います。そのため期中に医療法人が社会医療法人になったとしても、直近会計年度において医療法人として法定監査が必要かどうかを判断することになります。
医療法人の監査のまとめ
以上のように医療法人の監査について解説を行ってきました。法定監査もしくは任意監査を受ける際のご参考にいただけると光栄です。
公認会計士をお探しの方は、宮嶋公認会計士・税理士事務所へお問合せください。料金表は税務顧問になっていますが、もちろん公認会計士なので、会計監査も対応可能です(初回無料相談)。
この記事の作成者
宮嶋 直 公認会計士/税理士 京都大学理学部卒業後、大手会計事務所であるあずさ監査法人(KPMGジャパン)に入所。その後、外資系経営コンサルティング会社であるアクセンチュア、大手デジタルマーケティング会社であるオプトの経営企画管掌執行役員兼CFOを経験し、現在に至る。