社会福祉法人が会計監査を公認会計士へ依頼する際のポイント

監査

日本の社会保障制度の一翼を担う社会福祉法人は、高齢者介護、障害者支援、保育など、地域社会にとって不可欠なサービスを提供する公益性の高い組織です。その運営資金の多くは税金や保険料といった公金で賄われており、一般企業以上に高い透明性と説明責任が求められます。平成28年の社会福祉法改正以降、ガバナンス強化の流れは加速し、一定規模以上の法人には公認会計士による会計監査が義務付けられました。

本記事では、社会福祉法人が公認会計士による会計監査を導入・依頼する際に知っておくべき知識や実務的なポイントについて、基礎から応用まで網羅的に解説します。監査義務への対応はもちろん、法人の経営質向上を目指す理事長や事務長、経理担当者の方々にとっての実践的なガイドとしてお役立てください。

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社会福祉法人が会計監査を公認会計士へ依頼する際のポイント

  1. 社会福祉法人とは?
    1. 社会福祉法人の定義と公益性
    2. 設立の背景と近年の制度改革
  2. 社会福祉法人で公認会計士監査が必要なケース
    1. 法定監査が義務付けられる基準
  3. 会計監査人とは何か?
    1. 会計監査人の資格と役割
    2. 独立性と客観性の重要性
  4. 監事監査との違い
    1. 監事の役割と業務監査
    2. 会計監査人の役割と財務諸表監査
    3. 監事と会計監査人の連携
  5. 任意でも社会福祉法人で公認会計士を利用するメリット
    1. 信頼性と透明性の向上
    2. 内部管理体制の強化とリスク低減
    3. 経営助言と専門的知見の活用
  6. 社会福祉法人で監査を行う上でのチェックポイント
    1. 社会福祉法人会計基準への準拠
    2. 拠点区分とサービス区分の経理区分
  7. 社会福祉法人が公認会計士へ依頼する際の費用相場
    1. 監査報酬の決定要因
    2. 一般的な報酬の目安
  8. 社会福祉法人が公認会計士を探す方法
    1. 日本公認会計士協会の検索システム
    2. 同業他社や関係者からの紹介
    3. 社会福祉法人監査に特化した事務所のウェブサイト
  9. 社会福祉法人が公認会計士を選ぶ際のポイント
    1. 社会福祉法人会計への精通度
    2. コミュニケーション能力と指導の姿勢
    3. 監査チームの体制と継続性
  10. 社会福祉法人が公認会計士へ依頼する際によくある質問の例と回答
    1. 監査で「不適正」と言われたらどうなるのか
    2. 顧問税理士と会計監査人は兼任できるか
    3. 監査を受けるための準備は何が必要か
  11. まとめ

社会福祉法人とは?

社会福祉法人の定義と公益性

社会福祉法人とは社会福祉法に基づき社会福祉事業を行うことを目的として設立された法人を指します。特別養護老人ホームや保育所、障害者支援施設など、地域社会のセーフティネットとしての機能を担う極めて公共性の高い組織です。株式会社のような営利企業とは異なり、利益の分配を目的とせず、あくまで事業から得られた収益は社会福祉事業の発展や充実に再投資されることが求められます。そのため税制面での優遇措置が設けられている一方で、行政庁による監督権限が強く、高いレベルでの透明性と適正な運営が義務付けられているのが特徴です。

設立の背景と近年の制度改革

かつて社会福祉法人は創設者の理念に基づき比較的自由な裁量で運営されてきた側面がありましたが、公的な補助金や介護保険収入などが主な財源であることから、国民への説明責任が強く求められるようになりました。特に2016年の社会福祉法改正は「経営組織のガバナンスの強化」「事業運営の透明性の向上」「財務規律の強化」を柱とする大改革であり、この流れの中で一定規模以上の法人に対して公認会計士または監査法人による会計監査が義務付けられることとなりました。これは社会福祉法人が地域社会において永続的に信頼される存在であり続けるための重要な転換点であったといえます。

社会福祉法人で公認会計士監査が必要なケース

法定監査が義務付けられる基準

すべての社会福祉法人が公認会計士の監査を受けなければならないわけではありません。社会福祉法においては法人の規模に応じた段階的な導入が進められてきました。現行の制度において会計監査人の設置が義務付けられているのは、最終会計年度における収益事業の収益の額が30億円以上、または負債の額が60億円以上の法人です。

会計監査人とは何か?

会計監査人の資格と役割

会計監査人とは、法人の作成した計算書類が適正に表示されているかどうかを、独立した第三者の立場からチェックし意見を表明する専門家のことです。社会福祉法において会計監査人になれるのは公認会計士または監査法人に限られています。彼らは財務諸表監査のプロフェッショナルであり、単に数字の計算間違いを指摘するだけでなく、会計処理が「社会福祉法人会計基準」などのルールに則って正しく行われているか、不正や誤謬がないかを厳格に検証します。

独立性と客観性の重要性

会計監査人の最大の特徴はその独立性にあります。法人の内部職員や顧問税理士とは異なり、経営者から独立した立場で批判的な機能を発揮することが求められます。顧問税理士は法人の味方として税務申告や経営助言を行いますが、会計監査人は株主や債権者、あるいは社会福祉法人の場合は地域社会や利用者といった利害関係者のために、法人が嘘をついていないかを証明する役割を担います。したがって会計監査人は法人と癒着することなく、常に公正不偏な態度で監査業務を遂行しなければなりません。

監事監査との違い

監事の役割と業務監査

社会福祉法人には必ず「監事」が設置されていますが、会計監査人と監事の役割は明確に異なります。監事は法人の業務全般を監査する権限を持っており、その範囲は会計だけでなく理事の職務執行の妥当性や適法性にまで及びます。これを業務監査と呼びます。監事は理事会に出席し意見を述べたり、理事が不正を行っている疑いがある場合に報告を求めたりするなど、法人の内部におけるガバナンスの要となる存在です。監事は必ずしも会計の専門家である必要はなく、地域の有識者や福祉関係者が就任することも少なくありません。

会計監査人の役割と財務諸表監査

一方で会計監査人の監査対象はあくまで「計算書類(財務諸表)」に限定されています。会計監査人は理事が適切な経営判断を行ったかどうかというビジネス上の決定には口を出しません。あくまでその結果として作成された決算書が、会計基準に従って正しく数字で表現されているかのみを判断します。監事が広範な業務監査を行うのに対し、会計監査人は深い専門知識を用いて財務情報の正確性を徹底的に検証するという点で、両者は補完関係にあります。

監事と会計監査人の連携

法定監査対象法人においては、監事監査と会計監査人監査は密接に連携して行われます。これを「三様監査」の一角をなす連携と呼ぶこともあります。会計監査人は監査の結果を監事に報告し、監事はその報告を受けて自らの監査報告を作成します。会計監査人から会計上の重大な問題点の指摘を受けた場合、監事はそれを踏まえて理事への是正勧告などを行うことになります。このように両者が連携することで、より強固なガバナンス体制が構築される仕組みとなっています。

任意でも社会福祉法人で公認会計士を利用するメリット

信頼性と透明性の向上

法定監査の基準に満たない小規模な法人であっても、任意で公認会計士監査を受けることには大きなメリットがあります。最大のメリットは対外的な信頼性の向上です。第三者である専門家が「この法人の決算書は正しい」と証明することは、金融機関からの融資を受ける際や、自治体からの委託事業を受ける際に極めて有利に働きます。また寄付者や地域住民に対しても、適正な運営を行っていることを客観的に示す強力なツールとなり得ます。

内部管理体制の強化とリスク低減

公認会計士による監査は、決算書のチェックだけでなく、その数字を作り出すプロセスである「内部統制」の検証も含みます。現金の取り扱いや購買プロセス、給与計算などの業務フローに不備がないかを確認するため、横領や不正会計のリスクを未然に防ぐ効果があります。公認会計士からの指導を受けることで経理担当者のスキルアップや業務の効率化につながり、結果として法人の経営基盤を盤石なものにすることができます。

経営助言と専門的知見の活用

監査契約とは別に、コンサルティングや指導という形で公認会計士に関与してもらうことも有益です。社会福祉法人の経営環境は厳しさを増しており、効率的な経営判断が求められています。公認会計士は多くの法人を見ているため、他法人の事例や業界のトレンドを踏まえた客観的なアドバイスを提供できます。特に将来的な事業拡大や建替え計画などを検討している場合、財務シミュレーションや資金繰りの面で専門家の知見は不可欠なリソースとなります。

社会福祉法人で監査を行う上でのチェックポイント

社会福祉法人会計基準への準拠

監査において最も重視されるのは、社会福祉法人特有の会計ルールである「社会福祉法人会計基準」に正しく準拠しているかという点です。企業会計とは異なり、社会福祉法人では資金収支計算書、事業活動計算書、貸借対照表の3つの計算書類を作成する必要があります。それぞれの計算書類が整合しており、かつ注記表や附属明細書などの開示情報が漏れなく記載されているかが詳細にチェックされます。

拠点区分とサービス区分の経理区分

社会福祉法人の会計で特徴的なのが「拠点区分」や「サービス区分」という概念です。ひとつの法人の中で複数の施設や事業を行っている場合、それぞれの収支を明確に区分して管理しなければなりません。共通経費を合理的な基準で按分しているか、事業間での資金の貸し借りが適切に処理されているかなどは、監査において重点的に見られるポイントです。特に就労支援事業などの収益事業を行っている場合は、会計上の区分が税務上の区分とも関わってくるため慎重な判断が求められます。

社会福祉法人が公認会計士へ依頼する際の費用相場

監査報酬の決定要因

公認会計士への監査報酬には定価が存在せず、法人の規模や複雑性によって大きく変動します。主な決定要因としては「事業収益の規模」「拠点数および事業所の数」「経理処理の正確性と内部統制の成熟度」などが挙げられます。拠点数が多く地理的に分散している場合は、会計士が往査するための移動時間や工数が増えるため報酬は高くなります。また経理体制が未熟で修正事項が多い法人では、監査にかかる時間が膨大になるため、それに応じた追加費用が発生する可能性があります。

一般的な報酬の目安

あくまで目安ですが、法定監査が必要となる収益10億円規模の法人であれば、年間数百万円程度の監査報酬が必要となるケースが一般的です。規模が大きくなり収益が数十億円、拠点が数十箇所となれば、報酬が1000万円を超えることも珍しくありません。一方で任意監査や、特定の範囲に限定した合意された手続(AUP)であれば、数十万円から百万円程度で依頼できる場合もあります。具体的な金額については、複数の監査法人や公認会計士事務所から見積もりを取り、比較検討することが重要です。

社会福祉法人が公認会計士を探す方法

日本公認会計士協会の検索システム

最も確実な方法は、日本公認会計士協会(JICPA)が提供している検索システムや名簿を利用することです。協会は非営利法人監査の品質向上に力を入れており、社会福祉法人監査の実績がある事務所や、専門の研修を受けている会計士を探すことができます。地域や専門分野で絞り込みができるため、近隣で活動している会計士を見つけるための第一歩として有効です。

同業他社や関係者からの紹介

社会福祉業界は横のつながりが強いため、地域の他の社会福祉法人や、加入している種別協議会などからの紹介も有力なルートです。実際に監査を受けている法人から評判を聞くことで、事務的な対応だけでなく、監査担当者の人柄や指導の丁寧さなどの定性的な情報を得ることができます。また顧問税理士や取引金融機関に相談し、社会福祉法人に詳しい公認会計士を紹介してもらうことも一つの手です。

社会福祉法人監査に特化した事務所のウェブサイト

近年ではインターネットを活用して情報発信を行う会計事務所が増えています。「社会福祉法人 監査 地域名」などのキーワードで検索すると、社会福祉法人の支援に特化した事務所のウェブサイトが見つかります。こうした事務所はブログやコラムで専門知識を発信していることが多く、その内容を見ることで事務所の専門性やスタンスを事前に確認することができます。実績豊富な事務所は法改正の情報をいち早くキャッチアップしているため、頼れるパートナーとなる可能性が高いでしょう。

社会福祉法人が公認会計士を選ぶ際のポイント

社会福祉法人会計への精通度

公認会計士であれば誰でも社会福祉法人の監査ができるわけではありません。企業会計と社会福祉法人会計は大きく異なるため、この分野における経験と専門知識が不可欠です。選定の際は「過去に何件の社会福祉法人の監査を担当したことがあるか」「社会福祉法特有の通知やガイドラインを理解しているか」を必ず確認してください。経験の浅い会計士に依頼してしまうと、現場の実態にそぐわない指摘を受けたり、逆に重要なリスクを見落とされたりするおそれがあります。

コミュニケーション能力と指導の姿勢

監査は単なるチェック作業ではなく、法人との対話のプロセスです。専門用語を並べ立てて一方的に誤りを指摘するのではなく、現場の職員にもわかる言葉で丁寧に説明してくれる会計士を選ぶべきです。特に社会福祉法人の経理担当者は兼務であることも多く、必ずしも会計のプロではありません。そうした事情を汲み取り、教育的な視点を持って一緒に改善に取り組んでくれるパートナーシップ型の監査人が理想的です。面談の際に「話しやすいか」「質問に対して誠実に答えてくれるか」といった相性を確認することが重要です。

監査チームの体制と継続性

個人の公認会計士に依頼する場合と、監査法人に依頼する場合とでは体制が異なります。個人の場合はフットワークが軽く報酬も抑えられる傾向にありますが、担当会計士が病気などで業務ができなくなった場合のリスクがあります。一方監査法人は組織的な対応が可能ですが、担当者が頻繁に変わる可能性があります。法人の規模に合わせて、安定して監査を継続できる体制が整っているかを確認しましょう。また予備調査(ショートレビュー)を依頼し、実際の監査チームの雰囲気を確認してから本契約を結ぶのも賢明な方法です。

社会福祉法人が公認会計士へ依頼する際によくある質問の例と回答

監査で「不適正」と言われたらどうなるのか

監査報告書で「不適正意見」が出されることは、計算書類が全く信用できない状態であることを意味します。これは法人にとって致命的な事態であり、所轄庁からの指導監査が強化されたり、最悪の場合は役員の解任命令や事業停止などの処分につながったりする可能性があります。また金融機関からの融資がストップするなど経営存続に関わる問題となります。通常はいきなり不適正意見が出ることは稀で、監査の過程で発見された誤りは修正を求められます。監査人の指摘に従って真摯に修正を行えば、適正意見を得ることができます。

顧問税理士と会計監査人は兼任できるか

公認会計士法および倫理規則により、自己監査の禁止が定められています。つまり法人の決算書作成に関与している顧問税理士(またはその所属する事務所の会計士)が、同時にその法人の会計監査人になることはできません。これは「自分で作った決算書を自分でチェックする」ことになり、客観性が保てないためです。したがって会計監査人は、現在の顧問税理士とは全く別の事務所の公認会計士に依頼する必要があります。

監査を受けるための準備は何が必要か

監査を受けるためには、日々の会計処理を適時に行い、証憑書類(請求書、領収書、契約書など)を整理保存しておくことが大前提です。また理事会の議事録や規程集などの重要書類も監査対象となります。初めて監査を受ける場合は、期首残高の確定など過去の会計処理の整理が必要になることもあります。監査人との契約が決まったら、事前に提示される「依頼資料リスト」に基づき、計画的に資料を準備することがスムーズな監査の鍵となります。

まとめ

社会福祉法人における会計監査は、単なる法的な義務やコストとして捉えるべきではありません。それは法人の財務状況を健康に保ち、地域社会からの信頼を確固たるものにするための投資です。適切な公認会計士をパートナーに迎えることは、複雑化する社会福祉制度への対応力を高め、持続可能な法人運営を実現するための強力な支えとなります。

公認会計士を選ぶ際は、費用面だけでなく、社会福祉法人会計への専門性やコミュニケーションの相性を重視することが成功の秘訣です。監査を通じて内部管理体制を強化し、透明性の高い経営を実現することで、本来の目的である利用者への質の高い福祉サービスの提供に専念できる環境を整えていきましょう。まずは複数の専門家に相談し、自法人の理念や風土に合った会計監査人を見つけることから始めてみてください。それが未来の安心と発展への第一歩となります。

次のステップ: 貴法人が監査対象に該当するかどうかの確認や、具体的な監査費用の見積もり比較を行うために、まずは地域の公認会計士協会または社会福祉法人監査の実績がある会計事務所へ問い合わせてみることをお勧めします。

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この記事の作成者 
宮嶋 直  公認会計士/税理士
京都大学理学部卒業後、大手会計事務所であるあずさ監査法人(KPMGジャパン)に入所。その後、外資系経営コンサルティング会社であるアクセンチュア、大手デジタルマーケティング会社であるオプトの経営企画管掌執行役員兼CFOを経験し、現在に至る。