スタートアップ。それは、革新的なアイデアと情熱を武器に、既存の市場や社会課題に挑む挑戦者たちの総称です。創業者の頭の中は、プロダクトの開発、顧客の獲得、そして事業の急成長で占められています。その圧倒的なスピード感と集中力こそが、スタートアップの最大の武器です。
しかし、その裏側で、多くの創業者が足元をすくわれる問題があります。それが、バックオフィス業務、特に「経理」と「税務」、そして「財務」です。
「売上はまだないが、開発費ばかりがかさむ」「資金調達が必要だが、事業計画書の数字の作り方がわからない」「ストックオプションを発行したいが、税務が複雑だ」「海外のプラットフォーム手数料の消費税はどうなるのか」。スタートアップ特有の経営課題は、従来の会計事務所が想定してきた中小企業のそれとは、全く異なります。
日々の開発や営業に追われる中で、これらの複雑な管理業務を創業メンバーだけで完璧にこなすことは、至難の業です。そして、バックオフィスの不備は、税務調査での追徴課税という直接的なダメージだけでなく、ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達が遅れる、あるいは監査法人のレビューが通らずIPO(株式公開)が遠のくといった形で、事業の成長スピードを致命的に鈍化させる原因となります。
そんな時、あなたのビジョンに共感し、その急成長を数字の面から支え、共に戦う経営参謀となってくれるのが、「スタートアップに強い会計事務所(税理士)」です。
この記事では、スタートアップがなぜ会計事務所を活用すべきなのか、そしてそのメリットを最大化するためにはどうすれば良いのかを、徹底的に解説します。会計事務所はコストではなく、あなたの事業の未来を守り、成長を加速させるための、最も重要な「投資」の一つなのです。
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スタートアップが会計事務所を活用するメリットについて徹底解説
スタートアップの税務の特徴
最適なパートナーを見つけるために、なぜスタートアップには「専用」の税理士が必要なのか、その理由をまず理解する必要があります。スタートアップは、単なる「小さな会社」ではありません。そのビジネスモデルと成長戦略は、税務・会計において極めて特殊な論点を生み出します。
急成長と先行投資による赤字
多くのスタートアップは、Jカーブと呼ばれる成長曲線を描きます。つまり、創業初期はあえて大きな赤字(赤字)を掘ります。これは、プロダクト開発やマーケティングに多額の「先行投資」を行うためです。
この創業期の赤字は、税務上「欠損金」と呼ばれます。この欠損金を正しく申告し、翌年以降の黒字と相殺(繰越控除)できるかどうかは、将来のキャッシュフローに致命的な影響を与えます。赤字だからこそ、正確な申告が求められるのです。
資金調達(エクイティファイナンス)
従来の企業が金融機関からの「借入(デットファイナンス)」で資金を調達するのに対し、スタートアップはベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家からの「出資(エクイティファイナンス)」で成長資金を調達します。
この出資によって得た資金は、「売上」ではなく、「資本金」や「資本準備金」として扱われます。この会計処理は非常に専門的です。また、投資家は出資の対価として、信頼できる財務諸表(決算書)や将来の収支計画を要求します。これを作成できる体制がなければ、資金調達のスタートラインにすら立てません。
資本政策とストックオプション
エクイティファイナンスを行うことは、「資本政策」の始まりを意味します。これは、誰にどれだけの株式(議決権)を、どのタイミングで、どの価値(株価)で渡すかという、極めて高度な財務戦略です。創業者の持分比率の設計を誤ると、将来経営権を失うリスクさえあります。
また、スタートアップが優秀な人材を確保するための強力な武器が、「ストックオプション」です。このストックオプションの発行には、税制上の優遇措置が受けられる「税制適格ストックオプション」の設計など、複雑な税務・法務の知識が不可欠です。
グローバル展開(国際税務)
SaaS(Software as a Service)やアプリビジネスの多くは、最初から国境を越えてサービスを展開します。海外のユーザーから売上が上がったり、海外のプラットフォーム(App StoreやGoogle Playなど)に手数料を支払ったりした瞬間から、「国際税務」の問題が発生します。
海外の消費税の扱いや、プラットフォーム手数料にかかる日本の消費税(リバースチャージ)、海外で天引きされた源泉所得税の処理(租税条約)など、これらの論点は一般的な税理士では対応が困難な領域です。
スタートアップが会計事務所へ依頼できること
スタートアップに強い会計事務所は、単なる税務申告の代行にとどまりません。あなたの会社の成長ステージに合わせて、バックオフィスの構築から財務戦略の立案まで、CFO(最高財務責任者)のような役割を果たします。
バックオフィス体制の構築支援
創業者が本業に集中できるよう、面倒な管理業務の基盤をゼロから構築します。
- クラウド会計の導入支援: freeeやマネーフォワード クラウドといったクラウド会計ソフトの選定と初期設定を行います。これにより、経理業務の大幅な効率化を図ります。
- 経理フローの設計: 請求書の発行から売掛金の管理、経費精算のルール決めまで、お金の流れを管理する仕組みを設計します。
日常の記帳代行と月次決算
日々の領収書の整理や会計ソフトへの入力を代行する「記帳代行」サービスを提供します。また、自社で入力(自計化)する場合は、その内容が正しいかを毎月チェックし、「月次決算」として速報値を提供します。これにより、経営者は自社の最新の経営成績や資金の残高(キャッシュポジション)をリアルタイムで把握できます。
資金調達(デット・エクイティ)の支援
スタートアップの生命線である資金調達を、強力にサポートします。
創業融資と事業計画書の作成
まず取り組むべき日本政策金融公庫などからの創業融資(デットファイナンス)を成功させるため、金融機関を納得させられる精緻な「事業計画書」の作成を支援します。売上予測や収支計画、資金繰り計画の策定を二人三脚で行います。
エクイティファイナンスのサポート
ベンチャーキャピタル(VC)からの出資(エクイティファイナンス)を受ける際には、投資家向けのピッチ資料(プレゼン資料)の基となる財務シミュレーション(将来の収支計画)の作成を支援します。税理士が作成に関与した客観的な数字は、投資家からの信頼を高めます。
資本政策とストックオプションの設計支援
「いつ、どれくらいの株価で、どれだけ出資を受け入れるべきか」「創業メンバーの持分比率はどうするか」。こうした将来の出口戦略(IPOやM&A)まで見据えた「資本政策」の立案をアドバイスします。 また、優秀な人材を採用するための「ストックオプション」について、税制適格要件を満たすための設計や、法務的な手続き(提携司法書士と連携)をサポートします。
税務申告と戦略的な節税対策
もちろん、税理士の基本業務である法人税や消費税の申告書作成を正確に行います。 それだけでなく、スタートアップ特有の節税策を積極的に提案します。赤字を将来に繰り越す「欠損金の繰越控除」の確実な適用や、「研究開発税制」「中小企業投資促進税制」といった優遇税制の活用を検討し、会社のキャッシュフローを最大化します。
スタートアップが会計事務所と契約するメリット
スタートアップという特殊な環境下で、会計事務所(税理士)と契約することは、コストを遥かに上回る計り知れないメリットをもたらします。それは、事業の成長スピードを左右する戦略的な一手です。
経営者が本業に100%集中できる
これが最大のメリットです。スタートアップの創業者は、プロダクトを磨き、顧客を獲得し、優秀な仲間を集めるという「事業を創る」ことに、全神経を集中させるべきです。 慣れない経理作業や複雑な税務申告、資金調達の書類作成に、貴重な時間と精神力を奪われてしまうのは、企業にとって最大の損失です。これらのバックオフィス業務を専門家に丸ごと任せることで、経営者は自らが最も価値を発揮できるコア業務に100%集中できます。
資金調達の成功確率が飛躍的に高まる
資金調達は、スタートアップの生命線です。金融機関(融資)もベンチャーキャピタル(出資)も、彼らが納得できる客観的で論理的な「事業計画」と「財務計画」なしには、1円も出してくれません。 スタートアップ支援の実績が豊富な会計事務所は、金融機関やVCが「どのような数字を」「どのようなロジックで」求めているかを熟知しています。専門家が作成に関与した信頼性の高い書類は、あなたの資金調達の成功確率を飛躍的に高めます。
経営状況の「見える化」と的確な意思決定
創業期の経営は、情熱と直感で進みがちですが、それだけでは長続きしません。会計事務所が提供する「月次決算書」は、あなたの会社の経営状態を客観的に示す「健康診断書」です。 「あと何ヶ月で資金が尽きるか(バーンレート)」「顧客一人あたりの獲得コスト(CAC)はいくらか」「その顧客が生み出す生涯価値(LTV)は」。こうした重要なKPI(経営指標)を数字で把握することで、経営者はデータに基づいた的確な意思決定(ピボットや追加投資の判断など)を下せるようになります。
将来の成長に耐えうる管理体制の構築
創業時に構築したExcelベースの自己流の経理体制は、従業員が5人、10人と増え、取引が複雑化するにつれて、必ず破綻します。 会計事務所は、将来の事業拡大(スケーラビリティ)を見据え、クラウド会計を中核とした、効率的で統制の取れたバックオフィス体制を最初から設計してくれます。これは、IPOやM&A(事業売却)を目指す上での必須条件である、「監査に耐えうる管理体制」の基礎となります。
スタートアップが会計事務所と契約すべきベストなタイミング
「いつから会計事務所に頼むべきか」。これは、多くの創業者が悩む問題です。「売上が立ってからで良い」「黒字になってからで良い」と考えるのは、スタートアップにとっては危険な判断ミスに繋がる可能性があります。
会社設立の「前」(構想段階)
これが、最も理想的なタイミングです。なぜなら、会社設立のプロセスには、その後の税務戦略や資本政策に、決定的な影響を与える重要な選択が詰まっているからです。
設立形態(株式会社 vs 合同会社)
どちらの法人形態を選ぶべきか。社会的信用や将来の出資受け入れを考えるなら株式会社、コストや自由度を優先するなら合同会社といった判断を、事業計画に基づいてアドバイスします。
資本金の額
資本金を1,000万円未満に設定すれば、原則として設立から2事業年度は消費税が免除されます。このメリットを享受するための最適な資本金額を決定します。
決算月の設定
会社の繁忙期を避けたり、消費税の免税期間を最大限に活用できる(例えば、設立日を月初にして決算月を12ヶ月後に設定するなど)、戦略的な決算月を提案します。
資本政策の初期設計
創業者間の株式の持分比率をどうするか。この最初の設計図が、将来の資金調達や経営権に大きな影響を与えます。
これらの「やり直し」が効かない重要な意思決定を、専門家抜きで行うべきではありません。
最初の資金調達(融資・出資)を目指す時
会社設立とほぼ同時に、多くのスタートアップが資金調達に動きます。日本政策金融公庫からの創業融資であれ、エンジェル投資家からの出資であれ、金融機関や投資家を納得させるための「事業計画書」は必須です。 この計画書の作成を支援してもらうためにも、設立と同時に契約するのがベストです。
売上が発生し始めた時
売上が発生(特にSaaSやアプリ内課金、海外売上など)すると、会計処理は一気に複雑化します。売上をどのタイミングで計上するか(収益認識基準)、プラットフォーム手数料はどう処理するか。自己流で進める前に、プロの指導のもとで正しい経理フローを確立すべきです。
最初の従業員を雇用する時
従業員を一人でも雇えば、源泉所得税の徴収、給与計算、社会保険(労務士と連携)といった、新たな管理業務が発生します。これらも、専門家のサポートがあった方が確実です。
こんなスタートアップは会計事務所と契約することをお勧め
顧問契約には費用がかかります。しかし、以下のような特徴を持つスタートアップにとって、会計事務所との契約は「コスト」ではなく、「必須の投資」であると断言できます。
外部からの資金調達(VC・融資)を目指す企業
これが、会計事務所との契約を推奨する最大の理由です。ベンチャーキャピタル(VC)も金融機関も、信頼できる財務諸表と事業計画書なしには、投資判断を下しません。 専門家のお墨付きがある財務データと、実現可能性の高い収支計画は、資金調達の成功に不可欠なパスポートです。
創業メンバーに財務・経理の専門家がいない企業
創業メンバーが、エンジニアやデザイナー、マーケターといったプロダクトサイドの専門家だけで構成されている場合、バックオフィスの専門家が不在です。 このようなチームこそ、会計事務所を「社外CFO(最高財務責任者)」として活用し、自らの弱点を補完する必要があります。
将来的なIPOやM&A(イグジット)を視野に入れる企業
将来的に株式公開(IPO)や事業売却(M&A)によるイグジットを目指すのであれば、創業初年度から、監査法人の監査や買い手のデューデリジェンス(企業調査)に耐えうる、クリーンで正確な会計帳簿を作成し続ける必要があります。 後から過去の帳簿を修正するのはほぼ不可能です。最初からIPOやM&Aの経験が豊富な会計事務所と契約し、将来を見据えた管理体制を構築することが必須条件です。
スタートアップが会計事務所と契約する際の費用相場
スタートアップが会計事務所に依頼する場合、その費用は、従来の一般的な中小企業とは異なる料金体系が設定されていることが多いです。成長への期待を込めた、戦略的な価格設定が特徴です。
創業期(シード期)の費用相場
この時期は、スタートアップ側にキャッシュがないことを会計事務所側も理解しています。そのため、創業期に特化したリーズナブルなパッケージプランが用意されていることが多いです。
月額顧問料
- 記帳代行なし(自計化): 月額 2万円 ~ 4万円程度
- 記帳代行あり(丸投げ): 月額 3万円 ~ 5万円程度 (クラウド会計の活用を前提に、低価格に抑えているケースが多いです)
決算申告料
- 年額 10万円 ~ 20万円程度(月額顧問料の4~6ヶ月分が目安)
会社設立支援
- 顧問契約を前提に、手数料無料または実費のみ(登録免許税など)で行う事務所が多数派です。
創業融資支援
- 着手金 0円 ~ 10万円 + 成功報酬(調達額の3%~5%)
- または、固定報酬で 10万円 ~ 20万円程度
成長期(シリーズA以降)の費用相場
資金調達に成功し、事業が拡大フェーズに入ると、従業員数や取引量が増え、会計処理も複雑化します。それに伴い、顧問料も上がっていきます。
月額顧問料
- 月額 5万円 ~ 15万円程度
- 経営会議への参加やKPI管理など、CFO的な役割を求める場合は、さらに高額になります。
エクイティファイナンス支援
ベンチャーキャピタルからの出資支援は、非常に高度な専門知識を要するため、高額になります。
- **成功報酬(調達額の3%~7%)**またはプロジェクトフィー(50万円~)が一般的です。
費用が変動する主な要因
- 記帳代行の有無: 自計化すれば安くなります。
- 複雑性: 国際取引、ストックオプション、M&Aなど、特殊な論点が増えれば費用は上がります。
- コンサルティングのレベル: 単なる税務顧問か、CFO代行レベルの戦略的パートナーかによって、大きく変動します。
スタートアップが会計事務所を探す方法
スタートアップの成功を左右する重要なパートナー探しです。一般的な探し方とは異なる、スタートアップエコシステム特有の方法を活用することが、成功の鍵です。
ベンチャーキャピタル(VC)や投資家からの紹介
これが最も確実で質の高い方法です。VCは、自らの投資先(ポートフォリオ企業)の財務管理を任せるため、スタートアップ支援に特化した、信頼できる会計事務所のリストを持っています。 出資を受けているVCやエンジェル投資家に、「どの会計事務所が良いか」と推薦を依頼しましょう。彼らが信頼する事務所であれば、まず間違いありません。
先輩起業家や経営者仲間からの紹介
同じようにスタートアップを経営している、少し先のステージに進んでいる先輩起業家からの口コミは、何よりも信頼できます。 「あの事務所はVCとの交渉に強かった」「資本政策の相談に的確だった」といったリアルな体験談は、非常に参考になります。
インターネット検索(専門性での絞り込み)
「スタートアップ 税理士」「資金調達 税理士」「SaaS 会計事務所」「IPO 支援 税理士」といったように、スタートアップ特有のキーワードで検索することが重要です。 ウェブサイトをチェックし、「VCからの資金調達実績」「ストックオプション設計支援」「IPOコンサルティング」といった文言が具体的に記載されているか、ブログなどで専門的な知見を発信しているかを確認します。
スタートアップ向けイベントやコミュニティ
インキュベーション施設やアクセラレータープログラム、コワーキングスペースなどが主催するピッチイベントやセミナーには、スタートアップを支援する税理士が、スポンサーやメンターとして参加していることが多くあります。こうした場で直接名刺交換し、ネットワークを築くのも良い方法です。
スタートアップが会計事務所を選ぶ際のポイント
候補となる会計事務所と面談する際には、その実力と相性を見極めるために、以下のポイントを重点的にチェックしましょう。
スタートアップ支援の実績(特に資金調達)
これが最も重要です。一般的な中小企業の顧問実績がいくら多くても、スタートアップ支援の経験がなければ意味がありません。
- 「これまでに何社のスタートアップの資金調達(エクイティ)を支援しましたか?」
- 「どのVCとの交渉経験がありますか?」
- 「日本政策金融公庫の創業融資の成功率はどれくらいですか?」 具体的な数字と実績を質問しましょう。
自社のビジネスモデルへの理解度
あなたの事業(SaaS、アプリ、D2Cなど)の特性を、どれだけ深く理解しているかを見極めます。 「MRRやLTVといったKPIを管理した経験はありますか」「当社のビジネスモデルで、税務上最も注意すべき点は何ですか」と質問し、その回答が的確かどうかで判断します。
ITリテラシーとクラウド会計への対応
スタートアップの税理士にとって、高いITリテラシーは必須スキルです。
- **クラウド会計(freee, MF)**に完璧に対応しているか。
- SlackやChatworkといったビジネスチャットでの迅速なコミュニケーションが可能か。
- 銀行口座や決済システムとのAPI連携による業務自動化を、積極的に提案してくれるか。 面談が対面のみで、紙の資料を要求するような事務所は、避けるべきです。
コミュニケーションのスピードと相性
スタートアップの経営判断は、スピードが命です。質問に対するレスポンスが数日後、というのでは話になりません。チャットなどで即日~翌営業日には、的確な回答が返ってくるスピード感が求められます。 また、最終的には、経営者と税理士の人間的な相性も重要です。「この人になら会社の未来を相談できる」と心から信頼できるパートナーかどうかを、あなたの直感で見極めてください。
将来の成長(IPO・M&A)への対応力
あなたの会社が急成長した時に、その税理士は対応しきれるでしょうか。将来的なIPO(株式公開)やM&A(事業売却)を視野に入れている場合、その準備段階(監査法人対応やデューデリジェンス)の経験があるかどうかも、確認しておくべきポイントです。
スタートアップが会計事務所を選ぶにあたってよくある質問の例と回答
ここでは、スタートアップの創業者が会計事務所を選ぶ際に、よく抱く疑問とその回答をまとめました。
Q1. 会社は赤字(赤字)なのに、顧問料を払ってまで税理士は必要ですか?
A1. はい、赤字だからこそ必要です。スタートアップの赤字は「先行投資」です。この赤字を「欠損金」として正しく税務署に申告し、翌年以降の黒字と相殺(繰越控除)することで、将来の税金を大幅に節約できます。 さらに重要なのは、VCや金融機関は、赤字でもクリーンな財務諸表を求めるという点です。赤字の理由と、その後の黒字化への道筋を、数字で明確に説明できなければ、資金調達は成功しません。
Q2. 顧問料をできるだけ安く抑える方法はありますか?
A2. あります。最も効果的な方法は、「自計化」です。つまり、クラウド会計ソフトを導入し、日々の記帳は自社で行うことです。会計事務所には、そのデータのチェック(レビュー)と、月次決算、申告業務だけを依頼します。 記帳代行(丸投げ)に比べて税理士の作業量が減るため、月額顧問料を安く抑えることができます。スタートアップに強い事務所は、自計化を前提としたプランを推奨することが多いです。
Q3. 会社設立の手続きも、会計事務所にお願いできますか?
A3. はい、可能です。多くのスタートアップ支援に強い会計事務所は、会社設立手続きをパッケージサービスとして提供しています。 その際、登記申請の専門家である司法書士と連携して、ワンストップで対応してくれます。顧問契約をセットで契約することを条件に、設立手数料自体は無料、または実費(登録免許税など)のみで行う事務所が非常に多いです。
Q4. ストックオプションの相談にも乗ってもらえますか?
A4. はい、むしろ必ず相談すべきです。ただし、スタートアップ支援の実績が豊富な会計事務所に限られます。 ストックオプションには、税制上の優遇措置が受けられる「税制適格ストックオプション」がありますが、その要件は非常に厳格で複雑です。この設計を誤ると、将来、従業員が権利を行使した際に、多額の税金が一度に発生するなど、深刻なトラブルになりかねません。資本政策と合わせて、必ず専門家に相談してください。
まとめ
スタートアップ。それは、一つのアイデアとコードが世界を動かす可能性を秘めた、現代の錬金術です。しかし、その創造の裏側では、複雑な税務と、厳しい資金繰りという、極めて現実的な戦いが繰り広げられています。
この記事では、その戦いを一人で戦うのではなく、最強のパートナーである「スタートアップに強い会計事務所」と共に勝利を掴むための方法を、網羅的に解説してきました。
最適な税理士とは、単に正確な申告を行うだけの「守り」の専門家ではありません。スタートアップファイナンスを熟知し、あなたの会社の成長ステージとビジョンに深く共感し、資金調達という最大の武器を提供してくれる「攻め」の戦略パートナーです。VCとの強力なネットワーク、ITツールを駆使するスピード感、そして何よりも、クライアントと共に成長しようという熱いベンチャーマインドを持っています。
その最高のパートナーを見つけ出す鍵は、「業界への実績」「資金調達の支援能力」「ITリテラシー」、そして何よりも、「あなたのビジョンへの共感」を、総合的に見極めることにあります。VCや先輩起業家からの紹介といった、この業界ならではのチャネルを最大限に活用し、直接対話する中で、「この人になら、事業の未来を託せる」と心から信頼できる相手を、選び抜いてください。
会計事務所に支払う費用は、コストではありません。あなたの会社の未来を創るための資金を調達し、経営者がコア業務に集中できる環境を手に入れ、事業の成長スピードを加速させるための、極めて価値の高い「投資」です。
この記事が、あなたの税理士探しという重要な航海の確かな羅針盤となり、あなたの創り出すサービスやアプリが、世界中の人々を熱狂させる未来へと繋がる一助となれば幸いです。まずは、勇気を出して、無料相談の扉を叩くことから始めてみてはいかがでしょうか。あなたの冒険は、ここから始まります。
税理士をお探しの方は、宮嶋公認会計士・税理士事務所へお問合せください(初回無料相談)
この記事の作成者 宮嶋 直 公認会計士/税理士 京都大学理学部卒業後、大手会計事務所であるあずさ監査法人(KPMGジャパン)に入所。その後、外資系経営コンサルティング会社であるアクセンチュア、大手デジタルマーケティング会社であるオプトの経営企画管掌執行役員兼CFOを経験し、現在に至る。
