労働組合の活動において、会計の透明性と健全性は組織の信頼を支える根幹です。組合員の減少や組織率の低下が叫ばれる昨今、労働組合にはこれまで以上に高いガバナンス能力と説明責任が求められています。その中で、外部の専門家である公認会計士による監査を導入する動きが注目されています。本記事では、労働組合が公認会計士へ会計監査を依頼する際に知っておくべき知識、メリット、選定のポイント、そして実務的な流れについて、専門的な知見を交えながら網羅的に解説します。
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労働組合が会計監査を公認会計士へ依頼する際のポイント
労働組合とは?
労働者が主体となって組織する自律的団体
労働組合とは、労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善、その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体です。日本国憲法第28条で保障された団結権、団体交渉権、団体行動権(争議権)という労働三権を背景に、会社(使用者)と対等な立場で交渉を行うための重要な社会的基盤です。営利を目的とする企業とは異なり、組合員の相互扶助と権利擁護を最優先事項として運営されています。その運営は「組合民主主義」に基づき、すべての組合員が平等に参加し、決定に関与することが原則とされています。
組合費という独自の財源と使途
労働組合の運営資金の大部分は、組合員一人ひとりから徴収される「組合費」によって賄われています。これは株式会社における売上高とは全く性質が異なります。組合員が汗水流して働いて得た賃金の一部を、自分たちの生活を守るために拠出している資金であるため、その使途には極めて高い透明性と納得性が求められます。組合費は、日々の活動費、専従職員の人件費、事務所の維持費、そして万が一のストライキや争議に備えた闘争資金の積み立てなどに充てられます。したがって、無駄遣いはもちろんのこと、不正な流用は組合員に対する重大な背信行為となります。
労働組合法による保護と要件
労働組合は、労働組合法という法律によってその設立や運営、権利が規定されています。法的な保護、例えば不当労働行為の救済申立てや法人格の取得などを受けるためには、同法が定める一定の要件を満たす必要があります。その中には、規約に「会計報告は、組合員によって委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少なくとも毎年一回組合員に公表されること」という規定を含めることが求められる場合があります。このように、労働組合の定義や運営において、会計の適正さは法律上も非常に重要な要素として位置づけられています。
労働組合で公認会計士監査が必要なケース
大規模組合や上部団体における社会的責任
数千人、数万人規模の組合員を擁する大規模な労働組合や、企業別組合を束ねる産業別労働組合(単産)、あるいはナショナルセンターといった上部団体においては、扱う資金の額が数億円から数十億円に上ることも珍しくありません。このような規模になると、内部の会計監査人(組合員から選出された監査役)だけでは、会計処理の妥当性を十分にチェックすることが物理的にも専門的にも困難になります。また、社会的な影響力も大きいため、外部の第三者である公認会計士の監査を受けることで、対外的な信用力を担保し、組織運営の健全性をアピールする必要性が高まります。
不祥事防止と内部統制の強化
残念ながら、労働組合における元会計担当者や書記長による多額の横領事件は、現在でも後を絶ちません。労働組合は「仲間意識」で結ばれているがゆえに、相互監視の目が甘くなりやすく、また会計担当者が長期間固定化される傾向があるため、不正が長期間発覚しない温床となりやすいのです。こうしたリスクを未然に防ぐために、あえて厳しい外部の目を入れるケースが増えています。公認会計士による監査は、単に計算間違いを見つけるだけでなく、現金の管理体制や承認プロセスなどの「内部統制」の不備を指摘する機能も持っているため、不祥事防止の観点から極めて有効な手段となります。
会計監査とは何か?
第三者による客観的な保証業務
会計監査とは、作成された財務諸表(決算書)が、一般に公正妥当と認められる会計基準に準拠して、組織の財政状態や収支の状況を適正に表示しているかどうかを、独立した第三者の立場から検証し、意見を表明する業務です。労働組合における監査も基本的にはこの枠組みで行われます。監査を行う公認会計士は、組合の執行部とも、一般の組合員とも利害関係を持たない中立的な立場を堅持しなければなりません。これにより、執行部が作成した決算報告書に対して「嘘がない」「ルール通りに作られている」というお墨付きを与えることになります。
内部監査と外部監査の決定的な違い
労働組合には通常、組合員の選挙によって選ばれた「会計監査人(内部監査人)」が存在します。彼らの役割も重要ですが、多くの場合、会計の専門家ではありません。内部監査が主に「活動方針通りに予算が使われたか」「領収書は揃っているか」といった手続き面や妥当性のチェックに重点を置くのに対し、公認会計士による外部監査は「会計基準への準拠性」や「財務諸表の信頼性」に焦点を当てます。また、内部監査人はどうしても身内であるため、先輩や上司にあたる役員の不正を指摘しにくいという心理的な障壁が存在しますが、外部の公認会計士にはそのようなしがらみが一切ないため、客観的かつ厳格なチェックが可能となります。
監査意見の種類と影響力
監査の結果は「監査報告書」という形で表明されます。報告書には、決算書が適正であるとする「無限定適正意見」、一部を除いて適正である「限定付適正意見」、適正とは認められない「不適正意見」、そして証拠不足などで意見が出せない「意見不表明」の4種類があります。労働組合の定期大会において、公認会計士から「無限定適正意見」が出された監査報告書が読み上げられることは、執行部の会計運営が正しかったことを証明する最も強力な根拠となります。逆に問題点が指摘された場合は、速やかに改善策を講じなければならず、組合員に対する説明責任が発生します。
労働組合における監査を行う上でのチェックポイント
組合費収入の網羅性とチェック・オフ
労働組合の収入の柱である組合費は、多くの企業別組合において、会社が給与から天引きして一括で組合口座に振り込む「チェック・オフ制度」によって徴収されています。監査において公認会計士は、この組合費収入が正しく計上されているかを厳密に確認します。具体的には、組合員名簿の人数と一人当たりの組合費単価(定額または賃金に対する比率)を掛け合わせ、会社からの入金額と整合しているかを検証します。また、休職者や退職者の扱いが規約通りに処理されているか、未収金が発生していないかなども重要なチェックポイントとなります。
活動費および会議費の実在性と妥当性
支出面においては、活動費、会議費、旅費交通費などが適切に処理されているかが焦点となります。労働組合の活動は多岐にわたり、飲み会を伴う懇親会や、遠方での会議なども頻繁に行われます。監査では、これらの支出について領収書が存在するかはもちろんのこと、その支出が本当に組合活動のために使われたものか(業務関連性)、参加人数や単価が社会通念上妥当な範囲内かを確認します。特に、使途が不明確になりやすい「対策費」や「機密費」といった名目の支出については、その性質上、より慎重な検討と証拠書類の確認が求められます。
現金預金の管理状況と実査
労働組合では、デモや集会、イベントなどで現金を扱う機会が意外と多くあります。また、組合事務所の小口現金の管理がルーズになっているケースも散見されます。公認会計士は、期末日あるいは監査実施日に、実際に金庫の中にある現金や切手、商品券などを数える「実査(じっさ)」を行います。帳簿上の残高と実際の有高が1円単位で一致しているかを確認し、もし差異がある場合はその原因を徹底的に追及します。また、通帳の原本を確認し、定期預金の解約や不審な出金がないか、銀行への残高確認状の送付を通じて検証します。
積立金および闘争資金の保全
将来の活動や不測の事態に備えて積み立てられている「積立金」や「闘争資金」は、巨額になることが多く、流用リスクの高い資産です。監査では、これらの資金が規約や大会決定に基づいて適切に積み立てられ、また取り崩されているかを確認します。特に、特定の役員しかアクセスできないような隠し口座がないか、あるいはリスクの高い金融商品(株式やデリバティブなど)で運用され、元本割れのリスクに晒されていないかなどもチェックされます。資産の保全状況を確認することは、組合員の財産を守るための最重要項目の一つです。
労働組合が公認会計士へ依頼する際の費用相場
監査報酬を決定する主な要因
公認会計士の監査報酬には「定価」が存在しません。依頼する労働組合の規模や複雑さに応じて、個別に算定されます。報酬額を左右する主な要因は、「組合員数」「年間予算規模」「支部の数(会計単位の数)」「会計処理の正確性」「監査にかかる時間(工数)」です。全国に多数の支部を持ち、それぞれが独自に会計を行っているような大規模な組合の場合、公認会計士が各地を往査する必要があるため、交通費や日当を含めた報酬総額は高くなります。逆に、会計が本部で一元管理されており、資料の整理が行き届いている場合は、比較的安価に抑えられる傾向があります。
規模別の概算費用イメージ
あくまで一般的な目安ですが、組合員数が数百人程度で、単一の事業所のみの労働組合の場合、年間監査報酬は30万円から50万円程度が相場となることが多いです。組合員数が数千人規模となり、複数の支部を持つ中規模組合では、50万円から150万円程度になることが想定されます。さらに、数万人規模のナショナルセンターや大規模単産になると、監査チームを編成して数週間かけて監査を行う必要があるため、数百万円以上の報酬が必要となるケースもあります。また、初年度は業務フローの理解や予備調査が必要となるため、2年目以降よりも高めに設定されるのが一般的です。
監査以外の業務依頼と費用
会計監査契約とは別に、記帳代行や決算書の作成支援、税務申告(収益事業を行っている場合)、内部統制構築のコンサルティングなどを依頼する場合は、別途費用が発生します。予算に限りがある労働組合の場合、フルスペックの「監査」ではなく、手続きの範囲を限定した「合意された手続(AUP)」や、保証水準を下げた「レビュー業務」を依頼することで、費用を抑えつつ一定の専門的チェックを受けるという選択肢もあります。どのような関わり方がベストか、見積もりの段階で会計士と相談することが重要です。
労働組合が公認会計士を探す方法
日本公認会計士協会の検索システムと窓口
最も確実かつ信頼できる方法は、日本公認会計士協会(JICPA)が提供している検索システムや相談窓口を利用することです。協会には非営利法人監査の経験が豊富な会員が多数登録されており、地域や専門分野で絞り込んで検索することができます。また、協会には「非営利法人委員会」などの専門部会があり、労働組合監査に関する知見を持った会計士を見つけるための情報源となります。
上部団体や友誼組合からの紹介
労働組合の世界は横のつながりが非常に強いです。加盟している上部団体(連合、全労連、全労協など)や、同じ産業別の他の労働組合に相談し、実際に監査を依頼している公認会計士や監査法人を紹介してもらうのも有効な手段です。労働組合の会計は、営利企業とは異なる独特の慣行(予算準拠主義など)があるため、すでに労働組合監査の実績がある会計士を紹介してもらうことで、スムーズな導入が期待できます。紹介であれば、監査人の人柄や対応についても事前に情報を得ることができます。
労働組合監査に特化した会計事務所のウェブサイト
近年では、インターネットを通じて積極的に情報発信を行っている会計事務所も増えています。「労働組合 監査 会計士」などのキーワードで検索すると、労働組合やNPO法人の支援に力を入れている事務所のウェブサイトが見つかります。こうした事務所は、ブログやコラムで労働組合特有の会計課題について解説していることが多く、その内容を見ることで事務所の専門性やスタンスを確認することができます。実績豊富な事務所は、遠隔地であってもオンライン監査などで対応してくれる場合があります。
労働組合が公認会計士を選ぶ際のポイント
労働組合会計特有の論点への理解
公認会計士であれば誰でも良いというわけではありません。企業会計と労働組合会計は大きく異なります。企業会計が「利益」の追求と計算を主眼とするのに対し、労働組合会計は「予算の適正な執行」と「収支の均衡」を重視する収支計算書ベースの会計です。また、組合民主主義や三権分立といった組織の論理を理解していなければ、的確な監査はできません。選定の際は、「労働組合の監査経験があるか」「労働組合法や規約の内容を理解しているか」を必ず確認してください。経験の浅い会計士だと、企業の論理で不必要な指摘をして現場を混乱させる恐れがあります。
執行部および組合員に対するコミュニケーション能力
監査人は、会計のプロではない執行委員や書記局員に対して、監査の過程で発見した問題点や改善案をわかりやすく説明する能力が求められます。専門用語を並べ立てるのではなく、なぜその処理が問題なのか、どうすれば現場の負担を増やさずに改善できるかを、親身になって助言してくれる姿勢が重要です。また、定期大会での監査報告において、組合員の前で堂々と、かつ平易な言葉で報告ができるプレゼンテーション能力も、組合員の信頼を得るためには欠かせない要素です。
独立性と倫理観の保持
公認会計士には高度な独立性が求められます。執行部と馴れ合いになってしまっては監査の意味がありません。一方で、過度に敵対的であっても監査はスムーズに進みません。「公正不偏な態度」を保ちつつ、言うべきことは毅然と言う強さを持っているかどうかがポイントです。面談の際に、過去の事例でどのような厳しい指摘をしたことがあるか、あるいは執行部との意見の対立をどう調整したかなどを質問し、その回答から会計士の倫理観やスタンスを見極めることが大切です。
公認会計士へ依頼する際によくある質問の例と回答
内部監査人がいるのに、なぜ外部監査が必要なのですか?
内部監査人は組合員から選ばれた信頼できる仲間ですが、会計の専門家ではないことが多く、また執行部との人間関係が近すぎるために、客観的なチェックが難しい側面があります。外部の公認会計士は、しがらみのない第三者の視点と高度な専門知識を持って監査を行うため、内部監査では発見できないミスやリスクを見つけ出すことができます。これにより、対外的な信用力が増すだけでなく、組合員に対しても「執行部はやましいことをしていない」という強力な証明となり、組織の求心力を高める効果があります。
監査で不正が見つかった場合、どうなりますか?
監査の過程で不正や横領の兆候が見つかった場合、公認会計士はまず事実関係を慎重に調査・確認します。その上で、監査報告書にその旨を記載するか、あるいは執行部に報告して是正を求めます。重大な不正であれば、監査意見として「不適正意見」が出される可能性もあります。これは組合にとって非常事態ですが、早期に膿を出し切り、再発防止策を構築するチャンスでもあります。公認会計士は、不正の調査手法(フォレンジック)に関する知見も持っているため、事実解明のサポートも期待できます。
監査を受けるためにどのような準備が必要ですか?
監査をスムーズに進めるためには、日頃からの書類整理が欠かせません。総勘定元帳、仕訳帳などの会計帳簿はもちろん、領収書、請求書、通帳のコピー、議事録、規約、予算書などの資料を体系的にファイリングしておく必要があります。また、期末には棚卸しや現金実査を行い、残高を確定させておく必要があります。監査契約を結んだ後、公認会計士から「必要資料リスト」が提示されますので、それに従って計画的に準備を進めることが重要です。経理担当者が監査対応にかかりきりにならないよう、日程調整も大切です。
まとめ
労働組合における公認会計士監査の導入は、決して「義務だから仕方なく行う」ものではありません。それは、組合員の貴重な財産を守り、組織の透明性を高め、社会的な信頼を獲得するための「未来への投資」です。労働環境が激変し、労働組合の存在意義が改めて問われている現代において、ガラス張りの経営姿勢を示すことは、組織拡大や組合員のエンゲージメント向上に直結する重要な経営戦略といえます。
公認会計士を選ぶ際は、費用だけでなく、労働組合という特殊な組織への理解度や、共に組織を良くしていこうというパートナーシップの姿勢を重視してください。適切な監査人のサポートを得ることで、経理業務の効率化やガバナンスの強化が進み、執行部は本来の役割である「組合員の生活向上」のための活動により一層専念できるようになるでしょう。まずは、信頼できる専門家への相談から、改革の一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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この記事の作成者
宮嶋 直 公認会計士/税理士
京都大学理学部卒業後、大手会計事務所であるあずさ監査法人(KPMGジャパン)に入所。その後、外資系経営コンサルティング会社であるアクセンチュア、大手デジタルマーケティング会社であるオプトの経営企画管掌執行役員兼CFOを経験し、現在に至る。
