企業の成長戦略の頂点に輝くIPO(株式新規公開)。創業者にとってそれは夢の実現であり社会的な成功の証です。しかしその華やかな舞台の裏側には想像を絶するほどの緻密な準備と厳しい審査が存在します。数年にも及ぶ上場準備期間はまさに企業が脱皮し公開企業としてふさわしい体質へと生まれ変わるための試練の道のりです。
この長く険しい道のりを独力で歩むことは不可能です。主幹事証券会社や監査法人をはじめとする多くの専門家のサポートが不可欠となります。そしてその中でも経営者に最も近い立場で財務・税務の側面から企業を支え導く羅針盤となるのが「IPOに強い税理士」の存在です。
しかしIPO支援を謳う税理士は数多く存在します。その中から自社の未来を託するに足る真のプロフェッショナルをいかにして見つけ出すのか。これはIPOの成否を左右する極めて重要な経営課題と言えるでしょう。
本記事ではこれからIPOを目指す経営者や担当者の方々が最高のパートナーとなる税理士と出会うために必要な知識と考え方を網羅的かつ徹底的に解説します。IPOの本質的な理解から始まり税理士が果たすべき役割や具体的なサービス内容そして最も重要な「選び方」と「探し方」さらには費用相場まで深く掘り下げていきます。この記事があなたの会社の未来を切り拓く一助となることを確信しています。
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IPOに強い税理士を探す方法
IPOとは何か?
IPOという言葉は聞いたことがあってもその本質を正確に理解している方は意外と少ないかもしれません。まずIPOとは何かその基本的な定義から見ていきましょう。
IPOの基本的な定義
IPOとは「Initial Public Offering」の略称です。日本語では「株式新規公開」あるいは「新規上場」と訳されます。具体的にはこれまで創業者一族や少数の株主(ベンチャーキャピタルなど)のみが株式を保有していた未上場企業が証券取引所の定める基準をクリアし自社の株式を一般の投資家が自由に売買できるようにすることです。
これは企業にとって非常に大きな変化を意味します。閉鎖的だった株式の所有が開放的になり企業は社会の公器「パブリックカンパニー」として生まれ変わるのです。証券取引所に上場することで企業は市場から直接資金を調達する道が拓かれ成長をさらに加速させることが可能となります。
未上場企業と上場企業の違い
IPOを境に企業はそのあり方を根本から変える必要があります。未上場企業と上場企業の主な違いは以下の点に集約されます。
資金調達 未上場企業は主に金融機関からの借入(間接金融)や特定の投資家からの出資に資金調達を依存します。一方上場企業は株式市場で新株を発行することにより不特定多数の投資家から直接資金を調達(直接金融)できます。これにより大規模な設備投資やM&Aなどダイナミックな成長戦略を展開しやすくなります。
社会的信用 上場企業となるためには証券取引所の厳しい審査を通過しなければなりません。その審査は企業の収益性や成長性だけでなくコーポレートガバナンスや内部管理体制といった組織の健全性にも及びます。上場しているという事実はそれ自体が社会的な信用の証となり取引先や金融機関からの信頼を高めビジネスを有利に進める上で大きなアドバンテージとなります。
情報開示義務 未上場企業の情報開示は限定的です。しかし上場企業は株主である一般投資家保護の観点から法律に基づき厳格な情報開示義務を負います。四半期ごとの決算発表や重要事項の適時開示など企業の経営状況を常に透明性高く社会に公表し続けなければなりません。
株主構成と経営 未上場企業では多くの場合経営者と株主が一致しています。そのため経営者の意思決定が迅速に行われます。しかし上場企業では株主が多様化し経営者は株主全体の利益を最大化する責任を負います。株主総会などを通じて常に株主からの厳しい視線に晒されることになり経営の自由度は一定の制約を受けます。
IPOのプロセス概要
IPOは思い立ってすぐにできるものではありません。一般的に監査法人や主幹事証券会社と契約を結び本格的な準備を開始してから上場を果たすまでには約3年の期間を要します。この期間は上場申請を行う期をN期としてN-1期 N-2期 N-3期と呼ばれます。
N-3期:準備の開始 この時期はまずIPOを目指すという社内の意思統一から始まります。そしてIPO支援経験の豊富な監査法人や税理士を選定します。監査法人による短期調査(ショートレビュー)を受け上場に向けて解決すべき課題を洗い出します。この課題リストに基づき長期的な資本政策の検討や内部管理体制の整備計画を策定します。
N-2期:本格的な体制構築 ショートレビューで指摘された課題を解決していくフェーズです。月次決算の早期化や会計基準の整備 規程類の作成 内部監査部門の設置など上場企業としてふさわしい管理体制を本格的に構築していきます。主幹事証券会社を選定し上場に向けた具体的な指導が始まります。
N-1期:直前期監査と申請書類作成 この期は上場申請の直前期にあたり監査法人による金融商品取引法に準ずる厳格な会計監査が行われます。これと並行して主幹事証券会社や各種専門家のサポートのもと膨大な量の上場申請書類(Ⅰの部 Ⅱの部など)を作成していきます。経営の根幹に関わるあらゆる情報がここで文書化されます。
N期:申請・審査・上場 作成した申請書類を証券取引所に提出し厳しい審査を受けます。審査官との質疑応答などを経て無事に承認が得られると晴れて上場日を迎えることになります。
関与する主要なプレイヤー
IPOという壮大なプロジェクトは多くの専門家の協力なくしては成り立ちません。
- 主幹事証券会社: IPOプロジェクト全体の司令塔です。資本政策のアドバイスや上場申請書類の作成指導 証券取引所との折衝そして最終的な株式の販売まで中心的な役割を担います。
- 監査法人: 独立した第三者の立場から会計監査を行い財務諸表の適正性を担保します。またショートレビューを通じて上場に向けた課題を抽出する重要な役割も担います。
- 証券取引所: 上場審査の主体です。企業が上場企業としてふさわしいかどうかを厳格に審査し最終的な承認を下します。
- ベンチャーキャピタル(VC): 成長初期の段階で出資を行い株主として経営をサポートします。IPOはその投資の出口(イグジット)戦略の最も代表的なものです。
- IPO支援税理士: 本記事の主役です。経営者に最も近い立場で資本政策の税務的側面からのアドバイスや監査法人との橋渡し役 内部管理体制の構築支援など守りの要としてIPO準備を支えます。
IPOの目的
企業はなぜ多くの困難を乗り越えてまでIPOを目指すのでしょうか。その目的は企業によって様々ですが主に以下のようなものが挙げられます。
資金調達力の向上
IPOの最も直接的かつ最大の目的は資金調達力の飛躍的な向上です。株式市場という広大な海に漕ぎ出すことで企業はこれまでとは比較にならない規模の資金を調達する能力を手に入れます。
未上場企業が大規模な資金を必要とする場合その選択肢は主に銀行からの借入(デットファイナンス)に限られます。しかし借入には返済義務と利息負担が伴い財務体質を圧迫する可能性があります。また銀行の審査も厳しく必ずしも望む金額を望むタイミングで調達できるとは限りません。
一方上場企業は新株発行(エクイティファイナンス)による資金調達が可能となります。これは返済不要の自己資本であり調達した資金を大胆な研究開発や設備投資 M&Aなどに活用することで事業の成長スピードを劇的に加速させることができます。市場の評価が高ければ高いほどより有利な条件で大規模な資金調達が実現できるのです。
社会的信用の獲得
証券取引所に上場するということはその企業が厳しい審査基準をクリアした「お墨付き」を得ることを意味します。この「上場企業」というステータスは目に見えないながらも非常に強力な資産となります。
社会的信用が高まることで様々なビジネス上のメリットが生まれます。新規の取引先を開拓しやすくなったり既存の取引先との関係がより強固になったりします。金融機関からの評価も向上しこれまでよりも有利な条件で融資を受けられるようになります。企業のブランドイメージが向上し製品やサービスの販売にも好影響を与えるでしょう。この社会的信用は企業の持続的な成長を支える強固な基盤となるのです。
人材採用力の強化
企業の成長を支える最も重要な資源は「人」です。特に成長著しいベンチャー企業にとって優秀な人材をいかに確保するかは死活問題です。IPOは優秀な人材を惹きつける強力なマグネットとして機能します。
上場企業という知名度と信頼性は求職者にとって大きな魅力です。多くの優秀な学生やキャリアを持つ社会人が企業の将来性に期待し応募してくるようになります。またIPOによって得た資金を従業員の待遇改善や福利厚生の充実に充てることもできます。さらに後述するストックオプション制度は従業員に大きなインセンティブを与え優秀な人材の獲得と定着に大きく貢献します。
創業者利益の実現
企業の創業者や初期の投資家にとってIPOは大きな経済的リターンを得る機会となります。これを創業者利益(キャピタルゲイン)の実現と呼びます。
未上場企業の株式は流動性が低く売却したくても買い手を見つけるのが困難です。しかしIPOによって株式が市場で売買されるようになると創業者や株主は保有する株式の一部を市場で売却し投下した資本を回収し利益を確定させることができます。このキャピタルゲインは創業者にとってこれまでの苦労が報われる瞬間であり新たな事業への挑戦や社会貢献活動の原資ともなり得ます。
従業員の士気向上
IPOは経営者だけでなく従業員にとっても大きな目標でありモチベーションの源泉となります。自分たちが所属する会社が社会的に認められ成長していく姿を目の当たりにすることは大きな誇りと仕事へのやりがいに繋がります。
その士気をさらに高める仕組みがストックオプション制度です。これは従業員が自社の株式をあらかじめ定められた価格(権利行使価格)で購入できる権利を与える制度です。上場後に株価が権利行使価格を上回れば従業員は市場価格よりも安く株式を取得し売却することでキャピタルゲインを得ることができます。会社の成長が直接自分の利益に結びつくため従業員はより一層経営に当事者意識を持ち業績向上に貢献しようと努力するようになります。
M&A戦略の選択肢拡大
上場企業の株式は市場で客観的な価格がつくためM&A(合併・買収)の際の交渉ツールとして非常に有効です。自社の株式を対価として他社を買収する株式交換という手法が使えるようになります。これにより手元の現金を使わずにM&Aを実行することが可能となり成長戦略の選択肢が大きく広がります。
IPOにおける税理士の役割
IPO準備プロセスにおいて税理士はどのような役割を果たすのでしょうか。通常の顧問税理士とは異なるIPO特有の役割について深く掘り下げていきます。
顧問税理士とIPO支援税理士の違い
まず理解すべきは日々の記帳代行や税務申告を行う「顧問税理士」とIPO準備を支援する「IPO支援税理士」は必ずしも一致しないということです。
多くの企業には創業以来付き合いのある顧問税理士がいます。彼らは会社の歴史をよく理解し節税対策などには長けているかもしれません。しかしIPO支援には税務申告とは全く異なる高度な専門知識と経験が要求されます。監査法人や証券会社との丁々発止のやり取り 資本政策の税務インパクト分析 内部統制の構築支援などその業務は多岐にわたります。
残念ながら全ての税理士がこれらの業務に精通しているわけではありません。IPO経験のない税理士に準備を任せてしまうと監査法人や証券会社からの厳しい要求に対応できず準備が滞ってしまうリスクがあります。そのため多くの企業は既存の顧問税理士とは別にIPO支援を専門とする税理士や会計事務所と新たに契約を結びます。
監査法人との連携役
IPO準備において企業が最初に対峙する大きなハードルが監査法人による会計監査です。監査法人は極めて厳格な基準で企業の財務諸表をチェックします。ここで不適切な会計処理が見つかれば過去の決算を遡って修正する必要が生じ準備スケジュールに大きな遅れをもたらします。
IPO支援税理士は監査法人が求める会計処理のレベルを熟知しています。彼らは監査が始まる前に企業の会計処理をチェックし監査法人の指摘を受けそうな論点を事前に洗い出し対策を講じます。そして監査の現場では企業の経理担当者と監査法人の間に立ち専門家としての見地から会計処理の妥当性を説明し円滑なコミュニケーションをサポートします。この「翻訳者」としての役割が監査をスムーズに進める上で非常に重要です。
資本政策の相談役
資本政策はIPOの成否と創業者利益の大きさを左右する最重要戦略です。いつ誰にどのくらいの価格で株式を割り当てるかという計画は一度実行すると後戻りができません。
資本政策は財務的な視点だけでなく税務的な視点からの検討が不可欠です。例えばストックオプションを発行する際その設計によっては従業員に多額の給与所得課税が発生しインセンティブとしての効果が薄れてしまうことがあります。また創業者の資産管理会社が株式を保有する場合その取引が税務上のリスクを生まないか慎重な検討が必要です。
IPO支援税理士は資本政策の各選択肢が将来の税負担にどのような影響を与えるかをシミュレーションし経営者が最適な意思決定を下せるよう税務の観点から助言します。
内部管理体制構築のサポート役
上場企業には投資家保護の観点から高いレベルの内部管理体制が求められます。これは単に社内規程を整備するだけでなく業務プロセスの中に不正や誤りを防ぐための仕組み(内部統制)を組み込むことを意味します。
IPO支援税理士は特に経理部門を中心とした内部管理体制の構築をサポートします。月次決算を早期に確定させるための業務フローの改善 予算実績管理制度の導入 関連当事者(社長やその親族など)との取引の整理など上場企業としてふさわしい経理体制の土台作りを支援します。これは後のJ-SOX(内部統制報告制度)対応の基礎ともなる重要な作業です。
IPOにおける税理士の提供サービス
ではIPO支援税理士は具体的にどのようなサービスを提供してくれるのでしょうか。その内容は多岐にわたりますがここでは主要なものを解説します。
資本政策の立案支援
前述の通り資本政策はIPOの根幹をなす戦略です。税理士は主に税務の観点からこの重要な戦略の立案を支援します。
- 税務シミュレーション: 創業者や役員 従業員 外部株主の株式移動(売却・贈与など)に伴う税負担を事前にシミュレーションします。特に創業者にとってはIPO時の株式売却によるキャピタルゲインだけでなく将来の相続まで見据えた総合的なタックスプランニングが重要となります。
- ストックオプションの設計支援: 税制適格ストックオプションの要件を満たす制度設計を支援し従業員の税負担を最小限に抑えつつインセンティブ効果を最大化するプランを提案します。
- 株主構成の最適化: 資産管理会社の活用や親族への株式移転など税務上有利な株主構成のあり方を検討し関連するリスクを洗い出します。
内部統制の構築支援
上場企業に求められる内部統制の構築は一朝一夕にはいきません。税理士は特に会計周りの内部統制構築を強力にサポートします。
- 決算早期化支援: 迅速な経営判断と適時開示の前提となる月次決算の早期化を実現するため業務プロセスの見直しや会計システムの導入支援を行います。上場企業では通常翌月の10営業日以内には月次決算を固めることが求められます。
- 管理会計制度の導入: 予算管理や原価計算といった管理会計の仕組みを導入し経営者が自社の業績を正確に把握し的確な意思決定を下せる体制を構築します。これは証券審査で問われる「事業計画の合理性」を示す上でも不可欠です。
- 規程類の整備: 経理規程や固定資産管理規程 関連当事者取引管理規程など会計に関連する社内規程のサンプル提供や作成支援を行います。
会計制度の整備・運用支援
上場企業の会計処理は中小企業会計とは異なりより厳格な会計基準(日本基準やIFRS)に準拠する必要があります。税理士は会計制度のレベルアップを支援します。
- 会計方針の策定: 収益認識基準や固定資産の減損会計など上場企業に求められる会計方針の策定を支援し監査法人のレビューに対応できる会計処理の基盤を整えます。
- 会計上の課題解決: 監査法人のショートレビューで指摘された会計上の課題について具体的な解決策を企業と共に検討し実行をサポートします。
申請書類(Ⅰの部、Ⅱの部)作成サポート
上場申請時に提出する「Ⅰの部」「Ⅱの部」といった書類には企業のあらゆる情報が記載されます。税理士は特に財務情報や税務に関する部分の作成をサポートします。
- 経理の状況: Ⅰの部に記載される財務諸表やその注記について監査済みの数値を正確に転記し必要な補足情報を整理します。
- 税効果会計に関する注記: 税効果会計の計算や関連する注記情報の作成を支援します。
- Ⅱの部に関する税務情報の提供: Ⅱの部に記載が求められる過去の税務申告の状況や税務調査の履歴 税務上のリスクなどについて情報を整理し記載内容をレビューします。
税務リスクの洗い出しと対応策の検討
上場審査では過去の税務コンプライアンスも厳しく問われます。過去に重大な申告漏れや税務上のリスクが存在する場合上場の大きな障害となり得ます。
税理士は企業の過去の税務申告書をレビューし税務調査で指摘されうるリスク(例えば交際費の認定、役員賞与の損金不算入など)を事前に洗い出します。そしてそのリスクに対する見解や修正申告の必要性などを検討し証券会社や取引所への説明ロジックを構築します。
IPOにおいて税理士を選ぶポイント
IPOの成否を左右するパートナー選びは慎重に行わなければなりません。ここではIPOに強い税理士を選ぶ上で絶対に外せないポイントを解説します。
IPO支援の実績数と質
最も重要な判断基準はIPO支援の具体的な実績です。単に「IPO支援やっています」というだけでは不十分です。「これまで何社のIPOを支援し無事に上場まで導いたか」という実績の「数」は客観的な指標となります。
さらに重要なのは実績の「質」です。どのような業種や規模の企業を支援した経験があるのか。自社と類似したケースの経験はあるか。主幹事証券や監査法人とどのような役割分担でプロジェクトを進めたのか。面談の際には過去の支援事例について具体的なストーリーを聞き出すことが重要です。成功事例だけでなく困難を乗り越えた経験などを語れる税理士は信頼に値する可能性が高いでしょう。
監査法人や証券会社との連携経験
IPO準備は監査法人や主幹事証券会社との三位一体の連携が不可欠です。税理士にはこれら外部専門家と円滑にコミュニケーションを取り時には企業の代弁者として対等に交渉する能力が求められます。
「大手監査法人と仕事をした経験は豊富か」「主幹事証券の厳しいデューデリジェンスに対応した経験はあるか」といった質問を投げかけてみましょう。監査法人や証券会社のカルチャーや思考様式を熟知している税理士であれば彼らが求める資料や説明を先回りして準備することができ企業の負担を大幅に軽減してくれます。
担当者の専門性とコミュニケーション能力
実際に自社の担当となる税理士個人の資質も重要な選定ポイントです。組織としての実績が豊富でも担当者が経験の浅い若手では意味がありません。
担当者自身にIPO支援の経験がどれだけあるか。公認会計士の資格も持っているか(会計監査への理解が深い)。そして何より経営者であるあなたと円滑にコミュニケーションが取れるかを見極める必要があります。専門用語を並べるのではなく経営者の視点に立って分かりやすく説明してくれるか。ささいな質問や相談にも親身に応じてくれるか。長期にわたるパートナーとして信頼できる人柄であるかどうかが重要です。
チーム体制とリソースの豊富さ
IPO準備は様々な課題が同時に発生する過酷なプロジェクトです。担当者一人だけの力で対応するには限界があります。
その税理士事務所がどのようなチーム体制でサポートしてくれるのかを確認しましょう。担当者の他に経験豊富なパートナーや他の専門スタッフがバックアップしてくれる体制が整っているか。会計だけでなく税務 国際取引 M&Aなど多様な専門性を持つ人材が揃っているか。組織としての総合力とリソースの豊富さは予期せぬトラブルに対応する上での安心材料となります。
IPOにおいて税理士を探す方法
では実際にIPOに強い税理士はどのように探せばよいのでしょうか。主要な方法をいくつか紹介します。
主幹事証券会社や監査法人からの紹介
最も確実で信頼性の高い方法の一つが主幹事証券会社や監査法人から紹介を受けることです。彼らはIPO市場の最前線にいるためどの税理士が本当に実力があるかを熟知しています。
彼らが紹介する税理士は過去の案件で共に仕事をしその能力を認めた相手です。そのため連携がスムーズに進むことが期待できます。IPO準備の初期段階で監査法人を選定する際に合わせて税理士の紹介を依頼するのが効率的です。
ベンチャーキャピタル(VC)からの紹介
スタートアップ企業の場合出資を受けているベンチャーキャピタル(VC)から紹介を受けるケースも多いです。VCは投資先企業の価値を最大化するためにIPO実現を強力にサポートします。
VCは数多くの投資先企業のIPOを支援してきた経験から信頼できる税理士のネットワークを持っています。自社のビジネスを深く理解してくれているVCからの紹介であればミスマッチが起こる可能性は低いでしょう。
Webサイトや専門メディアでの検索
近年はWebサイトやブログ SNSなどで積極的に情報発信を行う税理士事務所も増えています。IPO支援に関する専門的な記事やセミナー情報を発信している事務所は有力な候補となり得ます。
ただしWeb上の情報だけで判断するのは危険です。あくまで候補者を見つけるための「きっかけ」と捉え必ず複数の事務所と直接面談し自分の目でその実力と相性を見極めるプロセスが必要です。
IPOにおいて税理士を活用するメリット
IPOに強い税理士と契約することは企業に計り知れないメリットをもたらします。それは単なる業務のアウトソーシング以上の価値を持ちます。
経営者が本業に集中できる環境の構築
IPO準備には膨大な量の事務作業や外部専門家との折衝が伴います。もし経営者がこれら全てに対応しようとすれば本来注力すべき事業の成長戦略や経営判断そのものに割く時間がなくなってしまいます。
税理士はIPO準備における守りの部分を一手に引き受けることで経営者を煩雑な業務から解放します。経営者は安心して事業の成長という本業に集中することができます。この経営資源の最適配分こそがIPO準備と事業成長を両立させるための鍵です。
審査プロセスにおける時間的・精神的負担の軽減
証券取引所や主幹事証券会社からの質問(通称「弾込め」)は非常に詳細かつ多岐にわたり時には経営の根幹を問う厳しいものもあります。これらに的確に回答していく作業は多大な時間と精神力を消耗します。
経験豊富な税理士は審査で問われる論点を予測し事前に回答のロジックを準備してくれます。経営者は自信を持って審査に臨むことができ精神的な負担が大幅に軽減されます。この安心感は過酷なIPO準備を乗り切る上で非常に大きな支えとなります。
専門的知見によるIPO準備の円滑化と質の向上
税理士は過去の数多くの事例から得た知見とノウハウを惜しみなく提供してくれます。自社だけでは気づかなかったようなリスクを未然に防ぎ非効率な作業を回避し最短距離で上場準備を進めることができます。専門家が関与することで作成される書類や構築される管理体制の質は格段に向上し審査をスムーズに通過する可能性を高めます。
IPOにおける税理士の費用相場
IPO支援を税理士に依頼する場合その費用は決して安価ではありません。しかしこれは未来への投資と考えるべきです。ここでは費用相場の全体像を解説します。
契約形態の種類
契約形態は主に月額の「顧問契約」と特定の課題解決のための「コンサルティング契約(プロジェクト契約)」に分かれます。IPO支援では多くの場合月額の顧問契約をベースとしつつ資本政策の策定や特定の税務リスク対応などで別途プロジェクト契約を結ぶハイブリッド型が採用されます。
準備期間ごとの費用感
費用はIPO準備のフェーズが進むにつれて増加していくのが一般的です。
- N-3期: この時期は課題の洗い出しや計画策定が中心です。
- 月額顧問料:15万円~30万円程度
- N-2期: 体制構築が本格化し監査法人とのやり取りも増えます。
- 月額顧問料:30万円~70万円程度
- N-1期~N期: 直前期監査や申請書類作成で業務量はピークに達します。
- 月額顧問料:50万円~100万円以上
これに加えて資本政策策定支援などで数百万単位のプロジェクト報酬が発生することがあります。
費用の変動要因
上記の金額はあくまで目安であり以下の要因によって変動します。
- 会社の規模と業種: 売上規模が大きく事業内容が複雑なほど費用は高くなります。
- 内部管理体制の状況: 経理体制が脆弱でゼロから構築する必要がある場合は多くの工数が必要となり費用は増加します。
- 依頼する業務範囲: 記帳代行から依頼するのかアドバイザリー業務のみを依頼するのかで費用は大きく異なります。
高額に感じるかもしれませんがIPOによって得られるメリットを考えれば十分に回収可能な投資と言えるでしょう。
まとめ
IPOは企業にとっての一大転換点です。その成功は適切なタイミングで適切な専門家をパートナーとして選べるかどうかにかかっています。特にIPOに強い税理士は経営者に最も近い存在として財務・税務の面から企業の脱皮と成長を支える不可欠な存在です。
彼らは単なる税金の専門家ではありません。監査法人や証券会社といった外部のプロフェッショナルと対等に渡り合い企業の利益を守る交渉人であり資本政策という未来図を共に描く戦略家でありそして何よりも過酷な道のりを歩む経営者の孤独に寄り添う伴走者です。
最高の税理士と出会うためにはまず経営者自身がIPOの本質を理解し自社が何を求めているのかを明確にする必要があります。そして実績や専門性だけでなく長期的な信頼関係を築ける人柄であるかを見極めることが重要です。
IPOへの道は決して楽ではありません。しかし信頼できるパートナーと共に歩むならばその道のりは必ずやあなたの会社を新たな高みへと導く輝かしい軌跡となるでしょう。この記事がその第一歩を踏み出すための羅針盤となることを心から願っています。
税理士をお探しの方は、宮嶋公認会計士・税理士事務所へお問合せください(初回無料相談)
この記事の作成者 宮嶋 直 公認会計士/税理士 京都大学理学部卒業後、大手会計事務所であるあずさ監査法人(KPMGジャパン)に入所。その後、外資系経営コンサルティング会社であるアクセンチュア、大手デジタルマーケティング会社であるオプトの経営企画管掌執行役員兼CFOを経験し、現在に至る。
