師走の足音が聞こえ始めると、多くの会社の経営者や経理担当者の頭を悩ませる業務があります。それが「年末調整」です。従業員一人ひとりの一年間の所得税を確定させるこの手続きは、会社の義務として法律で定められています。しかし、その内容は年々複雑化しており、正確に遂行するには多大な時間と専門知識、そして細心の注意を要します。
「大量の書類のチェックに膨大な時間がかかる」、「毎年の法改正の内容がよく分からない」、「もし計算を間違えて、従業員や税務署に迷惑をかけたらどうしよう」。そんな不安や大きな負担を感じながら、毎年この時期をなんとか乗り切っている、という方も多いのではないでしょうか。
この、年に一度の煩雑で責任の重い業務から経営者と担当者を解放し、本来集中すべきビジネスの成長へとリソースを振り向けるための、最も確実で賢明な選択肢。それが、「税理士」という専門家へ年末調整業務を依頼することです。
税理士への依頼は、単に面倒な作業を外注するという次元の話ではありません。それは、会社のコンプライアンスを確保し、従業員からの信頼を高め、そして経営者の貴重な時間を守るための、極めて重要な戦略的経営判断なのです。
この記事では、年末調整とは何かという基本的な定義から説き起こし、税理士が提供する具体的なサービスや、依頼することで得られる計り知れないメリットを解説します。そして、最適な税理士の探し方や費用相場に至るまで、その全貌を包括的かつ徹底的に明らかにしていきます。この記事を読み終える頃には、年末調整を税理士に依頼するという選択が、あなたの会社にとってどれほど価値のある投資であるかをご理解いただけているはずです。
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年末調整を税理士へ依頼するメリットを徹底解説
年末調整とは何か?
年末調整という言葉は、給与所得者であれば誰でも一度は耳にしたことがあるでしょう。しかし、その正確な意味や、なぜ必要なのかという仕組みを深く理解している人は意外と少ないかもしれません。まず、年末調整の本質を正しく理解することが、税理士活用のメリットを考える上での重要な大前提となります。
毎月の源泉徴収と年税額の差額を精算する手続き
会社は、従業員に毎月給与を支払う際に、所得税を天引きしています。この制度を「源泉徴収」と呼びます。しかし、この毎月の給与から源泉徴収される所得税の金額は、あくまでも概算の金額、いわば「仮払い」の税額に過ぎません。その時点での給与額や社会保険料、そして扶養している家族の人数などを基に、国が定めた「源泉徴収税額表」に従って、機械的に計算されているだけなのです。
一年間の給与総額が最終的に確定するのは、12月の最後の給与や賞与が支払われた時点です。また、従業員が個人的に支払っている生命保険料や地震保険料、あるいは住宅ローンの年末残高といった、個人の状況に応じた様々な所得控除の金額も、年末になって初めてその年間の総額が確定します。
そこで会社は、一年間の給与総額が確定した12月の段階で、改めて各従業員の正しい年間の所得税額、すなわち「年税額」を法律に則って正確に再計算します。そして、その確定した年税額と、一年間にわたって給与から天引きしてきた税額の合計額とを比較します。
もし、一年間の源泉徴収額の合計が、本来納めるべき年税額よりも多ければ、その差額を従業員に還付(返金)します。逆に、源泉徴収額が足りなければ、その差額を追加で徴収します。この、一年間の所得税の過不足を年末に最終調整し、精算する一連の手続きこそが、「年末調整」の本質です。
会社が従業員に代わって行う確定申告
この仕組みは、見方を変えれば、本来であれば従業員一人ひとりが自分自身で行うべき所得税の確定申告を、会社が代行して行う制度と考えることができます。この制度があるおかげで、多くの給与所得者は、わざわざ自分で税務署に行って複雑な確定申告をする手間が省けているのです。
この手続きは、所得税法によって、給与を支払う全ての会社(事業者)に法律上の義務として課せられています。たとえ従業員が一人だけの会社であっても、あるいは個人事業主がアルバイトを一人雇っている場合であっても、原則として会社はその従業員の年末調整を行わなければなりません。これは、会社の規模の大小を問わない重要な責務です。
年々複雑化し、専門性が高まる年末調整
年末調整の具体的な計算は、扶養控除、配偶者控除、生命保険料控除、地震保険料控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、そして住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)など、非常に多くの所得控除を考慮する必要があります。個々の従業員の状況に合わせて、これらを正確に適用するプロセスは極めて複雑です。
さらに、税制は社会経済情勢の変化に対応するため、毎年のように改正が行われます。各種控除額の見直しや、配偶者控除の適用要件の変更、あるいは所得金額調整控除といった新しい制度の導入など、常に最新の知識をアップデートしていなければ正確な計算はできません。近年では、各種申告書の様式も頻繁に変更され、書類の電子化への対応も求められています。この年々高まる複雑性と、めまぐるしい制度変更が、多くの経営者や経理担当者を悩ませる大きな原因となっているのです。
年末調整の対象ではない人
会社は、原則としてその年に給与を支払った全ての従業員に対して年末調整を行う義務があります。しかし、法律上、一定の条件に該当する人については、会社の年末調整の対象とはならず、その人自身で確定申告を行う必要があります。経営者や経理担当者は、誰が対象で誰が対象外なのかを正確に把握しておく必要があります。この判断を誤ると、後々トラブルの原因となりかねません。
年間の給与収入が2,000万円を超える人
まず、その年一年間に会社から支払われた給与の「収入」金額が2,000万円を超える従業員は、年末調整の対象にはなりません。これは所得税法で明確に定められています。収入金額とは、税金や社会保険料が引かれる前の、いわゆる額面の金額を指します。
高額所得者については、給与所得以外にも他の所得がある可能性が高いことや、適用される税率も高くなることから、より正確な納税額を算出するために自身での確定申告が義務付けられているのです。会社はこのような従業員に対しては年末調整を行わず、一年間の給与総額や源泉徴収税額を記載した「源泉徴収票」を渡すのみとなります。
2か所以上から給与の支払いを受けている人
複数の会社から給与を受け取っている、いわゆるダブルワーカーの人も注意が必要です。年末調整は、原則として「主たる給与」を支払っている一社でしか受けることができません。「主たる給与」とは、従業員がその会社に対して「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出しているメインの勤務先を指します。
例えば、昼間はA社で正社員として働き、夜間にB社でアルバイトをしているケースを考えてみましょう。通常、従業員はメインの勤務先であるA社に扶養控除等申告書を提出します。この場合、A社では年末調整が行われます。しかし、B社から支払われる、いわゆる「従たる給与」については、年末調整の対象外です。
そのため、この従業員は、A社から受け取った年末調整済みの源泉徴収票と、B社から受け取った年末調整が行われていない源泉徴収票の両方を使って、自身で確定申告を行う必要があります。全ての給与所得を合算して、最終的な納税額を確定させるのです。
年の途中で退職し、その後再就職していない人
年の途中で会社を退職した従業員についても、その後の状況によって扱いが異なります。例えば、10月31日付で会社を退職し、その年の12月31日までの間に別の会社に再就職しなかった場合、この従業員は年末調整を受けることができません。退職した会社は、退職時点までの給ゆ総額などを記載した源泉徴収票を本人に交付するだけです。そして、その従業員は自分で確定申告を行う必要があります。
もし11月1日付で別の会社に再就職したのであれば、新しい勤務先で前職の給与も合算して年末調整を受けることが可能です。その際には、前の会社から交付された源泉徴収票を新しい会社に提出する必要があります。
災害減免法の規定により、源泉徴収の猶予などを受けている人
地震や水害といった大規模な災害によって住宅や家財に大きな損害を受けた場合、災害減免法という法律の規定により、所得税の源泉徴収について徴収の猶予や還付を受けることができます。この特別な措置の適用を受けている人は、通常の年末調整の対象とはならず、自身で確定申告を行うことになります。
業務委託契約を締結している、外部の個人事業主
これは雇用契約との根本的な違いであり、極めて重要なポイントです。会社と雇用契約を結んでいる「従業員」ではなく、業務委託契約を結んでいる外部の「個人事業主」や「フリーランス」は、年末調整の対象には決してなりません。
彼らは給与所得者ではなく、事業所得者です。そのため、会社は彼らに支払う報酬から源泉徴収を行うことはあっても、年末調整を行う義務は一切ありません。彼らは一年間の売上と事業にかかった経費を自分自身で計算し、確定申告を行います。この雇用と業務委託の区別を明確にしておくことは、コンプライアンス上非常に重要です。
年末調整において税理士が提供するサービス
では実際に、年末調整を税理士に依頼した場合、税理士は具体的にどのような業務を代行してくれるのでしょうか。そのサービスは単に最終的な税金を計算するだけではありません。年に一度のこの一大イベントをスムーズに、そして正確無比に完遂するための一連のプロセス全体を、専門家として体系的に、そして責任を持って遂行してくれます。
事前準備と従業員へのアナウンス支援
優れた税理士の仕事は、12月になってから始まるわけではありません。秋口の10月頃になると、税理士はその年の年末調整の準備を本格的に開始します。まず、その年の税制改正の内容を完全に把握し、年末調整の計算にどのような影響があるかを確認します。そして、国税庁から公表される最新の各種申告書の様式を準備します。
次に、税理士はクライアントである会社に対して、従業員へ配布すべき書類一式を提供します。これには「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」や、「給与所得者の保険料控除申告書」など、名称だけでも非常に複雑で難解な書類が含まれます。
さらに、多くの税理士はこれらの書類の書き方や注意点を、誰にでも分かるような平易な言葉でまとめたオリジナルの案内資料を作成してくれます。会社はそれを従業員に配布するだけで済みます。これにより、経理担当者が従業員一人ひとりからの細かな質問対応に追われるという、非効率な事態を未然に防ぎます。
提出された全書類の厳格で専門的なチェック
従業員から記入済みの申告書や、添付された証明書(生命保険料控除証明書や住宅ローンの残高証明書など)を会社が回収し、それを税理士に渡します。ここからが、まさに税理士の専門性が最大限に発揮される重要なステップです。
税理士は提出された書類一枚一枚を、プロの目で厳格に、そして細心にチェックします。記載内容に漏れや記入ミスはないか。扶養している親族の所得要件は本当に満たしているか。控除証明書に記載された金額は正しく申告書に転記されているか。マイナンバーは適切に収集・管理されているか。こうした無数のチェック項目を一つひとつ潰していきます。
この専門家による網羅的なチェックを通じて、計算の前提となる情報の正確性を完全に担保します。もし少しでも不備や疑問点があれば、会社を通じて従業員に確認を求め、書類の修正を的確に指示します。この地道で丁寧な作業が、後の計算ミスを防ぐための最も重要な防波堤となるのです。
各従業員の年税額の精密で正確な計算
全ての書類が完璧に整ったら、次はいよいよ年税額の計算という中核的な作業に入ります。税理士は、会社から預かった一年間の給与台帳(月々の給与や賞与、源泉徴収した社会保険料などのデータ)と、従業員から提出された各種申告書の内容を突き合わせ、各従業員の年間の所得税額を精密に計算します。
一年間の給与収入から給与所得控除を差し引き、さらに社会保険料控除や生命保険料控除といった各種所得控除を正確に適用し、課税所得金額を算出します。そして、所得税率を乗じて年税額を確定させます。住宅ローン控除がある従業員については、さらに税額控除の計算も行います。このプロセスは、税務の専門知識が最も要求される作業です。
過不足額の精算と給与計算への反映
確定した年税額と、一年間にわたって源泉徴収してきた税額の合計額とを比較します。そしてその差額、つまり還付または追加徴収となる金額を、従業員一人ひとりについて算出します。
税理士は、この精算結果を一覧表にして会社に提出します。会社はその結果を12月または翌年1月の給与計算に反映させ、従業員への支払いや徴収を行います。
法定調書及び給与支払報告書の作成と提出
年末調整の業務は、従業員の税金を精算して終わりではありません。会社として税務署や市区町村へ、報告書類を提出する義務があります。
源泉徴収票の作成
まず、全従業員の「給与所得の源泉徴収票」を作成します。これには、年末調整の対象外となった退職者も含まれます。この書類は、従業員本人に渡すだけでなく、税務署へ提出する「法定調書合計表」の基礎資料ともなります。
法定調書合計表の作成と税務署への提出
会社が一年間に支払った給与や、税理士報酬などの概要をまとめた「法定調書合計表」を作成します。そして源泉徴収票などの添付書類と共に、原則として翌年1月31日までに管轄の税務署へ提出します。
給与支払報告書の作成と市区町村への提出
法定調書とほぼ同じ内容の「給与支払報告書」を、従業員一人ひとりについて作成します。そして、これを各従業員が住んでいる市区町村へ提出します。これも期限は原則翌年1月31日です。この報告書が基になって、翌年度の住民税額が決定されるため、極めて重要な書類です。
これらの専門的で多岐にわたる報告書類の作成と提出までを、税理士が責任を持って代行します。
年末調整を税理士へ依頼するメリット
年に一度のこの集中する業務を税理士に依頼すること。それは、会社の経営資源を最適化し、組織全体の生産性を高めるための賢明な経営判断です。そのメリットは多岐にわたります。
圧倒的な時間と人的資源の節約
これが経営者が得られる、最も直接的で大きなメリットです。年末調整は、通常11月から翌年1月にかけての約3ヶ月間にわたる一大プロジェクトです。経理担当者はこの期間、通常業務に加えて年末調整の作業に忙殺されることになります。
書類の配布と回収。従業員からの絶え間ない質問への対応。提出された膨大な書類のチェック作業。そしてミスの許されない税額計算。これらの作業には、一説には従業員一人あたり2時間から3時間もの時間が必要とも言われます。もし従業員が50人いれば、100時間以上の労働時間がこの業務だけに費やされる計算です。
この膨大な時間を税理士にアウトソースすることで、経理担当者は本来やるべき月次決算や資金繰り管理といった、より付加価値の高い業務に集中できます。経営者自身が対応している場合は言うまでもありません。その時間を営業活動や事業戦略の立案に振り向けることで、会社は大きな成長の機会を得ることができます。
毎年の法改正への確実な対応と計算の正確性
税法は、国民の生活や経済状況の変化に対応するため、毎年のように改正が行われます。所得控除の額の見直しや、新しい控除制度の創設など、その内容は年末調整の実務に直接影響します。
会社の経理担当者が、これらの最新の法改正の内容を毎年正確にキャッチアップし、実務に反映させるのは非常に困難です。もし古い知識のまま計算してしまえば、誤った税額計算に繋がりかねません。
税理士は税法のプロフェッショナルです。常に最新の税制改正に関する情報を収集し、研修などを通じて知識をアップデートしています。税理士に依頼すれば、法改正に完全準拠した100%正確な年末調整が保証されます。この正確性が、後述する税務リスクの回避と従業員からの信頼に繋がるのです。
従業員の満足度向上と信頼関係の構築
年末調整は、従業員の所得税額という、極めてプライベートで重要な情報を扱う業務です。そしてその結果は、還付金という形で従業員の生活に直接影響します。
もし会社の年末調整の進め方が非効率であったり、計算にミスがあったりすればどうでしょうか。従業員は「この会社は大丈夫か」と不信感を抱くでしょう。還付されるべき金額が少なかったりすれば、その不満はさらに大きくなります。
税理士に依頼し、プロフェッショナルな体制で年末調整を行うことは、従業員に対して「あなたの税金を正確に、そして大切に扱っています」という明確なメッセージとなります。従業員は安心して会社に個人情報を預けることができます。そして正確な計算結果に満足します。この小さな信頼の積み重ねが、従業員の会社に対するエンゲージメントを高め、良好な労使関係を築くための土台となるのです。
経営者の精神的負担からの解放
年末調整の責任者は、最終的には経営者自身です。もし計算に重大な誤りがあり、税務署から指摘を受ければ、その責任を負うのは社長です。従業員一人ひとりの税金を預かるという責任の重さ。そして、もし間違えたらというプレッシャー。これは経営者が感じる精神的負担の中でも、特に大きなものの一つです。
税理士に依頼するということは、この重い責任を専門家と分かち合うということです。税理士が全ての計算と手続きに責任を持つことで、経営者はこのプレッシャーから解放されます。安心して事業運営に専念できるこの精神的な平穏は、何物にも代えがたい価値があります。
税務署からの問い合わせリスクの低減
税務署は、提出された法定調書合計表などをチェックし、内容に不備や疑問点があれば会社に問い合わせを行います。もし自社で年末調整を行い、提出書類に不備が多ければ、税務署からの問い合わせが増える可能性があります。それは、さらなる時間的・精神的な負担となります。
税理士が作成し提出した書類は、専門家によるチェックを経ているため信頼性が高く、不備がある可能性は極めて低いです。そのため、税務署からの問い合わせを受けるリスクを大幅に低減させることができます。また、万が一問い合わせがあった場合でも、税理士が窓口となり、専門家の立場で的確に対応してくれるため安心です。
年末調整を税理士へ頼まなくても良いケース
年末調整を税理士へ依頼することは、多くのメリットをもたらします。しかし、全ての会社にとって、それが絶対に必要な選択肢というわけではありません。会社の状況によっては、自社で対応することが十分に可能であり、また合理的であるケースも存在します。
従業員が社長一人または家族のみの会社
従業員が社長一人だけの、いわゆる「一人社長」の会社や、従業員が社長の配偶者や親族のみといった、ごく小規模な会社の場合。この場合は、年末調整の対象者が非常に限られており、計算も比較的シンプルです。社長自身がある程度の経理知識を持っているか、あるいは時間をかければ対応できるという状況であれば、必ずしも外部の税理士に依頼する必要はないかもしれません。
従業員数が極めて少なく(例:5名以下)かつ入退社がほとんどない会社
従業員数が5名以下と非常に少なく、かつ年間の途中で入社したり退職したりする人がほとんどいない。そして、従業員の扶養家族の状況などにも、あまり変動がない。このような安定した組織であれば、年末調整の作業量もそれほど多くはありません。毎年の作業がある程度定型化しているため、過去のやり方を参考にすれば、自社で対応できる可能性はあります。
年末調整の実務に精通した経理担当者が社内にいる場合
これが、自社で対応できる最も明確な条件です。会社の経理部門に、長年年末調整の実務を経験してきた、ベテランの担当者がいる場合です。その担当者が、毎年の税制改正の内容をきちんと学習し、実務に反映させる能力と意欲を持っているのであれば、外部の専門家に頼る必要性は低いでしょう。ただし、その担当者が退職してしまった場合に業務が滞るという、属人化のリスクは常に念頭に置く必要があります。
コストを極限まで抑えたい創業期の企業
会社を設立したばかりでまだ売上も少なく、とにかくコストを最小限に抑えたいという創業期の企業。このようなフェーズでは、税理士に支払う費用が大きな負担となることも事実です。経営者自身が時間をかけて勉強し、会計ソフトなどを活用して、自力で年末調整に挑戦するという選択も、一つの考え方です。ただし、その際には、もし間違えた場合のリスクと、費やした時間という機会損失を、十分に天秤にかける必要があります。
年末調整を税理士へ依頼する際の費用相場
年末調整の業務を税理士に依頼する場合、その費用はどのくらいかかるのでしょうか。料金体系は税理士事務所によって様々ですが、一般的には「基本料金」と「従業員一人あたりの料金」を組み合わせた形で設定されていることがほとんどです。
料金体系の基本モデル
多くの事務所では、以下のような料金モデルが採用されています。 総費用 = 基本料金 + (従業員一人あたりの単価 × 人数)
- 基本料金: これは、会社の規模に関わらず、一つの案件として年末調整業務を請け負うための、最低限の料金です。事務所によって異なりますが、1万円〜3万円程度に設定されていることが多いです。
- 一人あたりの単価: 従業員一人を処理するための料金です。従業員数が増えるほど、この単価は安くなる(ボリュームディスカウントが適用される)傾向があります。
具体的な費用相場
上記の料金モデルを基に、従業員数に応じた具体的な費用相場を見ていきましょう。
従業員数が10名未満の会社
- 基本料金: 1万円 〜 2万円
- 一人あたりの単価: 2,500円 〜 4,000円
- 総費用の目安 (5名の場合): 2万円 + (3,000円 × 5名) = 3万5千円 程度
従業員数が10名以上〜30名未満の会社
- 基本料金: 2万円 〜 3万円
- 一人あたりの単価: 2,000円 〜 3,500円
- 総費用の目安 (20名の場合): 2万5千円 + (2,500円 × 20名) = 7万5千円 程度
従業員数が30名以上〜50名未満の会社
- 基本料金: 3万円 〜 5万円
- 一人あたりの単価: 1,500円 〜 3,000円
- 総費用の目安 (40名の場合): 4万円 + (2,000円 × 40名) = 12万円 程度
費用が変動する要因
上記の相場はあくまで目安であり、以下の要因によって料金は変動します。
- 顧問契約の有無: すでに税理士と顧問契約を結んでいる場合は、年末調整の費用が顧問料に含まれていたり、あるいは、割引料金が適用されたりすることが一般的です。年末調整だけをスポットで依頼する場合は、割高になる傾向があります。
- 業務の複雑さ: 年の途中で入退社した従業員が多い場合や、住宅ローン控除の対象者が多い場合など、計算が複雑になる要素があれば、追加料金が発生することがあります。
- 資料の準備状況: 会社側で給与データなどがきちんと整理されているか、それとも、バラバラの資料から税理士が整理する必要があるかで、料金が変わることもあります。
依頼する際には、必ず事前に詳細な見積書を提示してもらい、料金に含まれる業務範囲を明確に確認することが重要です。
年末調整を税理士へ依頼する流れ
では実際に、年末調整を税理士に依頼しようと決めた場合、どのような流れで進んでいくのでしょうか。ここでは、問い合わせから業務完了までの一般的なプロセスを解説します。
ステップ1:税理士探しと問い合わせ(10月頃まで)
まず、パートナーとなる税理士を探します。顧問税理士がいない場合は、インターネット検索や紹介などを通じて複数の候補を見つけます。そして各事務所に電話やメールで問い合わせをします。「年末調整業務のみをお願いしたい」という旨と自社の従業員数などを伝えます。この段階で、料金の概算や対応の可否を確認すると良いでしょう。
ステップ2:面談と見積もりの受領
候補となる税理士と面談を行います。自社の状況を説明し、税理士の専門性や人柄、コミュニケーションのしやすさなどを見極めます。面談後、正式な見積書を提示してもらいます。サービス内容と料金を比較検討し、依頼する税理士を決定します。
ステップ3:契約の締結(11月初旬)
依頼する税理士が決まったら、業務委託契約書を取り交わします。契約書には、業務の範囲や報酬額、納期、秘密保持義務などが明記されています。内容をよく確認し、契約を締結しましょう。
ステップ4:必要資料の提出(11月中旬〜下旬)
税理士から、年末調整に必要な資料のリストが提示されます。会社は、そのリストに従って給与台帳や従業員から回収した各種申告書などを税理士に提出します。
ステップ5:税理士による計算と確認作業(12月)
税理士は、預かった資料を基に年末調整の計算作業を進めます。その過程で、書類の不備や確認事項があれば随時会社に連絡が入ります。会社は、それに迅速に対応することが求められます。
ステップ6:計算結果の納品と給与への反映(12月下旬)
全ての計算が完了すると、税理士から計算結果が納品されます。これには従業員一人ひとりの還付・徴収額が記載された一覧表などが含まれます。会社は、その結果を基に12月または翌年1月の給与計算に年末調整の結果を反映させます。
ステップ7:源泉徴収票等の作成と納品(1月)
税理士は、計算結果に基づき全従業員分の「給与所得の源泉徴収票」を作成し、会社に納品します。会社は、それを各従業員に交付します。
ステップ8:法定調書・給与支払報告書の提出(1月31日まで)
最後に、税理士が「法定調書合計表」と「給与支払報告書」を作成します。そして、それぞれ税務署と市区町村へ電子申告などで提出します。これで、年末調整に関する一連の業務が全て完了となります。
年末調整を税理士へ依頼する際に提出する資料など
税理士に年末調整を円滑に進めてもらうためには、会社側でいくつかの重要な資料を正確に、そして漏れなく準備する必要があります。
会社が準備すべき基本資料
まず会社が準備すべき基本的な資料があります。 一つ目は**給与台帳(賃金台帳)**です。その年一年間に全従業員へ支払った月々の給与や賞与の総額、そして源泉徴収した所得税や社会保険料の金額が一覧で分かる資料です。会計ソフトや給与計算ソフトから出力できます。これが計算の最も基本となるデータです。
二つ目は前職分の源泉徴収票です。その年に中途で入社した従業員がいる場合、その人が前の会社から受け取った源泉徴収票を本人から提出してもらう必要があります。これを合算して年末調整を行うために不可欠です。
従業員から回収すべき書類
会社は、税理士に依頼する前に全従業員から以下の申告書を回収しておく必要があります。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 扶養している家族の状況などを申告する最も基本的な書類です。年の最初の給与支払い時までに提出してもらいますが、年末調整の際に内容に変更がないかを確認します。
- 給与所得者の保険料控除申告書 従業員が個人的に支払っている生命保険料や地震保険料などの控除を受けるために必要な書類です。保険会社から送られてくる「控除証明書」を必ず添付してもらう必要があります。
- 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書 非常に長い名称ですが、本人の合計所得金額や配偶者の状況などを申告するための重要な書類です。
- 住宅借入金等特別控除申告書 住宅ローン控除を受ける従業員が税務署から交付されている申告書です。金融機関から送られてくる「年末残高等証明書」と共に提出してもらいます。
これらの書類を定められた期日までに従業員から漏れなく回収し、税理士に渡すこと。これが会社側の最も重要な役割となります。
年末調整に対応した税理士を探す方法
では実際に、年末調整を依頼できる信頼できる税理士はどのように探せば良いのでしょうか。いくつかの方法が考えられます。
既に顧問税理士がいる場合
最も簡単なのは、すでに会社の決算申告などを依頼している顧問税理士がいる場合です。ほとんどの顧問税理士は、年末調整業務も当然サービス範囲に含んでいます。まずは現在の顧問税理士に「今年の年末調整もお願いできますか」と確認してみるのが良いでしょう。
顧問税理士がいない場合
顧問税理士がいない場合は、新たに年末調整を依頼できる税理士を探す必要があります。
- インターネットの税理士紹介サイト 「税理士ドットコム」などの専門のマッチングサイトを利用するのが最も効率的です。地域や依頼したい業務内容(「年末調整」を選択)を指定するだけで、対応可能な複数の税理士から提案や見積もりを受け取ることができます。
- 地域の商工会議所や各種団体 地域の商工会議所や所属している業界団体に相談すれば、会員の中から評判の良い税理士を紹介してもらえることがあります。
- 金融機関や知人経営者からの紹介 取引のある金融機関や、信頼できる知人の経営者に顧問税理士を紹介してもらうのも良い方法です。
- 社会保険労務士からの紹介 もし給与計算や社会保険の手続きで社会保険労務士と契約しているのであれば、その社労士に連携している税理士を紹介してもらうのもスムーズです。
年末調整だけを単発で依頼することも可能です。しかし、これを機に会社の税務全般を相談できる顧問税理士として、長期的なパートナーシップを結ぶことを検討するのも良い選択と言えるでしょう。
まとめ
年末調整は、年に一度必ず訪れる会社にとって避けては通れない重要かつ責任の重い業務です。そのプロセスは、年々複雑化の一途をたどり、経営者や経理担当者の大きな負担となっています。
しかし、その負担は専門家である税理士に適切に委任することで解消することが可能です。
税理士に年末調整を依頼することは、単に時間を節約し手間を省くだけではありません。それは、法改正に完全準拠した絶対的な「正確性」を手に入れることであり、従業員からの「信頼」を獲得することです。そして、経営者が計り知れない「精神的な安心感」を得て、本来の価値創造活動に集中するための極めて有効な「戦略的投資」なのです。
もし、あなたが毎年年末調整の時期が近づくたびに憂鬱な気分になっているのであれば、あるいは自社の年末調整のやり方に少しでも不安を感じているのであれば、ぜひ一度税理士への依頼を検討してみてください。
プロフェッショナルの力を賢く活用すること。それこそが、変化の激しい時代において会社を持続的な成長へと導くための、賢明な経営者の選択と言えるでしょう。
税理士をお探しの方は、宮嶋公認会計士・税理士事務所へお問合せください(初回無料相談)
この記事の作成者 宮嶋 直 公認会計士/税理士 京都大学理学部卒業後、大手会計事務所であるあずさ監査法人(KPMGジャパン)に入所。その後、外資系経営コンサルティング会社であるアクセンチュア、大手デジタルマーケティング会社であるオプトの経営企画管掌執行役員兼CFOを経験し、現在に至る。
