本記事では、決算を自社で行おうか外部へ依頼(ここでは税理士を想定しています)するか悩んでいる経営者へ向けて解説を行ってきます。決算を税理士へ依頼する際のメリットや自社で行う場合どの程度の負担なのか、などについて併せて説明をしていきます。
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決算とは何か?
決算とはまず何を指しているのでしょうか?主に法人について解説していきますが、決算とは法人の年間の損益や期末時点での財務状況を示した書類を作成するものになります。前者を損益計算書と言い、後者を貸借対照表と言います。そのほかにもキャッシュフロー計算書や注記などもこの決算書に含まれてきます。決算を行うにあたっては、まず日々の取引を記録した記帳作業というものが必要になってきます。こちらは取引の都度、入手する証憑類(領収書や請求書などをイメージしてください)に基づいて会計ソフトで仕訳を起こしていく作業になります。
これらの仕訳が積み上がると、まずは月次で決算を行うことが可能になります。これは月次でどの程度損益が発生しているのか(つまり売上・利益がいくらになっていて、費用はどの程度発生しているのかを把握することができる)を把握して、月末時点での財務状況(現金がいくらあって、借入金の残高がどの程度残っているかなどの状況を把握することができます)を把握するものになります。損益計算書と貸借対照表の概念は年間のそれと全く同じになります。
月次決算が1年分積み上がると先述した年間の損益計算書と貸借対照表が作成できます。この損益計算書と貸借対照表が一般的にいう、決算になります。決算を作成した後で、税務申告の手続きになります。法人の確定申告の場合には決算で確定した利益を税務上の考え方に沿って調整していくことで、法人税法上の課税所得を計算し、税額を計算していくことになります。そのため、決算を正しく作成する、さらには適切に帳簿を作成することは、正しく確定申告を行う上でも非常に重要なことになります。
決算の活用方法
決算は確定申告の基礎となるというお話をしましたが、それ以外にもさまざまな活用余地があります。具体的には、まず会社の状況を把握することができ、経営改善につなげることが可能となります。これは年間の貸借対照表や損益計算書を見るというよりは、月次の損益計算書等を推移で確認することで、さまざまな経営上の課題を抽出することが可能になるのです。単月だけ見ていても情報量が限定されるため、一般的には月次推移で傾向と異常な動きをしている項目を抽出して分析することで、課題を特定できることが多いです。
例えば、売上について季節性のあるような業種であれば、おおむね毎年特定の月の売上が高い傾向になることが推移分析で分かりますし、毎年そこまで大きくぶれていないのであれば、逆にそこに課題はないということになります。一方で、季節性ではなく売上が減少傾向になるなどした場合、今度は売上項目を分解して客単価、客数などの視点からどのような推移があるのかを確認していきます。例えば客数が明らかに減少傾向にある場合は、周辺で競合が新しく出店していないかどうかや、新規顧客とリピート顧客に分解することで新規顧客がリピート化していないなどの原因を特定することができるのです。
売上だけではなくコスト面についても月次決算から分析が可能となります。例えばある程度利益率が安定している商売であれば月次推移では利益率(=原価率)は安定的に推移することになります。一方で、利益率が異常に増減している場合などは、例えば売上が変わらなくても販売している商品の構成比率が変化したことで利益率が悪化していたり、材料費や人件費の高騰により利益率が悪化しているなどの原因を探ることが可能となります。原因がおおむね特定できれば、その項目をさらに分解することで、経営改善の施策につなげることが可能となるのです。
経営改善以外にも決算の活用余地はあります。2つ目としては金融機関への説明用です。金融機関から借入を行う場合には必ず過去や直近の決算を説明する必要があります。金融機関の視点としては併せて提出される事業計画の妥当性を検証するため、過去の売上・コスト・利益水準をしっかりと把握して整合性があるかどうかの確認、及び財務状況を把握することで現預金の水準が適切かどうか、などの検証を行います。決算が正しく組まれていないと金融機関へ説明が正しく行えないため、最悪の場合借入ができないなどの不測の事態になってしまいます。
決算は税理士へ依頼すべきか?
決算はもちろん確定申告含めて自社で作成することが可能ですが、決算を作成するためには専門的な経理知識が必要となります。また前述の分析にも専門的な知識や経験が必要となってくるため、これまで数字にあまり触れてこなかった経営者にとってはかなりハードルの高い作業になります。では決算を外部に依頼する場合に誰に依頼するのが良いのでしょうか?決算という視点からは税理士に依頼するのが良いのではと思います。これは中小企業が依頼する中で数字のプロは税理士ですし、最終的には決算に基づいて税務申告を行う必要があるので、決算から税理士へ関与してもらった方が経営者としても安心と言えます。なお税務業務は税理士の独占資格であり、税理士以外の人が税務業務を行うことは法律で禁止されています。一方で決算については独占業務ではないので、こちらはライセンスを持っていないくても対応は可能ですが、そもそも決算を組むことができるレベルの知識と経験が必要なため、税理士に依頼する一択になるでしょう。
決算を税理士へ依頼するメリット
決算を税理士へ依頼するメリットはなんでしょうか?まずは経営者が決算作成業務もしくはその基礎となる帳簿作成業務から解放され、本業に集中する時間を確保することが可能になることです。得意でもない決算や経理業務に時間をかけるよりも、売上や利益が稼げる得意な本業に時間を使った方が会社経営としては良いはずなので、税理士へ一定の報酬を払ったとしても本業に集中することのメリットはかなり大きいと思います。特に法人の決算や確定申告は個人事業主の決算・確定申告と比較して非常に複雑ですし、ちょっと勉強して正しく作成できるレベルのものではありません。また書籍社WEBの情報も個人事業主の所得税と異なり、あまり法人のものは掲載がなかったり、内容が専門的な内容だったりするので、自分で情報を集めることにも苦労するはずです。
続いてメリットとしては数字のプロに作成してもらうことで決算の数字が正しく作成されることです。正しく決算が作成されることで金融機関に対する信用が高まるという点、月次決算含めて数字を分析して経営改善に役立てる際に正しい数字に基づいてしっかりとした改善施策がとれるという点になります。そもそも数字が誤っている場合は金融機関の信頼性も高まりませんし、誤った数字に基づいて分析がなされ誤った改善施策をとる可能性もありますので、決算の数字が正しいということは非常に重要なのです。
最後に、決算の見方を税理士から指導してもらえることです。先述した月次決算を経営改善に役立てるというのも数字がしっかり分析できてはじめてできるものです。そもそも数字の見方がわからなければ、せっかく決算を行っても経営改善につながりません。経営相談を税理士と契約している場合には、決算書に基づいてどのような視点で数字を見れば良いか、どのあたりに数字上の問題がありそうかのアドバイスを受けることができますので、税理士へ依頼することで数字の見方・分析の仕方を学ぶことができ、正しい経営改善のアクションにつなげることが可能となるのです。
決算以外において税理士が対応できる業務
決算については税理士が対応可能なのと、最適な依頼先であることはご理解いただけたと思います。では決算以外の業務について税理士が対応可能な範囲をここでは説明していきます。まずは確定申告になります。確定申告を作成代行し提出できるのは税理士の独占業務になります。続いて、確定申告にも関連してきますが、税務相談になります。取引について税務上どのように処理すべきかを帳簿を作成する前に税理士へ相談することになります。
税務以外にも、例えば会計ソフトの導入支援なども税理士が対応できるフィールドです。特に記帳や決算作成を自社で行う場合、会計ソフトの導入をした方が圧倒的に作業が効率的になりますが、ただ導入しただけではあまり業務が効率的にはなりません。例えば勘定科目のマスタ設定や、銀行口座や他のシステムの自動連携でなるべく自動的に仕訳を起票する仕組み化など、普段から会計ソフトを使いこなして業務を行なっている税理士だからこそ、顧客へアドバイスが可能なのです。
会計ソフト導入支援以外にも税務以外のサービスとして例えば事業計画の作成支援があります。こちらは例えば金融機関から作成・提出が求められた際に、事業計画を作成したことがない経営者ですと、そもそもどのように合理的な事業計画を作成して説明すれば良いのかが分かりません。その際に、税理士にそもそも事業計画を丸投げして作成してもらうパターンや、経営者の作成した事業計画の合理性や整合性を税理士にチェックしてもらうパターンなど、さまざまな形で税理士に事業計画の作成に関与してもらうことがあります。
税理士が必要なタイミング
経営者にとって税理士へ依頼するベストなタイミングはいつになるのでしょうか?以下パターンをわけをして記載していきます。
法人設立のタイミング
まずは法人設立のタイミングです。法人税の申告書は個人の所得税の申告と異なり、作成の仕方がかなり複雑です。経営者ご自身でやるには難易度が高いため、税理士へ依頼することを前提に考えた方が良いです。そのため、会社摂理を検討する際が、税理士へ確定申告を依頼する良いタイミングと言えるでしょう。また以下の視点でも依頼をされたほうが良いと考えます。
まず一つ目が決算期の設定や各種定款の記載事項・資本金の設定の相談です。特に決算期は税務申告のタイミングに重要な影響を及ぼすため、慎重な検討が必要です。また資本金についても税金に大きな影響を与えるためいくらに設定すべきかは税理士と相談した方が良いかと思います。
また開業に生じた費用は税務上、創立費や開業費となり経費化することが可能です。どこまでの範囲が経費化できて、どのタイミングで経費にするのが良いのかは、経営者自信で考えるのは悩みどころだと思います。これを税理士に相談すればベストなタイミング含めてアドバイスもらえることでしょう。
ご自身で帳簿をつけられる場合には税理士から帳簿に関する指導を受けることができますし、領収書や請求書などの証憑類は保管が必要になってきますので、記録の仕方や保存の仕方含めて税理士からアドバイスを受けることができます。
さらに、シミュレーションを使ってそもそも会社設立をすべきなのか、個人事業主として続けるのが良いのかのアドバイスも税金の観点から受けることが可能なので、そもそも会社設立しても税制上はほとんどメリットがないケースというのもあるでしょう。
マイクロ法人の設立を検討されている方については、こちらの「マイクロ法人に強い税理士を検討するポイント」を参照ください。
消費税の課税事業者になるタイミング
他には、年商が1000万円もしくはインボイス事業者になると消費税申告が必要になってきますが、この消費税申告は経理経験のない方にはかなりとっつきにくい内容になっているため、税理士でないとミスが発生する可能性があります。そのため、消費税申告を行うか否かは税理士へ依頼するタイミングの1つとなります。
その他
上記以外には、年商がある程度大きくなってきて、処理が複雑になってきた、もしくは節税も併せて検討したいなどのタイミングになるかと思います。年商が大きくなれば取引も大きいため、その分経理処理も複雑になってきます。ご自身で確定申告を対応されている場合はミスが増える可能性もあります。加えて節税も検討されることになると、税理士へ相談をした方が最適な処理を確認することができるでしょう。
決算と税理士のまとめ
以上のように決算業務とは何か、決算において税理士を活用することのメリットについて記載をしてきました。本記事をご参考いただき、ぜひ決算における税理士の活用を検討してみてください。
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この記事の作成者 宮嶋 直 公認会計士/税理士 京都大学理学部卒業後、大手会計事務所であるあずさ監査法人(KPMGジャパン)に入所。その後、外資系経営コンサルティング会社であるアクセンチュア、大手デジタルマーケティング会社であるオプトの経営企画管掌執行役員兼CFOを経験し、現在に至る。