SPCの監査を依頼する場合のポイント

監査

不動産証券化やプロジェクトファイナンスの分野において、SPC(特別目的会社)の活用は現代の経済活動において欠かせないスキームとなっています。巨額の資金を動かし、リスクを分散させ、投資家に対して魅力的なリターンを提供するこの仕組みにおいて、その透明性と信頼性を担保する「監査」の存在は極めて重要です。しかし、一般的な事業会社とは異なり、SPCには特有の法規制や会計処理、税務上の要件が存在するため、監査を依頼する際にも専門的な知識と適切な判断が求められます。

本記事では、SPCの監査を検討されているアセットマネージャー、投資家、および企業の財務担当者の方々に向けて、SPCの基礎知識から監査が必要となるケース、最適な監査人の選び方、費用相場、そして契約の流れに至るまでを網羅的に解説します。専門的な内容を含みますが、実務に即した視点でわかりやすく紐解いていきますので、ぜひ最後までお読みいただき、適切な監査体制の構築にお役立てください。

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SPCの監査を依頼する場合のポイント

  1. SPCとは何か?SPC目的の目的など解説
    1. SPCの基本的定義と役割
    2. 資産の流動化と証券化のメカニズム
    3. 倒産隔離機能の重要性
    4. 代表的なスキームの種類
  2. SPCで会計監査が必要になるケース
    1. 会社法に基づく監査
    2. 資産流動化法に基づく監査(TMKの場合)
    3. 金融商品取引法に基づく監査
    4. 投資家や金融機関からの要請(任意監査)
  3. SPC監査で公認会計士や監査法人を選ぶ際のポイント
    1. ストラクチャード・ファイナンスへの専門的知見
    2. スピード感と柔軟な対応力
    3. 独立性の確保と利益相反の確認
    4. 英語対応能力
    5. コストパフォーマンスの適正さ
  4. SPC監査で公認会計士や監査法人を探す方法
    1. アセットマネージャー(AM)やアドミニストレーターからの紹介
    2. 法律事務所や税理士法人からの紹介
    3. 日本公認会計士協会の検索システム活用
    4. インターネット検索と専門サイト
  5. SPC監査における監査費用相場
    1. 報酬決定のメカニズム
    2. スキーム別の相場感(GK-TK vs TMK)
    3. 大手監査法人と中小監査法人の価格差
    4. 費用が高騰する要因
  6. SPC監査を依頼する場合によくある質問の例と回答
    1. Q1: 監査はいつから依頼すべきですか?
    2. Q2: 監査法人を途中で変更することは可能ですか?
    3. Q3: 記帳代行と監査を同じ事務所に依頼できますか?
    4. Q4: 監査意見がつかない(不表明)リスクはありますか?
    5. Q5: 英語での監査報告書は作成可能ですか?
  7. まとめ

SPCとは何か?SPC目的の目的など解説

SPCの基本的定義と役割

SPCとは「Special Purpose Company」の略称であり、日本語では「特別目的会社」と呼ばれます。これは、その名の通り「特定の目的」のためだけに設立される法人のことを指します。一般的な事業会社が、継続的に事業を拡大し、多角的な活動を行うことを前提としているのに対し、SPCは特定の資産(不動産や債権など)を保有し、そこから生じる収益を投資家に分配することのみを目的として存在します。

SPCは、実態としては資産を保有するための「器(ビークル)」に過ぎません。そのため、通常は従業員を雇用せず、具体的な業務(資産の運用や管理、会計処理など)はすべて外部の専門業者に委託される形をとります。オフィスも名目上の本店所在地があるだけで、実質的な活動はアセットマネジメント会社や法律事務所などが行うことが一般的です。

資産の流動化と証券化のメカニズム

SPCが設立される最大の目的は、「資産の流動化」と「証券化」にあります。例えば、数百億円規模の大型オフィスビルを建設・運用したいと考えた場合、単独の企業がそのすべてを自己資金や借入金で賄うには巨大なリスクが伴います。また、投資家にとっても、一つの不動産を丸ごと購入することは資金的に困難です。

そこで、その不動産を保有するためだけのSPCを設立します。SPCは投資家から出資を募り、金融機関から融資を受けて不動産を取得します。そして、不動産から得られる賃料収入や売却益を原資として、金融機関への返済や投資家への配当を行います。このように、巨大で流動性の低い資産をSPCという器に入れることで、小口の投資単位に分割(証券化)し、多くの投資家が参加できるようにするのがSPCの機能です。これにより、資金調達が容易になり、リスクも分散されるという経済的なメリットが生まれます。

倒産隔離機能の重要性

SPCを語る上で欠かせない概念が「倒産隔離(Bankruptcy Remoteness)」です。これは、SPCが保有する資産のリスクを、オリジネーター(原資産の保有者)や関係者の倒産リスクから切り離すことを指します。

例えば、ある事業会社が自社ビルを保有したまま経営破綻した場合、そのビルは債権者によって差し押さえられる可能性があります。しかし、そのビルをSPCに売却し、SPCが保有する形をとっていれば、元の事業会社が倒産したとしても、SPCが保有するビルには直接的な影響が及びません。SPC自体は特定の資産運用のみを行い、余計な事業リスクを負わないように設計されているため、SPC自体が倒産するリスクも極小化されています。この仕組みがあるからこそ、投資家や金融機関は、企業の信用力ではなく、資産そのものの価値(収益力)に着目して投資や融資を行うことができるのです。これを「アセットファイナンス」と呼びます。

代表的なスキームの種類

日本に​​おけるSPCには、法的な根拠や形態によっていくつかの種類があります。代表的なものとして以下の3つが挙げられます。

まず一つ目は「合同会社(GK)と匿名組合(TK)を組み合わせたスキーム」です。通称GK-TKスキームと呼ばれ、設立の手続きが簡便でコストも比較的安価であるため、現在の不動産証券化実務において最も広く利用されています。合同会社自体は会社法に基づく法人ですが、投資家との間で商法に基づく匿名組合契約を結ぶことで、パススルー課税(法人税を課されず、利益をそのまま投資家に分配できる税務上の仕組み)を実現します。

二つ目は「特定目的会社(TMK)」です。これは資産の流動化に関する法律(資産流動化法)に基づいて設立される法人です。GK-TKスキームに比べて設立や運営の手続きが厳格であり、行政への届出や資産流動化計画の策定が必要となりますが、税制上の優遇措置が法律で明文化されているため、大規模な案件やコンプライアンスを重視する海外投資家向けの案件で好まれる傾向があります。

三つ目は「投資法人」です。これは投資信託及び投資法人に関する法律に基づいて設立される社団であり、J-REIT(不動産投資信託)などがこれに該当します。上場REITのように、不特定多数の投資家から資金を集める際に利用される形態です。

SPCで会計監査が必要になるケース

SPCは従業員を持たないペーパーカンパニーであることが多いですが、それでも外部の公認会計士や監査法人による会計監査が必要となるケースが多々あります。監査が必要となる理由は、大きく分けて「法令による義務」と「契約や信用補完のための任意」の二つに分類されます。

会社法に基づく監査

まず、SPCが株式会社や合同会社として設立されている場合、会社法上の「大会社」に該当すれば会計監査人の設置および監査が義務付けられます。大会社とは、資本金が5億円以上、または負債総額が200億円以上の会社を指します。

ただし、実務上多くのSPC(特にGK-TKスキームの合同会社)は、資本金を少額(例えば10万円など)に設定し、負債総額も200億円を超えない範囲で組成されることが多いため、会社法上の監査義務が発生するケースは限定的です。しかし、超大型のプロジェクトや、あえて株式会社形態をとるSPCにおいては、この要件に該当する可能性があるため注意が必要です。

資産流動化法に基づく監査(TMKの場合)

特定目的会社(TMK)の場合、資産の流動化に関する法律によって会計監査人の設置が義務付けられています。TMKは税制上の優遇措置を受ける要件(導管性要件)が厳格に定められており、その透明性と適正性を担保するために、公認会計士または監査法人による監査を受けることが必須となります。

具体的には、貸借対照表、損益計算書、資産流動化計画に基づく事業報告書などが監査の対象となります。TMKスキームを採用する時点で、監査コストと手間が発生することは織り込んでおく必要があります。

金融商品取引法に基づく監査

SPCが発行する証券が金融商品取引法上の有価証券に該当し、かつ一定の条件(上場している、または多数の投資家に対して勧誘を行うなど)を満たす場合、金融商品取引法に基づく監査が必要となります。J-REITなどの投資法人はこれに該当します。

一般的なプライベートファンドのSPCであっても、発行する社債や優先出資証券の形態によっては、この法律の適用を受ける可能性があります。特に公募案件の場合は必須となりますが、プロ投資家向けの私募案件であれば免除されることもあります。

投資家や金融機関からの要請(任意監査)

実務上、最も多いのがこの「任意監査」のケースです。法律上は監査が義務付けられていない合同会社(GK)などのSPCであっても、資金の出し手である投資家や、融資を行う金融機関から、監査を受けることを条件とされることが非常に多くあります。

投資家にとっては、自分が出資した資金が適切に管理され、報告される財務諸表が正しいものであるという保証がなければ、安心して投資を継続することができません。また、金融機関にとっても、融資先のSPCの財務状況が適正であることを第三者が証明することは、与信管理上極めて重要です。これを「コベナント(誓約事項)」として融資契約書に盛り込むことが一般的です。

したがって、法令上の義務がないSPCであっても、ステークホルダーへの説明責任を果たし、信用の質を高めるために、実質的には監査が必須となるケースが大半を占めているのが現状です。

SPC監査で公認会計士や監査法人を選ぶ際のポイント

SPCの監査は、一般的な事業会社の監査とは異なる特殊な論点が多く含まれます。そのため、どの監査法人や公認会計士に依頼するかによって、監査の品質やスムーズな進行、さらにはコストパフォーマンスに大きな差が生じます。ここでは、SPC監査の依頼先を選定する際に重視すべきポイントを解説します。

ストラクチャード・ファイナンスへの専門的知見

最も重要なのは、SPCやストラクチャード・ファイナンス(仕組み金融)に関する専門的な知見と経験を有しているかどうかです。SPCの監査では、単に会計基準に照らし合わせるだけでなく、そのSPCがどのようなスキームで組成され、どのような契約に基づいて資金が流れ、税務上の導管性(パススルー)がどのように確保されているかを深く理解している必要があります。

例えば、匿名組合契約における損益分配の計算が契約書通りに行われているか、消費税の課税・非課税の判定が不動産取引の実態に即しているか、信託受益権の評価が適切かなど、確認すべきポイントは多岐にわたります。一般的な事業会社の監査しか経験のない会計士では、こうしたスキーム特有のリスクを見落としたり、逆に不要な点にこだわって監査進行を遅らせたりする恐れがあります。したがって、不動産証券化や流動化案件の実績が豊富な監査法人を選ぶことが第一の条件です。

スピード感と柔軟な対応力

SPCの決算および監査スケジュールは、非常にタイトであることが一般的です。多くのSPCは投資家への報告期限が決まっており、決算日から1ヶ月から2ヶ月以内に監査報告書を提出しなければならないケースが多々あります。また、不動産の売買やリファイナンスのタイミングに合わせて、期中での監査や速やかな意見表明が求められることもあります。

こうした厳しいスケジュールに対応するためには、監査チームのフットワークの軽さと、意思決定のスピードが重要になります。大手監査法人は品質管理が厳格である反面、社内手続きに時間がかかり、突発的な事象への対応が遅れる場合があります。一方、SPC監査に特化した中堅・中小監査法人であれば、パートナー(責任者)との距離が近く、迅速かつ柔軟な対応が期待できることが多いです。自社のスケジュール感にマッチした監査法人を選ぶことが重要です。

独立性の確保と利益相反の確認

監査人は、監査対象となるSPCに対して「独立性」を保っている必要があります。これは公認会計士法や倫理規則で厳しく定められています。具体的には、監査人がそのSPCの出資者であったり、役員を兼任していたり、あるいは記帳代行業務を同時に請け負っていたりしてはいけません。

特にSPCの場合、関係者が多岐にわたるため、意図せず利益相反が生じることがあります。例えば、SPCの設立に関与した会計事務所や、アセットマネジメント会社の顧問税理士が監査をすることは原則としてできません。選定の際には、事前の独立性チェック(コンフリクトチェック)を確実に行い、法的な問題がないかをクリアにしておく必要があります。

英語対応能力

SPCへの投資家は国内にとどまらず、海外の機関投資家やファンドであることも少なくありません。その場合、財務諸表や監査報告書を英語で作成することや、海外投資家からの質問に対して英語で回答することが求められます。

また、契約書自体が英文で作成されているケースもあります。したがって、監査チームの中にビジネスレベルの英語力を持ち、海外の会計基準(IFRSやUS-GAAP)にも一定の理解があるメンバーが含まれているかどうかも、重要な選定ポイントとなります。海外投資家がメインの案件であれば、国際的なネットワークを持つ監査法人を選ぶことが安心材料となるでしょう。

コストパフォーマンスの適正さ

監査報酬は、SPCの運営コストの中でも無視できない割合を占めます。投資家へのリターンを最大化するためには、監査費用も適正な水準に抑える必要があります。

大手監査法人はブランド力があり、海外投資家への説明能力も高いですが、その分監査報酬は高額になる傾向があります。一方、SPCに特化した中小監査法人は、効率的な監査手法を確立しているため、比較的リーズナブルな報酬でサービスを提供できる場合があります。案件の規模や投資家の属性(大手ブランドを求めるかどうか)、予算を総合的に勘案し、費用対効果の最も高い監査法人を選定することが経営判断として求められます。

SPC監査で公認会計士や監査法人を探す方法

SPCの監査を依頼できる専門家は、どこにでもいるわけではありません。特殊な分野であるため、効果的な探し方を知っておく必要があります。ここでは、信頼できる監査人を見つけるための主要なルートを紹介します。

アセットマネージャー(AM)やアドミニストレーターからの紹介

SPCの運営を実質的に取り仕切るアセットマネジメント会社(AM)や、事務管理を行う一般事務受託会社(アドミニストレーター)は、業界内でのネットワークを豊富に持っています。彼らは日常的に複数のSPCを管理しており、どの監査法人がSPC監査に強く、スムーズな仕事をするかを経験的に知っています。

まずはAMやアドミニストレーターの担当者に相談し、過去の実績や評判が良い監査法人を紹介してもらうのが最も確実で効率的な方法です。彼らの紹介であれば、実務の連携もスムーズに進むことが期待できます。

法律事務所や税理士法人からの紹介

SPCの組成(ストラクチャリング)に関わった法律事務所や、税務顧問を担当する税理士法人からの紹介も有効です。スキームの構築に関与した専門家は、そのSPCの特性やリスクを理解しているため、それに適した監査法人を推薦してくれる可能性が高いです。ただし、前述の通り「独立性」の観点から、記帳代行を行っている税理士法人がそのまま監査を行うことはできないため、あくまで提携先や知り合いの別法人を紹介してもらう形になります。

日本公認会計士協会の検索システム活用

日本公認会計士協会のウェブサイトには、会員である公認会計士や監査法人を検索できるシステムがあります。ここで地域や取り扱い業務などを指定して検索することが可能です。ただし、この方法では「SPC監査が得意かどうか」までの詳細な情報は得にくい場合があります。あくまでリストアップの手段として利用し、実際の選定にあたっては各法人のウェブサイトを確認したり、直接問い合わせて実績を聞いたりする必要があります。

インターネット検索と専門サイト

「SPC 監査」「不動産証券化 監査法人」などのキーワードで検索すると、SPC監査に力を入れている監査法人のウェブサイトが見つかります。最近では、SPC監査に特化したブティック型の会計事務所も増えており、自社の強みや実績を積極的に発信しています。

ウェブサイトを見る際は、単に「対応可能」と書かれているだけでなく、具体的な実績数や、SPC特有の論点(TMK、GK-TK、REITなど)に関する解説記事があるかどうかに注目してください。専門的な情報を発信している法人は、それだけ知見が深く、教育体制もしっかりしている可能性が高いと言えます。

SPC監査における監査費用相場

監査費用は、依頼する側にとって非常に気になるポイントですが、一概にいくらと言い切ることは難しく、様々な要因によって変動します。ここでは、費用の決まり方と大まかな相場感について解説します。

報酬決定のメカニズム

監査報酬は基本的に「監査に要する時間(工数) × 単価」で計算されます。 監査にかかる時間は、SPCの規模(資産総額)、保有する資産の数、スキームの複雑さ、内部統制の状況(アセットマネージャーや事務受託会社の管理レベル)によって大きく変わります。 単価については、監査法人の規模やブランド力、担当する会計士の経験年数によって異なります。

また、初回監査の場合は、そのSPCのビジネスやスキームを理解するための初期調査が必要となるため、2年目以降に比べて費用が高くなる傾向があります(初年度監査加算)。

スキーム別の相場感(GK-TK vs TMK)

一般的に、合同会社(GK-TK)スキームよりも、特定目的会社(TMK)スキームの方が監査報酬は高くなる傾向があります。 これは、TMKが資産流動化法という特別法に基づいた法人であり、法令遵守のチェック項目が多く、監査手続がより広範かつ厳格になるためです。また、TMKは行政への報告義務もあり、監査人の確認事項が増えることも要因です。

ざっくりとした目安ですが、資産規模が数十億円程度の単一物件を保有するGK-TKスキームの場合、年間数十万円から200万円程度が相場となることが多いです。一方、同規模のTMKであれば、150万円から300万円程度、あるいはそれ以上になることもあります。 (※これらはあくまで目安であり、個別の事情により大きく変動します。)

大手監査法人と中小監査法人の価格差

監査法人の規模による価格差も顕著です。 Big4と呼ばれる大手監査法人(新日本、トーマツ、あずさ、PwCあらた)は、圧倒的なブランド力と海外ネットワーク、高度な品質管理体制を持っていますが、その分、間接コスト(品質管理部門のコストやシステム投資など)も高く、監査報酬は高額になります。海外の大手機関投資家が入っている案件や、超大型のプロジェクトでは大手監査法人が必須となるケースがありますが、コストは相応にかかります。

一方、準大手や中小規模の監査法人、あるいはSPC特化型の会計事務所は、組織がコンパクトであるため間接コストが低く、大手と比較して2〜3割、場合によっては半額程度の報酬で引き受けることもあります。国内投資家が中心の案件や、コスト意識の高いプロジェクトでは、こうした監査法人が選ばれることが多くなっています。

費用が高騰する要因

以下のような事情がある場合、監査費用は相場より高くなる可能性があります。

  • 保有資産が多数ある: 複数の不動産を保有している場合、それぞれの物件について権利関係や収益の確認が必要となるため、工数が増加します。
  • 複雑なスキーム: 二層構造のTKや、海外SPCを挟むスキームなど、権利関係や資金の流れが複雑な場合は、リスク評価に時間を要します。
  • 英語対応: 英語でのレポート作成や海外とのコミュニケーションが必要な場合、対応できる人材が限られるため、単価が上がることがあります。
  • 期中での急な依頼: 決算直前での依頼など、短期間で集中的に監査を行う必要がある場合、特急料金的な加算がされることがあります。

見積もりを取る際は、これらの要件を事前に整理し、監査法人に正確に伝えることで、より精緻で納得感のある提案を受けることができます。

SPC監査を依頼する場合によくある質問の例と回答

SPCの監査に関して、クライアントから頻繁に寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q1: 監査はいつから依頼すべきですか?

A: 可能な限り早く、できればSPCの設立段階やスキームの構築段階から相談することをお勧めします。遅くとも、決算日の3ヶ月前までには契約を結んでおくのが理想的です。 監査は決算数値が固まってから始まるものではなく、期中に行う「中間監査」や「内部統制の評価」も含まれます。早めに監査人が関与することで、会計処理の誤りを未然に防いだり、決算スケジュールの遅延リスクを減らしたりすることができます。期末直前になってからの依頼は、監査法人側のリソース不足で断られたり、報酬が割高になったりするリスクがあります。

Q2: 監査法人を途中で変更することは可能ですか?

A: はい、可能です。監査契約は通常1年ごとの更新ですので、契約期間満了のタイミングで変更することができます。 変更の理由としては「報酬の削減」「コミュニケーションの不満」「監査法人のリソース不足」などが挙げられます。変更する際は、新しい監査法人への引き継ぎが必要となります。前任の監査人から監査調書の閲覧や引き継ぎ事項の聴取を行うことで、スムーズな移行が可能になります。ただし、頻繁な変更は投資家からの信用を損なう可能性があるため、慎重な判断が必要です。

Q3: 記帳代行と監査を同じ事務所に依頼できますか?

A: 原則としてできません。これを「自己監査」といい、監査の独立性を損なう行為として公認会計士法で禁止されています。 記帳代行(財務諸表の作成支援)を行った者が、自分で作成した数字を自分でチェックすることになるため、公正な監査が期待できないからです。ただし、同じグループ内であっても、記帳代行を行う法人と監査を行う法人が別法人で、かつ人的・資本的な独立性が確保されている場合など、一定の条件下であれば可能なケースもありますが、基本的には分けて発注するのが安全です。

Q4: 監査意見がつかない(不表明)リスクはありますか?

A: 非常に稀ですが、リスクとしては存在します。 例えば、重要な会計資料が紛失している、アセットマネージャーが不正を行っている疑いがあり十分な証拠が入手できない、あるいは企業の存続に関わる重大な疑義がある場合などです。しかし、通常は監査の過程で問題点が見つかれば、監査人から修正の提案や資料提出の要請があり、会社側がそれに対応することで「適正意見」が出されます。監査人と密にコミュニケーションを取り、必要な情報を適時に提供することが、無限定適正意見を得るための鍵となります。

Q5: 英語での監査報告書は作成可能ですか?

A: 多くの監査法人で対応可能です。ただし、日本語の報告書を単に翻訳するだけでなく、国際的な監査基準や会計基準との差異を考慮した記述が必要になる場合があるため、追加費用が発生するのが一般的です。また、対応できる会計士が限られる場合もあるので、契約前の段階で「英語対応が必須である」ことを明確に伝え、実績の有無を確認しておくことが重要です。

まとめ

SPCの監査は、投資家保護と金融市場の信頼性を維持するために不可欠なプロセスです。それは単なる法的義務の履行にとどまらず、SPCの信用力を高め、円滑な資金調達や有利な条件での取引を実現するための戦略的な投資でもあります。

最適な監査パートナーを見つけるためには、以下のポイントを再確認してください。

  1. 専門性: SPCや不動産証券化の実務に精通しているか。
  2. 対応力: タイトなスケジュールや英語対応など、自社のニーズに柔軟に応えられるか。
  3. 独立性: 利益相反がなく、公正な立場を保てるか。
  4. コスト: サービス内容に見合った適正な報酬水準か。

アセットマネージャーや関係者からの紹介を活用しつつ、複数の監査法人と面談を行い、実績や担当者の人柄、コミュニケーションのしやすさを比較検討することが成功への近道です。

適切な監査人とパートナーシップを築くことは、SPC運営の安定化と、プロジェクトの最終的な成功に大きく貢献します。本記事が、皆様の監査人選定の一助となり、安心できる投資スキームの構築につながることを願っています。早めの準備と慎重な選定を行い、信頼できる監査体制を整えましょう。

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この記事の作成者 
宮嶋 直  公認会計士/税理士 京都大学理学部卒業後、大手会計事務所であるあずさ監査法人(KPMGジャパン)に入所。その後、外資系経営コンサルティング会社であるアクセンチュア、大手デジタルマーケティング会社であるオプトの経営企画管掌執行役員兼CFOを経験し、現在に至る。