企業経営という長い航海において、税理士は単なる事務作業の代行者ではなく、羅針盤となり、時には共に嵐に立ち向かう航海士のような存在であるべきです。会社の財務状況を誰よりも深く理解し、専門的な知見をもって経営者の意思決定を支え、事業の成長を共に喜ぶパートナー。それが、理想の税理士像と言えるでしょう。
しかし、現実には、現在の顧問税理士に対して、「期待していたサポートが得られていない」「コミュニケーションがうまく取れない」「もっと未来志向の提案が欲しい」といった、様々な不満や疑問を感じている経営者も少なくありません。長年の付き合いや義理から、その不満に蓋をして関係を続けているケースも多いのではないでしょうか。
税理士の変更は、決してネガティブな行為ではありません。むしろ、事業が新たなステージに進む時や、経営者がより高いレベルのサポートを必要とした時に行われる、極めて前向きで戦略的な経営判断です。最適なパートナーと組むことで、これまで見えなかった経営課題が明らかになったり、新たな節税策によってキャッシュフローが改善したりと、会社を大きく飛躍させるきっかけになり得ます。
この記事では、税理士の変更を一度でも考えたことのある全ての経営者の皆様が、その決断と行動に自信を持てるよう、あらゆる疑問や不安に答えるための完全ガイドを提供します。税理士はそもそも変更できるのかという基本的な問いから始まり、変更を検討すべき具体的なサイン、円滑な手続きの方法、そして最高の新しいパートナーを見つけ出すためのポイントまで、網羅的かつ詳細に解説していきます。
この記事を読み終える頃には、あなたは税理士変更という重要な経営判断を、確信を持って進めるための具体的な道筋を手にしているはずです。
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税理士を変える際のポイントについて徹底解説
税理士は変更可能か?
まず、最も基本的かつ重要な問いにお答えします。答えは明確に「はい、いつでも変更可能」です。
税理士と会社との間で結ばれる契約は、法的には「業務委託契約(準委任契約)」にあたります。これは、雇用契約のように簡単には解雇できない関係とは全く異なり、原則として当事者双方の意思によって、いつでも解約することができます。例えば、あなたが体調を崩した時に、より専門性の高い医師を探して病院を変えるのと同じように、会社の経営状態を診断し、治療するパートナーである税理士を、経営者自身の判断で自由に選び、変更することは、正当な権利なのです。
多くの経営者が税理士の変更をためらう理由として、「長年お世話になっているから申し訳ない」「前の税理士との人間関係が悪化するのが怖い」「引き継ぎが大変そう」といった、心理的な障壁や手続き上の不安が挙げられます。これらの気持ちは十分に理解できますが、その感情に流されて、自社の成長機会を損失してしまうことは、経営者として本末転倒と言わざるを得ません。
税理士との関係は、あくまでビジネス上のパートナーシップです。提供されるサービスの価値と、支払う報酬が見合っていない、あるいは、自社の成長ステージに対して、税理士の専門性が追いついていないと感じるのであれば、その関係を見直すことは、経営者としての当然の責務です。
税理士の変更は、決して後ろめたい行為ではなく、会社をより良い未来へ導くための、積極的で健全な経営判断であるということを、まず心に留めておいてください。
税理士の変更を検討する背景
経営者が「税理士を変えたい」と感じる瞬間は、突然訪れるものではなく、日々の小さな不満や疑問の積み重ねの結果であることがほとんどです。具体的に、どのような状況が税理士変更の引き金となるのでしょうか。ここでは、多くの経営者が抱える典型的な背景を、いくつかの側面に分けて深掘りしていきます。もし、一つでも当てはまる項目があれば、それはあなたの会社が、関係性を見直すべきサインかもしれません。
コミュニケーションに関する不満
税理士とのパートナーシップの基盤は、円滑なコミュニケーションです。この基盤が揺らいでいる場合、どんなに優れた専門知識も宝の持ち腐れとなってしまいます。
レスポンスが遅く、相談したい時に捕まらない
ビジネスの世界では、スピードが命です。急な資金需要や、取引に関する税務上の判断など、すぐに専門家の意見を聞きたい場面は頻繁に訪れます。そんな時に、メールを送っても数日返信がなかったり、電話をしても「担当者不在」が続いたりするようでは、経営のボトルネックになりかねません。迅速なレスポンスは、クライアントに対する真摯な姿勢の表れであり、これが欠けているのは問題です。
説明が専門用語ばかりで理解できない
税理士から渡される試算表や決算書を見て、その数字の意味を自分の言葉で説明できますか。税理士が専門用語を並べるだけで、経営者が理解できる言葉に翻訳してくれない場合、経営者は自社の経営状態を正しく把握することができません。これでは、的確な経営判断を下すことは不可能です。優れた税理士は、難しい会計や税務の話を、経営者のレベルに合わせて平易な言葉で説明する「翻訳能力」を持っています。
相談しにくい雰囲気や高圧的な態度
税理士は、会社の最もデリケートな情報に触れる存在です。そのため、経営者が心理的な安全性をもって、どんな些細なことでも気軽に相談できる関係性が不可欠です。「こんな初歩的なことを聞いたら、馬鹿にされるのではないか」と感じさせたり、常に上から目線で指導するような態度を取ったりする税理士は、パートナーとして不適格です。経営者に寄り添い、共に悩んでくれる姿勢があるかどうかが重要です。
サービス内容・品質に関する不満
支払っている顧問料に対して、見合った価値、つまり質の高いサービスが提供されているかどうかも、重要な判断基準です。
節税や経営改善の提案が全くない
毎月、あるいは決算の時に、ただ数字を処理して申告書を作成するだけ。このような税理士は、単なる「作業屋」に過ぎません。真のパートナーは、その数字を分析し、「この経費はもっと削減できる可能性があります」「来期はこのような税制優遇が使えそうです」といった、未来に向けた具体的な節税策や経営改善の提案を、プロアクティブに行ってくれるはずです。何も提案がないのは、あなたの会社の経営に興味がない、あるいは、提案できるだけの能力がないかのどちらかです。
自社の業界やビジネスモデルへの理解が浅い
IT業界と建設業界では、ビジネスの慣習も、税務上の論点も全く異なります。自社の業界特有の事情を理解せず、一般的な会計処理しかできない税理士では、的確なアドバイスは期待できません。例えば、IT業界であればソフトウェア開発費の会計処理、建設業であれば工事進行基準など、専門的な知識が求められます。あなたのビジネスに情熱を持ち、深く学ぼうとする姿勢があるかを見極める必要があります。
月次決算の報告が遅すぎる
月次決算は、会社の経営状態を示すタイムリーな健康診断書です。しかし、その報告が翌々月になるなど、あまりにも遅いようでは、経営判断の材料として役に立ちません。クラウド会計などを活用し、遅くとも翌月の中旬までには月次報告を行い、経営者と議論する体制がなければ、変化の速い時代に対応することはできません。
料金に関する不満
提供されるサービスと、支払う報酬のバランスが取れているか、という視点も不可欠です。
顧問料がサービスの価値に見合っていない
「月額5万円を支払っているが、年に数回しか連絡がなく、実質的には決算申告しかしてもらっていない」といったケースは、典型的な不満の例です。ただ漫然と顧問料を支払い続けるのではなく、その対価として、どのような価値が提供されているのかを、冷静に評価する必要があります。
料金体系が不明瞭で、追加請求が多い
顧問料の範囲が曖昧で、決算料や年末調整、税務相談などのたびに、高額な追加料金を請求されるケースも問題です。契約時に、どのサービスにいくらかかるのかが明確に提示され、納得感のある料金体系になっているかを確認することが重要です。
事業の変化への対応不足
会社は生き物であり、常に成長し、変化します。その変化に、税理士がパートナーとして追随できているでしょうか。
会社の成長ステージに対応できていない
創業期には親身に相談に乗ってくれた税理士も、会社が成長し、資金調達や組織再編といった、より高度な課題に直面した時に、対応できなくなるケースがあります。自社のステージが上がるにつれて、税理士にもより高いレベルの専門性が求められます。
事業承継や相続といった新たな課題に専門性がない
経営者の年齢が上がり、事業承継や相続が現実的なテーマとなった時、それらの分野(資産税)に全く専門性がない税理士もいます。資産税は、法人税務とは全く異なる高度な知識と経験を要するため、その分野に強い専門家への切り替えが必要になるタイミングです。
税理士を変えるタイミング
税理士の変更を決意したとして、では、いつ行動に移すべきなのでしょうか。円滑な引き継ぎを実現し、自社の不利益を最小限に抑えるためには、適切なタイミングを見極めることが非常に重要です。
決算申告が終わった直後
最も一般的で、トラブルが少ない理想的なタイミングが、事業年度の決算申告が完了した直後です。このタイミングであれば、一年間の会計処理と税務申告という大きな区切りがついており、現在の税理士の業務は完了しています。
新しい事業年度が始まるタイミングで、新しい税理士にバトンタッチすることで、期中の会計処理をスムーズに引き継ぐことができます。また、現在の税理士に対しても、一年間お世話になった感謝を伝えやすく、円満な解約に繋がりやすいというメリットもあります。多くの企業が、このタイミングで税理士の見直しを行っています。
事業の大きな節目
会社の状況が大きく変わる、事業の転換点も、税理士を変更する良い機会です。これまでのやり方やパートナーを見直し、新たなステージにふさわしい専門家を迎えることが、成長を加速させます。
法人化(法人成り)を検討する時
個人事業主から法人へ移行する「法人成り」は、税務や社会保険の手続きが大きく変わるタイミングです。法人設立の実績が豊富な税理士に、設立手続きからその後の顧問までを一貫して依頼することで、スムーズな移行が可能になります。
大規模な資金調達を計画している時
金融機関からの融資や、ベンチャーキャピタルからの出資など、大規模な資金調達を計画している場合、その分野に強い税理士のサポートは不可欠です。金融機関や投資家を納得させる事業計画書の作成や、資本政策の立案など、専門性の高いスキルが求められます。
事業承継の準備を始める時
後継者への株式移転や、相続税対策といった事業承継の準備は、非常に専門的で、長い時間を要します。現在の税理士にその専門性がないと判断した場合、一日でも早く、資産税に強い税理士に相談を始めるべきです。
申告期限まで余裕がある時期
税理士の変更には、新しい税理士が過去の会計データや申告内容をレビューし、会社の現状を把握するための時間が必要です。そのため、決算期や確定申告の繁忙期(法人の場合は決算月の前後、個人の場合は1月~3月)の真っ只中に変更を行うのは、避けるのが賢明です。
新しい税理士に十分な準備期間を与え、余裕を持った引き継ぎを行うためにも、決算期から数ヶ月離れた、比較的閑散な時期を選ぶと良いでしょう。
不満を感じた「今」が行動の始まり
最適な「変更」のタイミングは決算後かもしれませんが、最適な「行動開始」のタイミングは、あなたが不満を感じた「今この瞬間」です。タイミングを待ちすぎて、貴重な節税の機会を逃したり、経営判断が遅れたりしては元も子もありません。
現在の税理士への不満点を整理し、新しい税理士の情報収集や、候補者との面談といった準備は、すぐにでも始めることができます。そして、じっくりと比較検討した上で、決算後などの最適なタイミングで、スムーズに切り替えを実行するという計画的な進め方が、最も成功確率の高い方法です。
税理士を変えるメリット
税理士の変更は、手間やコストがかかる一方で、それを補って余りある、大きなメリットを会社にもたらす可能性があります。それは、単に担当者が変わるという以上の、経営の質そのものを変革する力を持っています。
新たな視点による経営改善と成長促進
長年同じ税理士と付き合っていると、良くも悪くも関係が固定化し、経営に対する見方も一定のパターンに陥りがちです。新しい税理士を迎えることは、会社に新鮮な風を吹き込み、これまで気づかなかった経営の課題や、新たな可能性を発見する絶好の機会となります。
客観的な第三者の視点から、改めて財務諸表を分析してもらうことで、「この部門の利益率が、業界平均より著しく低い」「このコストは、もっと削減できるのではないか」といった、的確な指摘が得られることがあります。こうした新たな気づきが、経営改善の具体的なアクションに繋がり、事業の成長を加速させます。
節税効果の向上とキャッシュフローの改善
税法は非常に複雑で、税理士によっても知識の深さや得意分野が異なります。以前の税理士が見逃していた、あるいは、知らなかった税制上の優遇措置や特例を、新しい税理士が発見してくれるケースは決して珍しくありません。
例えば、研究開発税制や、中小企業投資促進税制といった、適用できれば大きな節税に繋がる制度の活用を提案されたり、減価償却の方法を見直すことで、キャッシュフローが改善したりすることもあります。節税によって手元に残る資金が増えれば、それを新たな投資や、従業員の待遇改善に回すことができ、経営の好循環が生まれます。
資金調達力の強化と金融機関からの信用の向上
資金調達に強い税理士は、金融機関が融資審査でどのような点を重視するかを熟知しています。彼らのサポートを受けて作成された、実現可能性の高い事業計画書や、精緻な資金繰り計画書は、金融機関からの信用を格段に高めます。
また、税理士が持つ金融機関の支店長や担当者とのネットワークを活用することで、融資の相談がスムーズに進むことも期待できます。会社の成長ステージにおいて、円滑な資金調達は生命線です。その成功確率を高められることは、非常に大きなメリットです。
経営者の精神的負担の軽減とモチベーションの向上
何よりも大きいのが、経営者の精神的なメリットです。気軽に何でも相談でき、迅速かつ的確なレスポンスをくれるパートナーがいるという安心感は、計り知れません。税務や会計に関する不安やストレスから解放されることで、経営者は本来注力すべき、事業の未来を創造するという、創造的な活動にエネルギーを集中させることができます。また、自社のビジョンに共感し、共に成長を目指してくれるパートナーの存在は、経営者の孤独を癒し、日々のモチベーションを大きく高めてくれるでしょう。
バックオフィス業務のDX化と効率化
ITツールに詳しい新しい税理士を迎えることで、旧態依然とした経理業務を、一気にデジタルトランスフォーメーション(DX)できる可能性があります。クラウド会計の導入はもちろん、請求書発行システムや、経費精算システムとの連携などを提案してもらうことで、バックオフィス業務は劇的に効率化されます。これにより、管理コストの削減だけでなく、経営状況のリアルタイムな可視化も実現します。
税理士を変えるデメリット
税理士の変更は、多くのメリットをもたらす可能性がある一方で、いくつかのデメリットやリスクも伴います。これらの点を事前に理解し、対策を講じることが、変更を成功させるためには不可欠です。
新しい税理士を探すための時間と労力
自社に最適な税理士を見つけ出す作業は、決して簡単なことではありません。インターネットで情報を収集し、候補者をリストアップし、複数の税理士と面談を行い、見積もりを比較検討する。この一連のプロセスには、相応の時間と労力がかかります。日々の業務に追われる経営者にとって、この負担は決して小さくないでしょう。この手間を惜しんで、安易に次の税理士を決めてしまうと、結局また同じ不満を抱えることになりかねません。
引き継ぎに伴うリスクと一時的な混乱
税理士の変更で最も神経を使うのが、新旧の税理士間での業務の引き継ぎです。現在の税理士が、解約を快く思わず、非協力的な態度を取る可能性もゼロではありません。過去の資料の返却が遅れたり、必要なデータがスムーズに提供されなかったりすると、新しい税理士の業務開始が遅れ、一時的に社内の経理業務が混乱するリスクがあります。このリスクを最小化するためには、円満な解約と、丁寧なコミュニケーションが不可欠です。
一時的なコストの増加
より質の高いサービスや、専門的なコンサルティングを求めると、顧問料が現在よりも高くなる可能性があります。また、新しい税理士との契約時に、初期費用や契約金が必要となる場合もあります。
さらに、新しい税理士が過去の申告内容をレビューした結果、重大な誤りが発覚し、修正申告が必要になるケースもあります。この場合、追加の納税や、修正申告書の作成費用といった、予期せぬコストが発生する可能性があります。これは、長期的に見ればリスクを解消するメリットですが、短期的なキャッシュアウトはデメリットと感じられるでしょう。
新しいパートナーとの相性のミスマッチ
面談を重ね、慎重に選んだつもりでも、実際に付き合ってみたら、コミュニケーションのスタイルや、仕事の進め方が合わなかった、というミスマッチのリスクは常に存在します。人間同士の関係である以上、相性の問題は避けられません。もし、新しい税理士ともうまくいかなかった場合、再び変更するとなると、さらなる時間とコスト、そして精神的な負担がかかることになります。
これらのデメリットを理解した上で、それでもなお、変更によって得られるメリットの方が大きいと判断できるかどうかが、決断の分かれ目となります。
税理士の変更を検討した方が良い人
これまでの内容を踏まえ、特にどのような状況にある経営者が、税理士の変更を具体的に検討すべきなのでしょうか。以下に挙げる項目に、一つでも強く当てはまる方は、勇気を出して、新たなパートナー探しへの一歩を踏み出すことをお勧めします。
税理士からの提案を一度も受けたことがない経営者
顧問契約を結んでいるにもかかわらず、節税対策や、資金繰りの改善策、活用できる補助金制度など、税理士側からの具体的な提案を、一度も受けたことがない。毎月、ただ試算表が送られてくるだけ、あるいは、年に一度、申告書にサインをするだけの関係になっている。このような場合、あなたは税理士の価値を、全く享受できていません。
税理士と話しても、経営が良くなる気がしない経営者
税理士との面談が、ただの数字の確認作業に終わってしまい、自社の未来が明るくなるような、前向きな議論ができていない。専門用語ばかりで話が理解できず、質問するのも億劫になっている。このような状態では、税理士は経営のパートナーではなく、むしろ成長の足かせになりかねません。
事業が急成長し、税理士の対応に不安を感じる経営者
売上が急増し、従業員も増え、ビジネスが新たなステージに入った。しかし、現在の税理士は、相変わらず昔ながらのやり方で、会社の成長スピードについてこられていない。資金調達や、新たな管理体制の構築といった、新しい課題について相談しても、的確な答えが返ってこない。このような場合は、会社のステージに合った、より高い専門性を持つ税理士への切り替えが急務です。
事業承継やM&Aなど、特殊な課題に直面している経営者
経営者の高齢化に伴い、事業承継が現実的な課題となっている。あるいは、事業の売却(M&A)や、組織再編といった、高度な経営判断を迫られている。これらの課題は、法人税務とは異なる、極めて専門的な知識と経験を要します。現在の税理士にその専門性がないのであれば、手遅れになる前に、その分野のプロフェッショナルに相談すべきです。
より良いパートナーシップを求める、すべての前向きな経営者
現在の税理士に、大きな不満があるわけではない。しかし、「もっと良いパートナーがいるのではないか」「もっと自社の成長に貢献してくれる専門家がいるのではないか」と、常に上を目指す探求心を持っている。このような前向きな経営者にとって、税理士の見直しは、自社の可能性をさらに広げるための、有効な戦略の一つとなり得ます。
税理士を変えるための手続
税理士の変更を決断したら、次はいよいよ実際の手続きです。円滑な移行を実現するためには、正しい手順と、丁寧なコミュニケーションが不可欠です。ここでは、具体的なプロセスを、ステップごとに解説します。
ステップ1:新しい税理士を探し、内定させる
これが、変更プロセス全体で最も重要で、最初に行うべきことです。現在の税理士に解約を伝える前に、必ず次のパートナーとなる税理士を見つけ、契約の内定を取り付けておかなければなりません。
税理士がいない「空白期間」を作ってしまうと、その間に税務調査の連絡が来たり、申告期限が来てしまったりした場合に、対応が困難になります。新しい税理士候補との面談の際には、「現在、顧問税理士がいますが、変更を検討しています」と正直に事情を話し、スムーズな引き継ぎが可能かどうか、協力を得られるかを確認しておきましょう。
ステップ2:現在の税理士への解約の申し出
新しい税理士が決まったら、いよいよ現在の税理士に解約の意向を伝えます。
契約書を確認する
まず、現在の税理士と交わした契約書を確認し、「解約」に関する条項を読みます。特に、「解約の申し出は、何ヶ月前までに行う必要があるか」という、解約予告期間の定めは重要です。通常は、1ヶ月から3ヶ月前とされていることが多いです。この期間を守ることが、円満な解約の基本です。
解約の意思を伝える
解約の意思は、まずは電話や面談で直接伝えるのが丁寧ですが、後々のトラブルを防ぐためにも、必ず**書面(解約通知書)**でも通知するようにしましょう。メールと合わせて、内容証明郵便で送付すると、より確実です。
その際、不満点を感情的にぶつけるのではなく、「これまでお世話になりました」という感謝の気持ちを伝えつつ、「会社のステージの変化に伴い、新たな専門性が必要となったため」といった、前向きな理由を簡潔に説明するのが、円満な関係を保つコツです。
ステップ3:業務の引き継ぎと資料の返却依頼
解約を申し出ると同時に、新しい税理士への業務引き継ぎと、資料の返却を依頼します。
必要な資料をリストアップする
新しい税理士と相談し、引き継ぎに必要となる資料のリストを作成します。一般的には、以下のような資料が必要となります。
- 過去3~5期分の確定申告書・決算書の控え
- 総勘定元帳(過去3~5期分)
- 年末調整関連の書類(扶養控除等申告書など)
- 給与台帳、源泉徴収簿
- 償却資産台帳
- 税務署への各種届出書の控え
新旧税理士間での直接のやり取りを依頼する
会計データの引き継ぎ(特に会計ソフトのデータ移行)など、専門的な作業については、経営者が間に入るよりも、新旧の税理士間で直接やり取りしてもらうのが、最もスムーズで確実です。新しい税理士から、現在の税理士へ連絡を取ってもらうよう、お願いしましょう。クラウド会計ソフトを利用している場合は、アカウントの管理者権限の移行手続きが必要になります。
ステップ4:税務署等への届出
税理士が変更になった際、経営者自身が税務署に何か特別な届出をする必要は、基本的にはありません。税務申告の代理権限を示す「税務代理権限証書」は、申告書を提出する都度、添付されるものです。新しい税理士が、次の申告を行う際に、自らを代理人とする証書を提出することで、税務署側も代理人が変更されたことを認識します。
新しい税理士を探すための方法
税理士の変更を成功させるためには、次のパートナーとなる新しい税理士を、いかにして見つけ出すかが最大の鍵となります。変更を前提とした、効果的な探し方を具体的に解説します。
インターネット検索
最も手軽で、豊富な情報が得られる方法です。検索の際には、キーワードを工夫することが重要です。「税理士 変更 相談」といった直接的なキーワードや、「IT業界 強い 税理士」「事業承継 専門」のように、自社の業種や、直面している課題を掛け合わせて検索しましょう。
候補となる税理士事務所のウェブサイトでは、「お客様の声」や「解決事例」を重点的にチェックします。自社と似たような課題を抱えていた企業が、税理士を変更して成功した、といった事例が掲載されていれば、非常に参考になります。
税理士紹介サービスの活用
「自分で探す時間がない」「客観的な視点で選びたい」という経営者には、税理士紹介サービスが有効です。専門のコーディネーターに、「現在の税理士には、こういう不満があり、次の税理士には、こういうことを期待している」と、具体的な要望を伝えることが成功の秘訣です。
コーディネーターは、あなたの要望を基に、登録されている多くの税理士の中から、最適な候補者を複数紹介してくれます。面談の日程調整や、断りの連絡も代行してくれるため、忙しい経営者の心理的・時間的負担を軽減できます。
金融機関や信頼できる経営者仲間からの紹介
自社のビジネスを深く理解してくれている、取引金融機関の担当者に相談するのも、非常に有効な方法です。金融機関は、多くの企業の財務状況を見ており、どの税理士がクライアントの成長に貢献しているかを、客観的に評価しています。
また、同業種で、自社よりも少し先のステージに進んでいる、信頼できる経営者仲間に紹介を依頼するのも良いでしょう。実際にサービスを利用している人からの、リアルな評判は何よりも信頼できます。
セミナーや勉強会への参加
自社が抱える課題(例えば、資金調達やDX化)に関するセミナーに参加し、そこで講師を務める税理士の専門性や、話の分かりやすさ、人柄を直接確認するのも、出会いの良い機会です。セミナー終了後、個別相談などを通じて、直接コンタクトを取ることができます。
税理士を変える際のポイント
税理士の変更という重要なプロジェクトを成功に導き、後悔のない選択をするために、最後に、最も重要な心構えとポイントをまとめます。
なぜ変えたいのか、次はどうなりたいのかを明確にする
変更を成功させるための全ての出発点は、ここにあります。現在の税理士に対する不満点を具体的に言語化し、それに基づいて、新しい税理士に求める条件(Must要件とWant要件)を、明確に定義しましょう。この軸がブレなければ、数多くの候補者の中から、自社にとって本当に必要なパートナーを見つけ出すことができます。
複数の候補者と必ず面談し、徹底的に比較する
どんなに評判の良い税理士でも、実際に会って話してみなければ、その真価や相性は分かりません。面倒でも、最低でも2~3人の税理士と面談の機会を持ちましょう。そして、同じ質問を投げかけてみて、その回答の質や、説明の分かりやすさを比較検討します。料金だけでなく、専門性、提案力、コミュニケーションの快適さといった、多角的な視点で、総合的に判断することが重要です。
円満な引き継ぎこそが、成功の鍵
現在の税理士との関係を、感情的にこじらせてしまうと、引き継ぎがスムーズに進まず、自社が不利益を被ることになりかねません。たとえ不満があったとしても、これまでの感謝の気持ちを伝え、礼儀を尽くして、円満な関係のまま解約することが、プロの経営者の振る舞いです。円滑な引き継ぎに協力してもらうためにも、最後まで良好なコミュニケーションを心がけましょう。
「安さ」だけで選ぶと、必ず失敗する
顧問料が安いことは、一見魅力的に見えるかもしれません。しかし、税理士の報酬は、提供されるサービスの質と、投入される専門家の時間に比例します。極端に料金が安い場合、サービスの質が低かったり、経験の浅い担当者がついたりする可能性が高いと考えられます。税理士の変更は、コスト削減のためではなく、事業を成長させるための投資です。目先の安さにとらわれず、長期的な視点で、費用対効果が最も高いパートナーを選ぶべきです。
まとめ
税理士の変更は、経営者が持つ正当な権利であり、会社を新たな成長ステージへと導くための、極めて重要で、前向きな経営戦略です。現在の税理士に不満や疑問を抱えたまま、貴重な時間を浪費し続けることは、会社の成長機会を自ら手放していることに他なりません。
確かに、税理士の変更には、新たなパートナーを探す手間や、引き継ぎの労力、一時的なコストといった負担が伴います。しかし、そのプロセスを乗り越え、自社のビジョンに共感し、共に未来を創造してくれる最高のパートナーと出会えた時、あなたの会社が得るメリットは、計り知れないほど大きいものとなるでしょう。
重要なのは、自分一人で抱え込まず、現状を客観的に分析し、勇気を持って行動を起こすことです。なぜ変えたいのか、次はどうなりたいのかを明確にし、慎重かつ主体的に、新たなパートナー探しを進めてください。
この記事が、税理士の変更という大きな決断に直面している、すべての経営者の皆様の背中を押し、後悔のない、最良の選択をするための一助となれば幸いです。あなたの会社の輝かしい未来は、その一歩から始まります。
税理士をお探しの方は、宮嶋公認会計士・税理士事務所へお問合せください(初回無料相談)
この記事の作成者 宮嶋 直 公認会計士/税理士 京都大学理学部卒業後、大手会計事務所であるあずさ監査法人(KPMGジャパン)に入所。その後、外資系経営コンサルティング会社であるアクセンチュア、大手デジタルマーケティング会社であるオプトの経営企画管掌執行役員兼CFOを経験し、現在に至る。
